86、これまでの反省とこれから
思わず訊いてしまったけれど、まずかっただろうか。
黙り込んでしまったアルベルトに、私は少し慌てた。
もう来月には冬休みで、それが終われば3学期。三年生は卒業目前だ。
ニチカがいるので攻略対象達には婚約者がいなくて当然と思っていたが、攻略対象達はニチカに関心を示さないし、ニチカも最近ではやる気がない。お兄樣が婚約者を作らないのでお父様はやきもきしているし、他の公爵家でも嫡男に相手がいないのを危惧しているんじゃないのか。
「そうだな……」
アルベルトは独り言のように呟いた。
「卒業までには……なんとかしたい、いや、しなくちゃいけないな」
その声には決然とした意志が込められていたが、婚約者を作ることではなく別の目的について語っているように感じられた。
「夜風が冷たくなってきた。そろそろ寮に戻ろう」
アルベルトがさっと振り返って、私を促した。そのまま女子寮の入り口まで送られて、男子寮へ帰っていくアルベルトを見送った。
お兄樣といいアルベルトといい、もしや、婚約者を作らないのではなく、何かの事情で作れないでいる?
レオナルドの言葉が脳裏に蘇る。
『アレは四大公爵家の嫡男には特に執着しているから』
リリーナの目的がヒロインを差し置いて四大公爵家の嫡男と結ばれることならば、彼らに婚約者が出来たら逆恨みして婚約者を傷つけるかもしれない。私を階段から突き落としたように。
それを案じて婚約者を作らないようにしているのだとしたら、彼らは既にリリーナの危険性に気づいているということになる。
その上で、野放しにしている理由はなんだ? ガウェインの身内だから大事にしたくないだけなのか。
ガウェインといえば、やっぱりゲームのガウェインと明らかに性格が違いすぎる。ゲームでは女好きのチャラチャラした軽薄な性格だったのに、今はむしろアルベルトの後ろに控えて目立たないようにしているように思える。
リリーナが転生者であることで、オッサカー家にも変化があったのだろうか。
我が家がお兄樣の死を回避して両親との仲も円満になり、ジェンスが生存しているように。
(西で何があったのか、知っておく必要があるかもしれない……)
私はふむ、と唸った。
正直、私はゲームの知識があるがために、最初から攻略対象達にいい感情を抱いておらず、一方的に壁を作り歩み寄る姿勢を見せなかった。
でも、アルベルトがゲームとは違って私に対してなんの蟠りも抱いていないのと同じように、他の人達もゲームとは違う性格や事情を抱えているのかもしれない。
これまでは、どこかしら「ゲームのキャラだ」という先入観を捨て切れていなかった。これからは、ちゃんと一人の人間として接する。
ジェンスの笑顔を思い浮かべて、私はそう誓った。
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