47、ジェイソン・イバラッキ
「何をしている」
静まった空間に、涼やかな声が響いた。
アルベルト・トキオートが、常ならぬ厳しい顔つきでこちらへ向かってくる。
「レイシール!」
ジェンスとお兄様がアルベルトの背後から走り出てきて、人だかりが避ける。
「レイシー、大丈夫か?」
ジェンスに引き寄せられて、軽く抱きしめられる。お兄様が私を庇ってニチカの前に立ちはだかった。
「我が妹に何をしている? ホーカイド公爵家に対する不敬、俺の前で言ってみるがいい」
お兄様が激怒していらっしゃる。
「わ、私は、その……あ……アルベルト様ぁっ」
ニチカは真っ青になってアルベルトの背中に隠れた。アルベルトは困惑の表情でニチカを見やる。
「私はレイシール様にぃ、ちゃんと本当のことを言ってもらいたいだけですぅ!」
「レイシール嬢……」
アルベルトが床に落ちたハンカチと薬をちらりと見て、私を呼んだ。その様子を目にしたティアナがアルベルトに食ってかかった。
「トキオート様! これは学園で出回っていたもので、私が他の生徒から相談されたものを、レイシールに預かっていてもらったのです! 今日にも皆様にお知らせして、対策をとるつもりでした!」
ティアナの迫力に、アルベルトが目を瞬く。
「なんだこれは? 俺がレイシーに薬を盛られた? はっ、ありえないな!」
掲示板の文章を読んだジェンスが鼻で笑い飛ばした。
「じゃあ、このハンカチは何なんですか!? なんで婚約者に贈るものを他の男にあげてるんですか!?」
ニチカがやけくそみたいに叫んだ。
それに答える声は、人だかりの外から上がった。
「俺が階段から転がり落ちたところに偶然通りかかったホーカイド公爵令嬢が、怪我を見てハンカチを貸してくれたんだよ」
腕を組んだジェイソン・イバラッキが、面倒くさそうな顔で立っていた。
「この傷が証拠だ」
腫れた顔と切れた口の端を見せつけてジェイソンが言う。
「借りたハンカチは、血が付いちまったからどうしようかと思っていたんだが、……ちょっと目を離した隙に誰かに盗まれちまった」
ジェイソンは苦みばしった顔つきで掲示板を睨みつけた。
やっぱり、ジェイソンの仕業じゃなかったんだ。そうだよね。こんなことしたってジェイソンには何の得もないし。
でも、ニチカの仕業とも思えないのよね。
だって、ニチカが犯人だったら、公衆の面前で公爵令嬢を糾弾するような馬鹿なことはしないだろうし。
なんか、ニチカって迷惑なんだけど、こういう狡猾な真似はしない気がするのよね。なんとなくだけど。
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