【3】異世界転生は可能か

 表題を見て、また荒唐無稽な話を、と思われた読者も多い事だろう。だが考えてみて欲しい。19世紀にはまだ、人は空すらも飛べていなかったのだ。それ以前の人々にとっては、人が空を飛ぶことなど、夢物語にしか過ぎなかったのである。20世紀には、人類は空を飛び、宇宙へ到達した。太古の人々にとっては、もはや神の御業や神話における奇跡の類と同レベルだろう。

 科学技術の前には、必ず、夢があったのだ。空想と、それを実現しようとする強い想いがあったのである。我々人類はそうやって、今日まで歩んできた。我々の祖先が、かつて科学者達の夢見た全てを否定し続けていたら、今日の高度な科学文明は存在しなかったのである。空想を、空想でしかないと早々に結論付けてしまうのは、科学の否定に等しい、と私は考えている。

 ここに有名な言葉がある。


 『人が空想できる全ての出来事は起こりうる現実である』


 という言葉だ。フランスの作家、ジュール・ベルヌの遺した名言である。

 私の持論も全く同じで、全ての創作は、単なる空想ではなく、この世界で起こりうる現実の出来事だと考えている。読者諸君の思い描く全ての出来事は、起こりうるのだ。それも、全て現実としてだ。

 超飛躍科学的に見ていこう。


1、マルチバースと無限の可能性

 マルチバースというものをご存じであろうか。多元宇宙とも言い換えられる。端的に言えば、我々の住むこの宇宙の外に、他の宇宙が存在するという考え方だ。近年の研究で、その存在の可能性が示唆されている。

 宇宙物理学者スティーブン・ホーキング博士の研究によると、我々の宇宙の始まりは、一般相対性理論を基にした『重力と密度が無限大となるはっきりとした特異点』ではなく、時間も空間もその存在が曖昧な、滑らかなものだった可能性があるという。この、『無境界仮説』によると、我々の住むこの宇宙以外にも、無限に、泡のように宇宙が発生し続けているという予測に行きつく。

 仮に、この宇宙の外に、無限に、我々の住むこの宇宙と似たような宇宙が存在していると仮定すると、全ての可能性は起こりうると考えられる。これを前提に考えれば、『人が空想できる全ての出来事は起こりうる現実である』という言葉が一気に現実味を帯びてくるのだ。

 無限という概念は、『可能性を否定しない』と同義である。つまり、拙作『晴れの日はドラゴン日和』の世界も、泡のように連なり無限に存在する別の宇宙のどこかに実在している可能性があるのだ。

 もちろん、読者諸君が夢に描く世界も、書き記している創作の世界も、全て、この解釈なら存在しているという結論に辿り着く。魔法も、チートも、ステータスオープンも、ネコ耳獣人も、褐色エルフも、美巨乳女神も、エロサキュバスも、ツンデレ幼馴染も何でもござれだ。無限というものは、限りなく寛容で、限りなく夢がある。それに、そう考えた方が面白いではないか。


2、異世界転生は可能か

 次に、全ての異世界が存在しうるという説を前提として、異世界転生が可能か否かを考えてみる。ここまで読まれた読者諸君なら、もう答えは解っているはずだ。


 異世界転生は、可能である。


 マルチバースが無限に存在するという前提に立てば、これも当然可能なのである。魂や自我はどうなる、という質問が飛んできそうなので、先に回答を用意しておくことにしよう。


 あなたの魂と自我をそのまま受け入れて転生させる宇宙が存在する。


 これで、オッケーだ。私がいま空想したので、無限に広がるマルチバースのどこかに、その宇宙が存在することが決定した。無限は、可能性を否定しない。そして、人が想像することを全て起こりうる現実にするからだ。


3、今から異世界を創る

 以上を前提として、今から異世界を創ろうと思う。想像すれば、現実となるわけだから、創造するためには想像だけで充分だ。読者諸君も、是非お家に帰ったら試してみて欲しい。とりあえずこれから私がお手本をお見せするので、下記の手順に沿って、異世界を創造してみるといいだろう。


①まずは、どんな惑星にするかだ。地球と同じような球体でも良いし、天動説の挿絵に描かれるような、平坦な世界でも構わない。ただ、現世と同じような肉体を望むのであれば、大切なのは、呼吸が出来る事、水があること、そして食べ物が美味い事。これは条件として外せないだろう。この初期設定をミスると、転生したは良いもののどことなく息苦しかったり、度々喉が渇いてしまったり、イギリス料理のようにグロテスクで味気ないものを毎日食べ続けなければならなくなるので注意が必要だ。

 私はとりあえず王将と吉牛がある丸い星にした。この二つはどうしても外せない。あと、コンビニも出来ればあった方がよいので、ファミマとセブンを500メートル間隔で配置する事にした。後は、水が豊かで、緑がそこそこ生えていて、空気がそれなりにおいしければ充分だ。


②次に重要なのは種族だ。エルフや獣人族、見目麗しき亜人種達。この設定もかなり重要である。出来るだけ、現世の人間と同じ身体構造と見た目にしなければ後で悲惨な想いをする羽目になるだろう。特に困るのが、性行為の時である。外性器が後頭部や足の裏など変な場所にあるのは甚だ面倒であるので、保健体育の教科書を熟読し、構造を把握しておくことをお勧めする。出来れば実際に現世で経験を積むことを推奨するが、こんな学術記事を読んでいるようなタイプはそういう機会に恵まれていない人が殆どだろうし、著者である私もその気持ちは痛いほど理解できるので、皆までは言わぬ。

 私はとりあえず、動物の毛にアレルギーがあるし、耳がとんがっている人はちょっと怖いので、現世の人類と同じ見た目の種族を繁栄させることにした。言い忘れていたが、言葉が通じる事も重要である。私は母国語である日本語を選択。これでまず心配は無いだろう。ただ、異文化交流もしたいので、英語や他の外国語を話す国があっても面白い。男女比も一対一位にして、種族がそれなりに存続していけるようにと心配りは欠かさない。


③そして、魔法や、チートの存在、そして文化についての設定も忘れてはならない。あまりにも強大過ぎる魔法や、チートの存在は、その惑星のパワーバランスを崩壊させ、一気に住みづらい星へと変貌させてしまう可能性がある。なので、空を飛べるくらいが丁度よいだろう。また、文化も、現世とかけ離れ過ぎていては、馴染むまでに時間を要したり、作法を間違えて村八分にされたりと、デメリットが大きくなる。従って、なるべく現世の文化をベースにして、少し派生させるくらいが丁度よい。

 私の場合は、転生する国でもお正月とクリスマスを祝いたいので、神社仏閣と教会を設置。また、物を食べる前の『いただきます』や『ごちそうさま』など、命を尊ぶ心も大切にしたい。そういう人達に囲まれていたら、きっと暮らしやすい世界になるだろう。


4、まとめ

 いかがだっただろうか。

 私の思い描いた星は、青くて丸い美しい星だ。

 

 空気がそれなりにおいしくて、緑がそこそこあって、水が豊か。

 

 そこには様々な国が存在していて、私の転生する国では、皆が日本語を話し、食事の前後には『いただきます』と『ごちそうさま』を欠かさない。

 

 年末にはクリスマスを祝って、除夜の鐘をきき、初詣に行く。神社には他の国から観光客も沢山来てて、道を尋ねられたら丁寧に教えてあげるんだ。

 

 そして、お腹がすいたら吉牛か王将で迷って、結局コンビニで弁当を買って帰るんだけど、好きな人と「二人で食べれるならなんでもいいよね」といって微笑み合ったりして。


 あんまりお金の無い二人だけど、一緒に手を取りながら支え合って、小さな家を建てて、その内彼女のお腹が大きくなってさ、「男の子かな、女の子かな、どっちがいい?」って聞かれて、「男でも女でも、どっちでも沢山可愛がってあげようね」と言って、その子が生まれて、色々苦労してさ、たまに子育ての事で夫婦喧嘩したり、でもやっぱり仲直りして「ごめんね」「愛してる」って、ちゃんと伝えあってさ、そうしてたらいつの間にか子供も大きくなって、自分達と同じように苦悩したり、楽しんだりしてるのを見守って、たまには親らしくアドバイスしたり、そんな事も忘れて一緒に遊んだりして。そうこうしているうちに子供が好きな人を見つけて連れてきて、やがて結婚して、孫が出来て……。


 庭で孫が遊ぶのを見ながら、愛する人の手を握って、「良い人生だったね」って微笑み合って。


 最期にはきっとこう思うと思うんだ。


 転生するなら、またこの星に生まれたいなって。


【2021年2月16日 記者:N岡(財団法人 超飛躍的科学研究所)】

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