第67話 結婚式の日④
されるがまま二時間が過ぎた。
あれでもないこれでもないの試行錯誤を繰り返した結果、その場にいる全員が納得するものに仕上がった。
鏡に映る自分を見て最初に思ったのは「流石は皇城仕えの侍女達だ」ということ。
いつもよりもずっと美しく仕立てられた自分に思わず感嘆の声が漏れた。
丁寧に梳かされた銀色の長髪は普段よりも強い輝きを放っている。全体は緩く巻かれおり、上部は柔らかく編み込まれハーフアップの髪型が選ばれた。母から贈られた薔薇のバレット中央に留められておりワンポイントとなっている。
豪華に見せる髪型が選ばれなかったのは結婚式直前に皇妃のティアラを乗せられる為だ。
本来なら前皇妃に贈られる物であるが今回はレオンスに乗せてもらうことになっている。彼が代打を務める理由はティアラに触れることが許されているのは皇族のみだからだ。
薄過ぎず濃過ぎずの青を基調した化粧は切長の目を柔らかく見せるように施されており、普段よりも人相が良く感じられる。
少なくとも今の私は冷たい印象を持たれることはないだろう。
「アリア様、お綺麗です!」
「ありがとう、ウラリー。みんなが頑張ってくれたおかげよ」
見惚れるように熱い眼差しを送ってくれる侍女達。今の私を作り上げたのは彼女達なのだから誇らし気にしていて欲しいところだ。
「では、ドレスに着替えましょう」
化粧と髪に時間がかかるということでドレスの着用は後回しになっていた。この後、何時間も苦しい格好を強いられることになる私への配慮だろう。
紺色のワンピースを脱ぎ、コルセットとウエディングドレスを身に纏う。
純白のドレスは肩口が隠れるものであるが胸元が大きく開いており首元から鎖骨にかけてを艶やかに見せる物だ。腰にはシルクと真珠で作り上げられたコサージュが乗せられている。精緻に仕立てられた最高級品のレースがいくつも重ねられたスカート。その所々にはエクレール公爵家の家紋にも用いられている稲妻模様が施されている。これはレオンスの気遣いで刻まれたらしい。そして引き摺る裾は歩けば薔薇の大輪が咲く仕掛けだ。
「ウラリー、これを付けてもらえる?」
昨日、父からもらったブローチが入った小さな箱を渡すとウラリーは首を傾げる。
「こちらは?」
「父から結婚祝いとして頂いた物なの」
せっかくの頂き物。ぜひ結婚式で付けたいと思っていたのだけどウラリーから反対されたら無理強いは出来ない。不安になっているとウラリーは満面の笑みを浮かべて「畏まりました」と頷いてくれた。
「折角ですからエクレール公爵がいらっしゃる際に付けて頂きましょう」
「そうね!」
流石はウラリーだ。いい意見を言ってくれる。笑顔で返すと周囲からは再び感嘆の声が漏れた。若干頰を赤らめた侍女達はそわそわした様子だ。
これで大半の準備は終わりとなる。後は式直前に軽く直してもらうくらいだろう。
「みんな、ありがとう」
深々と頭を下げた侍女達は足早に部屋を出て行ってしまう。きゃっきゃと楽しそうな声を漏らしていた気がするけど。
一体なんだったのかしら。
よく分からないが彼女達にはお世話になった。後日お礼を贈らせてもらおうと思う。
「全くあの子達は…」
「楽しそうだったわね」
「はしゃぎ過ぎですよ。後で叱っておきますね」
「別に良いじゃない」
嫌々と準備をされたら流石に落ち込むけど楽しそうにしてもらったのだ。叱るようなことではない。ウラリーは深く溜め息を吐いて「アリア様がそう仰るのでしたら…」と納得してくれた。
「そういえばリシュー様はどちらに?」
化粧が終わる直前までいた気と思うけど気がついたらいなくなっていたリシュエンヌの姿を探す。首を傾げるウラリーも知らないようだ。
「聞いて参りましょうか?」
「ううん、平気よ」
リシュエンヌの魔力の位置を確認する。どうやら聖堂の外で招かれざる客人と戦っているようだ。
「今日は余計な客人が多いわね」
「仕方ないですよ。陛下が到着されたら誰も近寄れなくなりますからその前にアリア様を亡き者としようとする愚か者が多いのです」
ロゼ公爵邸で見せた魔法によって私に危害を加えようとする者は格段に減ったがそれでも残っているのだ。
それにしてもレオンスが到着する前に私を殺そうとするとは悪足掻きも過ぎるだろう。
「そういえばレオ様はいつ頃到着されるの?」
「もうそろそろ到着されるはずですよ」
レオンスがウエディングドレス姿の私を見たらどんな反応をするのだろうか。
綺麗だと一言もらえたら十分だ。
「どうかされましたか?」
「ううん、なんでもないわ」
窓の方を見れば朝日が差し込み始めていた。
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