言葉あそび

 多くの魔王と人類に多大な影響を与えた魔王祭カオスフェスティバルの終息から、30日。


 俺は、失った配下や物資の補充や、防衛ラインの見直し、更には新たに増えた新潟の支配領域の整備など、積み重なる内政に日々を追われていた。


「戦力を整えるだけで、CPは尽きるな」

「インフラにも予算を割かないと……マサコ先生が泣いちゃいますよぉ」

「いやいや、田村女史は泣かねーだろ……」

「でもぉ、シオンさんが優れた国造りをした影響で元人類の皆さまにも愛国心が芽生え、結果として今回の勝利に繋がったじゃないですかぁ」


 自ら参戦を望んだ元人類――民の力は想定以上に強大だった。あの結果を見れば、インフラを蔑ろにすることはできない。


「……面倒だな。領地関連のインフラは……田村女史の権限を増やすとするか……」

「必殺丸投げですかぁ」

「防衛に関しては、ヤタロウの――」

「無理じゃ……儂も手一杯じゃ。仮に運命の日の周期を毎日すると言われても……むむ? 毎日か……一考の価値ありじゃな」

「ありじゃな……じゃねーよ! CPがそんだけ余ってたら、こんなに苦労しねーよ」


 今回の魔王祭で思い知ったのは、数は力。


 特殊制限がなくなった今、数は絶対的な力となっていた。


 しかし、無闇矢鱈と配下の数を増やすのは、下策だ。ある程度の質は必要となる。また、配下は生き物だ。生き物である以上、生きるためには、それなりのランニングコストが生じる。


 ゴブリンも地道にレベルを上げ、進化すれば強いが……今だと地道にレベルを上げる前に殺されてしまう。そうなると、創造する配下はダンピールかウェアウルフ……後は数にモノを言わせるグールかの、三択になる。


 んで、更に武器に防具だろ……。


 ちょっと戦力を整えようと思うと、あっという間にCPは枯渇してしまう。


「ふぅ……少し疲れたな。休憩する」

「はーい。無理は禁物ですよぉ」

「儂も少し休憩するかのぉ」


 俺が休憩を宣言し、自室へと戻ることにした。



  ◆



 自室に戻った俺はソファに深く腰を落とした。


 気分転換のためのリラックス方法。


 人によっては、ゲーム、読書、運動……はたまたドライブなど様々な手法が存在する。


 実際に俺もタスクに勧められたゲームをプレイしてみたり、サブロウに勧められたWEB小説や漫画を読んだり、コテツと共に鍛錬をしたこともあったし、タカハルから二輪の操作方法を学んでツーリングなども試みたこともあった。


 どれも楽しかったが、俺は元来ハマり症だ。


 俺の置かれた立場では、ハマることは許されず、すべてが中途半端となり……継続されることはなかった。


 そんな俺に残されたリラックス方法は、掲示板の閲覧とチャットだった。


 カノン曰く、そんなものは業務の延長上で娯楽ではないらしいが……俺からすれば立派な気分転換になっていた。


 というわけで、慣れた手つきでスマートフォンを操作し、ラプラスにログイン。上級魔王スレッドを閲覧。


 スレッドの住人たちは中身が本当に十三凶星ゾディアックなのかと疑うほどに、相変わらずの平和ボケした書き込みが残されていた。


 ひょっとしたら、あいつらもこのスレッドには、情報と……それ以上に精神の調和――癒しを求めているのかもな。


 掲示板に書き込みをしてもいいが……たまにはこちらから発信してみるか。


 俺はラプラスを閉じて、最近新たにインストールしたチャットアプリを起動。


 パスワードを入力し、生体認証にてログインをすると、唯一繋がれている部屋――魔王ミユとのチャット画面を開いた。


 サブロー:調子はどうだ?


 俺からの始まりの言葉はいつもコレだった。


 文章を入力してから暫く待つと、軽快な電子音と共に……、


 ニーナ:お? サブローちゃんからとは珍しいwww俺様が恋しくなったか? www


 いつもの憎まれ口が返ってきた。


 俺としては、シオン、ミユでいいのだが……魔王ミユの希望もありHNサブローとニーナで会話をしていた。


 サブロー:こちらは別段変わりはない。そっちは、何か新しい情報とかないのか?


 ニーナ:俺様の発言は無視かよwwwそうだな、新しい情報か……ねーよ! 昨日もチャットしただろうがwww


 サブロー:そうか


 このままでは、会話が終わってしまうな。


 時として、顔を見ずに会話をするのは難しいな。


 ニーナ:コミュ障かよwww仕方ねーな……話題を提供してやるよ


 サブロー:ほぉ


 ニーナ:実は前から疑問に思っていたんだが……


 サブロー:何だ?


 ニーナ:サブローちゃんの知識っていくつだ?


 ニーナの語尾から草が消えた。どうやら、真面目な会話をお望みのようだ。


 とは言え……、


 サブロー:ステータスを聞くのは、マナー違反じゃないか?


 さすがに、質問内容が無粋すぎる。


 俺と魔王ミユは同盟関係にあるとはいえ、さらりと答えていい質問ではない。


 ニーナ:まぁ、引っかからねーわなwww


 サブロー:引っかかるアホはいないだろ


 ニーナ:んー、そうだな……なんて言えば伝わるかなぁ……俺様は本気で心配してんだ


 サブロー:何を?


 ニーナ:親愛なる盟友のサブローちゃんに決まってるだろwww言わせんなよwww

 

 サブロー:何が言いたい?

 

 ニーナ:だ・か・ら包み隠さず言ってんだろwwwサブローちゃんの知識はいくつよ?

 

 サブロー:逆に聞くが、俺が同じ質問をしたら、答えてくれるのか?

 

 ニーナ:構わんよwww俺様の知識はBだなwww

 

 ――!

 

  こいつまじかよ……。

 

 本当のことを言っているかは分からないが……嘘でも真実でも……こんなにもサラッと答えるか?

 

 ニーナ:ん? www反応がねーなwwwどうした? www

 

 ニーナは何をしたいんだ? いつもの言葉遊びか……? 否、言葉遊びにしては話題が不相応すぎる。

 

 ニーナ:おーい! サブローちゃん? www

 

 俺が考え込む間にも、ニーナは言葉を連投してくる。

 

 ニーナ:んじゃ、質問変えるわ。魔王が龍種に進化できる条件を知っているか?

 

 龍種に進化できる条件……?

 

 俺はニーナからの質問の意図が読めず、困惑するのであった。

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