祭りの始まり

 ――全幹部に告ぐ! 至急、作戦会議室に集合せよ!


 ラプラスからログアウトした俺は、念話で幹部たちに命令を下す。


 俺は一足先に作戦会議室へ向かい、幹部たちの到着を待つことにした。


 30分後。


 アスター皇国すべての幹部が作戦会議室に集結。


「して、至急と言っておった今回の招集理由は何じゃ?」


 全員が着席すると、ヤタロウが代表して声を発する。


「これより7日後、新潟県への侵略を開始する。目標は糸魚川市の制圧だ」

「ほぉ……ついに動くか」

「っしゃ! 本気の侵略は久々だな!」

「あげぽよ〜」

「わぁ! いよいよ動くんですねぇ」


 俺の宣言を受け、好戦的な配下たちは目を輝かせ、


「何かいい作戦が浮かんだのか?」


 堅実なリナは作戦の内容が気になるようだ。


 今回の作戦――上級魔王による連動は、機密性が非常に高い。幹部連中から漏れるとは思わないが……口を滑らせる可能性は十分にある。


「今回の作戦は――始まってからのお楽しみだな」

「ほぉ……此度はどのような策なのか楽しみじゃな」

「ふむ。儂にも秘密なのかのぉ」

「ふふふ……。軍師である私には打ち明けてくれますよねぇ」

「……? 軍師なら自分で策を練り上げろ」

「――!?」


 楽しそうに笑う老人二人に、口を開けて驚く検索ツールカノン


「まずは、侵略と防衛の配置を伝える。今回の目標は糸魚川市の制圧だ。糸魚川市には、2人の魔王と67の支配領域。そして、約200k㎡の人類の土地が存在している」


 俺は予め作戦会議室に張り出した糸魚川市の地図を指しながら、状況説明を始める。


「ふーん、結構広いんだな」

「石川県で言えば白山市と同じくらいの広さだな」


 俺はタカハルの独り言に答える。


「糸魚川市を支配する魔王は、魔族種の魔王と鬼種の魔王だ。魔族種の魔王が支配する支配領域の数は42。レベルは21で、創造と錬成はBとの情報があるのでバランス型と思われる。対して、鬼種の魔王が支配する支配領域の数は25。レベルは19で創造はB、錬成はCだが……肉体がAランクとの噂だ」


 俺はカエデとタスクの集めた情報を幹部連中に伝える。


「肉体がAランクの鬼か……。いい感じじゃねーか! そいつは俺が貰うぜ!」

「にしし、肉体Aランクならタカっちと互角じゃん! あーしが手伝ってあげようか?」

「ハッ! いらねーよ!」

「ふむ。肉体Aランクが放つ攻撃は私にどのような快感を与えてくれるのか……ハァハァ……」

「師父! ここは我々も名乗りを挙げるべきでは!」

「クーよ、落ち着くのじゃ。誰が相手をすべきかは、シオン様がすでに決めておるじゃろ」

「ハッハッハッ! 肉体Aランクですか……捕えた暁には、チームJにて身元を請け負いますぞ!」

「タカハルと互角の肉体を誇る魔王か……油断はできないな」


 情報を聞いた幹部連中は、臆することなく騒ぎ始める。


「話を続けるぞ? まずは、富山県寄りに位置する魔族種の魔王の支配領域から侵略する。所有する支配領域の数が多いから……そうだな……5部隊に分けて同時に侵略しようか」

「一気呵成ですねぇ!」

「第一部隊は、リナ部隊。副官としてフローラの部隊も参入しろ」

「了解」

「了解ですわ」

「第二部隊は、タカハル部隊。副官としてサラの部隊も参入しろ」

「あいよ!」

「ちょ! あーしが副官ってありえんてぃ! 逆っしょ?」

「ハッ! シオンの命令は絶対だろ!」

「第三部隊は、ヒビキ部隊。副官としてレッドの部隊も参入しろ」

「かしこまりました」

「おう!」

「第四部隊は、コテツ部隊。副官としてアイアンの部隊も参入しろ」

「了解じゃ」

(承知)

「第五部隊は、クロエ部隊。副官としてレイラの部隊も参入しろ」

「「シオン様、かしこまりました!」」


 侵略する部隊の発表を終えると、


「むむ? シオン、よいのか?」


 ヤタロウが慌てた様子で声を掛けてきた。


「大丈夫だ」

「イザヨイとサブロウは残ってはおるが……ちと侵略に力を入れすぎじゃないか?」

「大丈夫だ」

「ハッハッハッ! ヤタロウ殿は心配症ですなぁ。このシオン様の懐刀と称される我輩が残るのですぞ! アスター皇国の守備は万全ですな!」

「シオン様、このイザヨイ……身命を賭して御守り致します」


 心配するヤタロウをよそに、気楽に笑うサブロウとすべてを受け入れるイザヨイ。


「シオン、ヤタロウ殿ではないが……本当に大丈夫なのか?」


 リナも不安そうな声をあげる。


「大丈夫だ。安心しろ! 俺のことより、リナたちは自分の心配をしろ。今回は、大軍を率いて初めて支配領域を侵略するんだ。統治のときとは勝手が違う。油断はせず……しかし、迅速に支配領域を落としてくれ」

「……大軍を率いて?」

「そうだ。新たなルールはリナも知ってるだろ? 今までみたいに人数に縛られるのはナンセンスだろ。今回は侵略にこちらの総戦力の1/3を投入する予定だ」

「さ、1/3だと!? 新たなルールは知っているが……守りが手薄にならないのか?」

「守りは俺たちに任せろ。リナたちは侵略のことだけを考えていればいい」

「シオンがそういうのであれば……わかった」


 リナは、最後に渋々承諾する。


「伝えるべきことは以上だ! 各自、7日後の大規模戦略に向け準備に取り掛かってくれ!」

「「「了解!」」」


 大規模戦略――上級魔王スレッドの言葉を借りるなら、祭りの準備が始まったのであった。

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