新たなルールの影響
新たなルール――侵略者側の人数規制の撤廃が適用されてから、1か月。
情勢は大きく変化していた。
今回の新たなルールにいち早く適応出来たのは、日本国政府――【
大規模な情報規制。
各地に点在する人類の自治体との連携。
強者を避け、勝てる相手にのみ挑む、侵略先の選定。
結果的に、多くの魔王が消滅し、人類の支配する土地が莫大に増加した。
人類は結託できるが、魔王は結託できない。この差が如実に現れたのであった。
アスター皇国の近隣の情勢でいえば、こちらが手をこまねいている間に岐阜県の魔王がすべて消滅し、岐阜県は人類の統治下となってしまった。
『お館様、また新潟に侵略者が現れた』
アスター皇国に隣接している新潟県に偵察へと行かせたカエデから連絡が入る。
「侵略先は?」
『ん。上越市』
「規模は?」
『たぶん、3千くらい』
「了解。すぐさま防衛部隊を派遣する。カエデは、そのまま偵察を続けてくれ」
「ん。らじゃ」
――コテツ、タカハル、サラ、ヒビキ。部隊を率いて上越市に向かってくれ。
俺は配下に指示を飛ばす。
防衛といっても、上越市は俺の支配地ではないし、上越市に存在する魔王とは同盟関係でもない。
しかし、放置しておくと……新潟県は岐阜県のように人類の統治下に置かれてしまう。故に、先を見据えた自己防衛の一環として新潟県には防衛部隊を派遣していた。
道中にある糸魚川にはまだ複数の魔王が存在するが、こちらの目的をわかっているのか、素通りさせてくれる。
同盟関係……とまではいかないが、利害が一致した関係性というところだ。
「タカハルさんたちが喜び勇んで防衛に行きましたよぉ」
「こういうときだけは、あいつらが戦闘狂で助かったと思えるな」
「ですねぇ。静観していたときは怖くて近寄れなかったですぅ」
大型バイクに跨がり、凶暴な笑みを浮かべ先頭を走るタカハル。後ろには、配下を荷台に積んだ大型トラックが何台も続く。
どこの世紀末だよ……と、言いたくなる。
「しかし、そろそろ何らかの手を打たないとな」
「んー、岐阜県を攻めますぅ?」
「岐阜県と糸魚川か……。どっちのほうが難易度が低いんだろうな……」
糸魚川に点在する魔王と、岐阜県の人類を比べると……岐阜県の人類のほうが圧倒的に強い。
岐阜県を統治するのは困難を極めるだろう。
しかし、糸魚川への侵略を開始すると……岐阜県の人類が好機とばかりに隣接する富山県の支配領域に侵略してくる。それは、先週経験したことだった。
糸魚川の魔王もここまで生き残っただけあって、片手間で倒せるほど弱くはない。
こちらの動きに合わせてすべてが連動するのも人類の戦略なのだろう。
アスター皇国を始めとする、『
先に動いた陣営が人類との死闘を余儀なくされ、甚大な被害を被る。
それがわかっているから、一部の戦闘民族のような『十三凶星』を除いて、静観を決め……その隙に人類が統治下を増やしていく。
――ヤタロウ、リナ、話がある。俺の部屋に来てくれ。
ジリ貧で押されていく現状を脱却するために、俺は防衛を一任しているヤタロウと、侵略経験が豊富なリナを呼び出すことにした。
「なんじゃ? 運命の日はまだ先じゃろ?」
「シオン、どうした?」
ヤタロウとリナが同時に入室してきた。
「今後の戦略について二人の意見を聞きたい」
「ほぉ」
「私の意見が役立つとは思えないが、話は聞こう」
「まずは、ヤタロウに質問だ。先週のように岐阜県の人類が侵略してきたら防衛に必要な戦力はどのくらいだ?」
「ふむ。一応聞くが、防衛の成功の基準はいつも通りかのぉ?」
「そうだ。いつも通り――幹部メンバーが誰も死なないという条件は外せない」
幹部メンバーは替えが効かない選りすぐりの成長した配下たちだ。
創造不可である元人類のリナやコテツ、更に元魔王たちは言うに及ばず、創造可能なクロエでさえ、今と同じレベルへと成長させるのに、どれほどの労力が必要になるのか……想像もしたくない。
「そうじゃな……。人類の中には、リナ嬢やコテツ殿には及ばずとも高レベル――レベル50を超えて進化した者も目立ってきた。その者たちを倒すには……かなり多くの配下の犠牲が必要じゃ」
「具体的には?」
「創造したばかりの配下のみで倒すのであれば……百以上は必要じゃろうな。もちろん、配下の装備品はすべてBランク以上でな」
「幹部メンバーを投入すれば、倒せるが……」
「万が一の消滅も防ぎたいのであれば、複数でかかるべきじゃろうな」
「それで、結論は?」
「そうじゃな……。イザヨイやサブロウなどの主要メンバーは確定として、他に幹部の部隊を5つは必要じゃな」
現在アスター皇国に存在する公式の部隊は――リナ部隊、コテツ部隊、タカハル部隊、サラ部隊、ヒビキ部隊、クロエ部隊、レイラ部隊、フローラ部隊、アイアン部隊、レッド部隊の計10部隊。
他に非公式ながらサブロウ部隊が存在する。
「ちなみに、シオンが指揮を執るなら別じゃが、儂が指揮するなら……5部隊の中にコテツ殿、タカハル、サラ嬢、ヒビキ、アイアンから3部隊は必要じゃな」
守り専門のアイアンは別として、クロエ、レイラ、フローラ、レッドなどの創造された眷属は融通が利かない。直接、強制的な指示を出せる俺ならともかく、ヤタロウからすると使い勝手が悪いのだろう。
「俺が指揮すれば、クロエ、レイラ、フローラ、アイアン、レッドの部隊でも守れると思うか?」
「むぅ……どうじゃろな? 万が一強者がおっても……イザヨイが対応すれば……むぅ……しかし……誰も死なない……と言う条件を満たすのであれば、コテツ殿かリナ嬢かタカハルは欲しいところじゃな」
同じ幹部といえども……実力差は明確に存在する。
残念ながら、創造された配下が元魔王を越えることはあまりなかった。
んー……元魔王の優秀な人材か……。
チーム
ここに来て、悩みがまた増えるのであった。
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