新たな時代の始まり


「アスター皇国のシオンより富山県の人類諸君に告ぐ」


 今から話す言葉はタスクが撮影しているドローンカメラを通じて全世界に配信される。また、配信しているのはこちらが用意した動画だけではない。人類側のマスコミも俺と魔王モトキの戦いを撮影し配信しているのを確認している。


「我が国と魔王モトキの間で起きた戦いの結果はご覧頂けただろうか? アスター皇国はこれより、魔王モトキの支配領域を支配する。先も告げたが、それを邪魔する勢力があれば、最優先で排除する。では誰も邪魔しなかったらどうするか? 答えは――残った富山県の土地の制圧に向かう」


 俺は事実上の宣戦布告を富山県の人類に叩きつける。


「諸君とは、次なる戦場で相まみえることを楽しみにしている! ……と言いたいところだが、どうか私の話に耳を傾けて欲しい」


 俺は深く深呼吸をする。


「貴方たち人類――ロウは、我々魔王――カオスをどのように捉えているのだろうか? 突如現れて世界を侵略する外敵? 否! すでに知っている者も多いと思うが、我々魔王は元々は貴方たちと同じ人だった。同じ人だったからこそ、このように意志の疎通――会話をすることも出来るのだと思う。時には利害の相違から争うこともあるだろう……いや、どちらかと言えば争いしかなかったな」


 俺は自分の言葉に思わず苦笑してしまう。


「我々は意志を疎通し合うことが出来る。ならば、争い――殺し合う以外の手段も存在するのではないか? 私はアスター皇国と言う“国”を興した。まぁ、日本政府は認めてはくれないだろうが。ここで一つ、貴方たちに問う――何故、俺は国を興したと思う?」


 俺の言葉に意味はあるのだろうか? 俺自身も不安に駆られながら言葉を紡ぎ続ける。


「伊達や酔狂で国を興したと思うか? 否! 俺は、貴方たち――人類に歩み寄るために国を興した! アスター皇国に投降した人類は安全で健やかな生活を送っている」


 俺が指を鳴らすと、配信されている画面は俺から支配領域内の居住区へと切り替わる。


「俺は投降した人類――国民の声に耳を傾け支配領域内に学校を設立した。今は農業が主体となっているが、人々が働ける環境も整えた。嫌がる国民を無理やり戦場に投入するなどと言う、非人道的な行為は一切していない。それは何故か――アスター皇国が国であるからだ!」


 俺が再び指を鳴らすと、配信されている画面は居住区から俺へと切り替わる。


「富山県の人類諸君に告ぐ。今、貴方たちがアスター皇国と争ったらどうなる? 貴方たちと対等に戦った魔王モトキの末路を見れば火を見るより明らかだろう。故にアスター皇国の王――シオンとして、富山県の人類諸君に告ぐ! 投降しろ! 猶予期間として一週間与える。仮に断るのあれば、俺もこの乱世に国を構える主の一人だ。国民を護るために非情な決断を下す」


 俺は一度呼吸を整えて、再度通告する。魔王モトキの配下を蹂躙したのは、この為だった。


「繰り返す、期間は一週間だ。富山県全体として投降する意志が固まったのであれば一週間以内に立山砦に参られよ。個別で投降したい者がいるのなら、武装を解除し我が支配領域を訪れよ! 宣告するのはこれで最後だ。一週間後に何の反応もないようであれば……交渉は破綻したと判断する。諸君らの賢明な選択を期待する」


 全てを言い終え左手を挙げると、俺を撮影していたドローンの赤いランプが消灯した。


 さてと、出来る限りのことはした。


 後は、じっくりと富山県の人類の返事を待つとしよう。


 慣れない演説をして疲労した俺は支配領域へと帰還するのであった。



  ◆



 魔王モトキの消滅から7日後。


 富山県の人類の代表者が投降を申し出て来た。


 それから一ヶ月後。


 アスター皇国は富山県全域を支配。


 一ヶ月前に配信された俺の言葉に影響されたのかは不明だが、十三凶星をはじめとした全国の有力魔王が次々と国として独立を宣言。


 そこから一年後。


 日本では小規模な魔王や組織は全て壊滅或いは吸収され、有力魔王が興した国と高レベルな人類を多数抱える人類の各団体による群雄割拠の時代が到来したのであった。


「各国の状況は?」

「小競り合いはありますが、大きな争いはありませんねぇ」


 俺の質問にカノンが答える。


「国民の状況は?」

「娯楽が不足しているとの声はありますが、概ね皆さん満足していますよ」


 俺の質問に田村女史が答える。 



「防衛の状況は?」

「そうじゃな……ここ一ヶ月は大規模な侵略もないから暇じゃな」


 俺の質問にヤタロウが答える。


「レベル上げは順調か?」

「新潟に存在する支配領域で各自修練はできている」


 俺の質問にリナが答えた。


 今日は月に一度の定例会議の日だった。


「各自、今の状況に満足せず常に成長、進化を目指してくれ」



 俺はあの日、自由と混沌――そして創造を求めた。


 様々な苦難の末に、理想を叶えるための国――アスター皇国を建国した。


 俺はこの世界を生き抜いてみせる。自由な人生を謳歌するために。


 俺はこの地――『日本』で最強の魔王を目指すのであった。


―――――――――――――――――――――――

(あとがき)


本作をお読み頂きありがとうございます。


これにて第一部完となります。


第二部の再開は……かなり先になると思います。(申し訳ございません)


お気に入り頂けたなら、評価を頂ければ幸いです。


ここまでお読み頂きありがとうございました!!

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