謀略①
立山砦の北の地を支配した翌日。
俺に対する不信感は増したが、魔王モトキには打開策は無く、先日同様に同時侵略を仕掛けることとなった。
そして、また変わらぬ茶番を続ける。
停滞したつまらぬ日常に戻ったと思われた五日目。
17:30。
馬鹿の一つ覚えのように魔王モトキが立山砦へと侵略を開始。
18:00。
アイアン、クロエ、レイラが率いる部隊が、茶番を繰り広げるべく、南砺砦に侵略を開始。
同時刻。
新たに支配した立山砦の北に位置する支配領域から俺は配下と共に進軍を開始した。
「約定に従い、我らアスター皇国――立山砦への侵略を開始する!」
東から侵略する魔王モトキの部隊に対して防衛戦を張っていた立山砦の人類に対して、俺は北より高らかに宣言をし、奇襲を仕掛けた。
立山砦の人類たちの防衛は魔王モトキの軍勢に照準を当てており、こちらに対しては無警戒であった。
――奇襲が出来るのは今宵限り! イケ! イケ! イケ! 入れ食いだ! 経験値を稼ぎまくれ!
魔王モトキの陣営と向かい合い、茶番を演じる人類陣営の横っ腹に突撃を仕掛けた。
「うぉぉおおお! 行くぞ! お前ら!!」
先陣を切るのはタカハル部隊。
タカハルは最初から獣王と化し、機動力に優れるウェアウルフを率いて、獣の如く人類へと襲い掛かる。
「な、な、な、何事だ!?」
「敵襲! 北よりシオンの軍勢が攻撃を……うわぁああ!?」
「お、落ち着け……」
一ヶ月近くも繰り広げられていた茶番の中、突如訪れた異変に、人類は対応出来ず……襲い掛かるタカハルの部隊に蹂躪される。
「タカっち! 上手く躱してね! あーしから天気予報をお伝えみたいな? 人類の上空から炎の矢が降り注ぐっしょ! ――《ファイヤーアロー》!」
サラの部隊が人類へと火の矢の雨を降らせる。
「――ッ! あぶねーな! このアホエルフ!」
「ぴえん。ちゃんと注意したっしょ!」
口では文句を言うが、サラはタカハルの部隊を巻き込まないように、奥へと火の矢を降らせている。一見フザケているようにしか見えないやり取りだが、二人の連携は完璧だった。
「師父! 我らも!! これ以上遅れを取る訳には!」
「クーよ、わかっておる。皆の者、行くぞ!」
逸るクーフーリンに急かされ、タカハル部隊に続いてコテツの部隊が強襲を仕掛ける。
降り注ぐ魔法の雨。人類陣営のど真ん中で暴れまわるタカハル部隊。そして、新たに強襲を仕掛けたコテツ部隊。
茶番のぬるま湯に浸かっていた立山の人類たちは恐慌状態に陥っている。
「ここまで上手くいくとはな……。リナ、ヒビキ、サブロウ! 全軍突撃だ! 立山の人類を蹂躪せよ!」
全ての部隊に突撃命令を下し、俺自身も経験値を求めて突撃するのであった。
◆
立山砦への侵攻を開始してから30分。
ようやく状況を飲み込めた魔王モトキの軍勢が、動きを見せる。
「クッ……またしても……!? 続けー! 続けー! 我らもシオンの攻撃に続くのだー!」
奇襲を仕掛けられ、陣形は崩れ無陣と化した人類へ魔王モトキ率いるエルフの集団が追撃を仕掛けた。
三つの陣営が交わる戦場は更に阿鼻叫喚の混沌と化した。
立山砦への侵攻を開始してから3時間。
普段ならとっくに茶番が終わり、両者引き上げている時間であるが、尚も激しい戦闘が続いていた。
「増援だ! 富山市から増援が来たぞ!」
富山市からの増援が到着。人類陣営がざわつき始める。
「シオン、どうする?」
リナが近くまで来て、行動指針を仰いでくる。
――総員に告ぐ! その場から動かず、戦闘を継続せよ! これ以上、前線を押し上げることを禁ずる!
「リナの部隊は、最前線――タカハルの部隊がいつでも撤退出来るよう、撤退への動線上の敵を殲滅しろ」
「了解した!」
命令を受けたリナは素早く行動に移る。
「サブロウ! 俺と共に来い!」
「承知しました!」
俺はサブロウと共に前線近くに移動し、魔王モトキの部隊が立山砦へ進軍しやすくなるよう、露払いをする。
援軍が到着し、士気の高まる人類。
しかし、俺たちが徹底抗戦の構えを見せたことから、戦場は凄惨さを増していくのであった。
富山市からの増援が到着してから1時間。
魔王モトキの軍勢は、俺に誘導されるように奥へ、奥へと軍を進める。
「今宵が決着の時……! 皆の者! 全ての力を出し尽くすのだ!」
魔王モトキの鼓舞にも熱が入る。
今宵で決着したら――困るんだが?
そろそろ頃合いか……。
このまま撤退してもいいが、折角だ。人類の士気を上げてやろう。
――総員に告ぐ! 5分後に撤退を開始する! 各自、撤退の準備に入れ!
俺は撤退準備の指令を配下に告げる。
――撤退の合図はサブロウが出す! 総員、慌てず、速やかに撤退せよ!
5分後。
――サブロウ、近くに来い。そして、俺の言うとおりの言葉を叫べ。
俺は周囲に聞こえないよう、念話でサブロウに伝える。
サブロウが頷き、俺の隣に来た時――
「ぬわぁぁぁああ! シオン様が! シオン様が負傷されたぁぁああ!! 撤退ですぞ! 総員撤退するのですぞぉぉおお!」
サブロウが大袈裟に俺の伝えた言葉を声に出して叫ぶ。
――総員、撤退だ。
「十三凶星シオンが負傷だと!」
「今こそ好機! 魔物どもを掃討せよ!」
「「「おぉー!」」」
俺の負傷の報せに、人類たちの士気が高まる。
反撃の攻勢に出るが……撤退の準備を終えていた俺たちはそそくさとその場から撤退。
取り残された豚――魔王モトキの軍勢は士気の高まった人類の真っ只中に取り残されたのであった。
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