同盟締結
「――という訳で、同盟の期限は3ヶ月。3ヶ月後に同盟の期間を再度話し合い。同盟が締結したあかつきには、全世界に向けてネット中継で報告。以上が条件となるが、いいな」
俺は魔王モトキに口早に同盟の条件を告げる。
『問題ない。この同盟は歴史に名を残す同盟になるであろう!』
「そうなることを願うとしよう」
魔王モトキの大袈裟な反応に俺は苦笑しながらも肯定する。
『それでは早速この同盟の力を全世界に見せつけよう!』
「と言うと? 今からネット中継でもするのか?」
『違う! 我らの団結力を……! 我らの力を富山県の人類に知らしめるのだ!』
魔王モトキはこれが本題とばかりに、高揚した口調で告げる。
「まずは、ネット中継で全世界に発信することが先だ」
『むぅ……我らの絆……! 我らの想い……! 我らだけがわかっていれば良くないか?』
「良くない。この条件が飲めないなら、この同盟は白紙だ」
『むぅ……熱く滾る我の血潮……この勢いを殺すことは大いなる損失に繋が――』
「白紙でいいんだな?」
戯言をほざく魔王モトキに、俺は感情を殺した声で最終通告を告げる。
『わ、わかった! まずは、全世界に我らの絆を知らしめるとしよう!』
「ネット中継は明日行う。場所は――俺の支配領域だ。問題はないな?」
『私の支配領域に来てくれれば歓待――』
「俺の支配領域で行う。問題はないな?」
俺は有無を言わさぬ口調で告げる。
『う、うむ……わかった』
「では、明日の正午。待っている」
カオルとは違い、こいつとは話していても何も感じられない。要件が終わった俺はそそくさと電話を切るのであった。
◆
翌日の11:50。
約束の10分前にエルフの一団がアスター皇国へと訪れた。
「遠路はるばるようこそ。アスター皇国の魔王、シオンだ」
俺はエルフの一団の先頭に立つ美麗のエルフに手を差し出した。
装備的にもオールユニークだから、こいつが魔王モトキで間違いないだろう。
――?
すると、俺が手を差し出した魔王モトキと思われた美麗のエルフはその場で片膝を突いて、深く頭を垂れた。
ん? 電話では尊大な性格のイメージだったが……謙虚な魔王なのか?
「ハッハッハッ! よろしく頼む! 私が富山県の覇者――モトキだ」
後方からエルフの一団を割って尊大な態度のオークが現れた。
は?
魔王モトキってエルフだよな?
「失礼。興味本位で尋ねるが、種族は? 俺の種族はヴァンパイアロードだ」
目の前のオークは一応盟友となる相手だ。礼を欠かないように最大限の注意を払って確認する。
「む? 盟友シオンは肩書を気にするタイプの魔王であったか! ふむ、盟友ならば隠す必要はなし! 私の種族はエルフロードだ。同じロードとは奇遇だな! 我らが結ばれるのは天命であったか!」
魔王モトキの中で、種族は肩書らしい。そして、ヴァンパイアロードを選んだことを俺は初めて後悔する。
「ん? カノン何だ? 今は大切な話し合い中だぞ! 仕方がない……少し待っていろ!」
俺は突然大声で独り言を言う。
「え? あ、あの――」
――カノン、黙れ!
「すまない。幹部の配下がどうしても……と、言うのでほんの少し席を外してもいいか?」
「モトキ様の御前で無礼な!」
「良い! 共に親離れをせぬ配下を持つと苦労しますな」
「本当にすまない……。ヒビキ! お客様にお茶をお出ししろ!」
「え? ご主人様、こちらで――」
――ヒビキ、この場で会談の準備をセッティングしろ。
「畏まりました」
ヒビキはそそくさと机と椅子……そして、ティーセットを準備する。
「ふむ……その方ヒビキと言ったか?」
「はい?」
「中々素敵な筋肉だ」
「ヒッ!?」
魔王モトキはべたべたとヒビキの上腕二頭筋を撫でる。あのヒビキに悲鳴を漏れさすとは、魔王モトキ恐るべし。
ヒビキがセクハラを受けている隙に、俺はカノンへと近付き、小声で尋ねる。
「カノン、アレは何者だ?」
「え? 魔王モトキ……?」
俺の質問にカノンも自信はないのか首を捻る。
「アレは本当にエルフなのか?」
突き出した腹に、薄くなった頭皮。残った僅かな髪の毛は脂ぎってギトギト。そして、頭皮の毛量を全て奪われたのかと言わんばかりの腕毛の濃さ……。顔は創造したオークの方が凛々しくさえ感じた。
「あ!? え、えっとぉ……多分アレは本物の魔王モトキですぅ」
「ほぉ、その心は?」
「ほら、耳を見てください」
俺はカノンに促されて、魔王モトキを自称するオークの耳に注目する。
微妙に尖っている?
「あの耳の形はエルフの特徴の一つですぅ」
「なるほど」
「そしてエルフは往々にして美形ですぅ」
「ふむ」
「つまりあんな醜悪なエルフは創造ではあり得ません……よって、アレは後天的なエルフ――魔王モトキと推測されますぅ」
「完璧な証明だな」
一つの謎が解消されたところで俺は魔王モトキの元へと戻る。
「すまない。待たせたな」
「シオンは中々良き配下をお持ちだな……ヒビキも良いが彼も良い!」
魔王モトキは後方に控えていたタカハルに熱い視線を送る。勇猛果敢なタカハルが軽い悲鳴をあげ、そそくさとサラの後方に隠れてしまう。
「ふむ。シャイなのだな」
そんなタカハルの姿を見て魔王モトキはニヤリと笑う。
「本題だが、今からネット中継を始まる。一応、簡単ではあるがコレが台本だ」
事前に書き起こした台本を手渡そうとすると、魔王モトキは台本を受け取るのと同時に汗ばんだ手で俺の手を包み込む。
クッ……。何とか悲鳴は出さずに耐えたが……この豚の気持ち悪さは異常だ。
「ふむ。確かに受け取った。して、シオン?」
「なんだ?」
「ネット中継はここで行うのか?」
本来であれば転移装置の先――居住区にある執務室で行う予定だったが、コイツを招き入れるのは生理的に受け付けない。
「そうだ。何か問題でもあるか?」
「てっきりカオルたんと同じ場所で撮影すると思っていたが、違うのか」
「ここで撮影するのは俺から魔王モトキに対する最大の配慮だ」
「ほぉ。こんな殺風景な入口が配慮と?」
「そうだ。万が一もないが……不慮の事態があっても、入口故に貴方たちは逃げることが出来る。違うか?」
嘘も方便。俺は適当な理由をでっち上げる。
「なるほど、なるほど。確かに最奥の地に閉じ込められては為す術もないか……これが魔王同士の配慮というものか。恐れ入った」
魔王モトキは俺の言い訳を真に受ける。
「それじゃネット中継を始めるぞ――」
その後、俺は引き攣った笑みを浮かべながらも魔王モトキとの同盟を全世界に告げたのであった。
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