同盟へ向けて④
「という訳で、今から魔王カオルに同盟を提案しに行く」
「え? 今からですかぁ!?」
「思い立ったが吉日と言うだろ」
「まぁ……でもぉ……急すぎませんかぁ?」
俺が行動に移ろうとするとカノンが焦った声音をあげる。
「ならばいつ動く? 明日か? 明後日か?」
「そう言われるとぉ……」
「明日になったら何か変わるか? 明後日になったら何か変わるか? 変わるのは周囲の戦況だけだ」
少なくとも富山県が人類に統一される前に動く必要はある。
「それに、今日は誰も魔王カオルの支配領域に侵略してないだろ?」
「あ! だから、今日は侵略禁止にしていたのですかぁ……さっきの私との会話は結果ありきだったのですねぇ……」
「カノンが俺の戦略以上の戦略を練っていれば、結果は変わっていたかもな。しかし、結果は――いつも通りだったな」
「ぐぬぬ……いつの日かアスター皇国に軍師カノン在り! と言わしめるのですよぉ!」
「まぁ、頑張れ」
俺は拳を握りしめ無駄な闘志を燃やすカノンを尻目に準備を進めることにした。
まずは、ヤタロウに連絡だな。
俺はスマートフォンを操作してヤタロウ宛に発信する。
『ヤタロウじゃ。どうした?』
「今から主力の眷属を引き連れて魔王カオルの支配領域に行ってくる」
『ほぉ……そんな予定は聞いておらなんだが、誰を連れて行くのじゃ?』
「ヤタロウを除いた主力の眷属全員だ」
『ほ? 全員とは……イザヨイもか?』
「支配領域に侵略出来るのは24人だから、正確には……俺、リナ、コテツ、タカハル、ヒビキ、サブロウ、カズキ、クーフーリン、クロエ、レイラ、ブルー、アイアン、レッド、ダクエル、アベル、カイン、カエデ、ノワール、ルージュ……後は適当にサブロウの部隊から5人連れて行く」
『主力メンバー集結じゃな……いよいよ、潰すのか?』
「いや、目的は同盟の提案だ」
『ほ? 同盟の提案とな? ……なるほどのぉ。それで儂への要件はなんじゃ?』
「留守を任せた」
『ふぉっふぉっふぉ。同盟の提案であれば、時間は多く必要あるまい。しかと、引き受けよう』
ヤタロウとの通話を終え、
「あ、私は普通にお留守番なんですね……」
カノンは普通に落ち込んでいた。
「万が一の場合もあるからな」
「私の身を案じてくれるは嬉しいのですが、このメンバーは過剰戦力じゃないですかぁ?」
「過剰かも知れないが、俺が自ら出向くんだ。戦力は多いに越したことは無い」
俺が消滅したら一発アウトだ。俺が動く以上戦力に過剰などあり得ない。
俺は念話にて同盟の提案に同行させる配下たちを呼び出し、魔王カオルの支配領域へと移動を開始するのであった。
◆
「話し合いだろ? 俺が参加する必要はあるのか?」
「にしし……タカっちマジ脳筋」
道中でタカハルが愚痴をこぼすと、サラがすかさずおちょくりにいく。
「チッ……うっせーな。そういえば魔王カオルを見たことがある奴はいるのか?」
「あーしはなっしんぐ」
「某もないですぞ」
「儂もないな」
魔王カオルの姿を見たものは誰もいない。知っている情報は悪魔種の魔王と言うことだけだった。
「お喋りは終了だ。そろそろ到着するぞ」
「あいよ」
「りょー」
俺の支配領域から一番近い魔王カオルの支配領域へと到着した。
「それでどうするのじゃ? 最奥を目指すのか?」
支配領域の中に足を踏み入れるとコテツが俺に尋ねてきた。
「そんな面倒なことはしない。こうするのさ――」
俺は大きく息を吸い込み、何もないダンジョンの天井を仰ぐ。
「我が名は魔王シオン! 今回は交渉をしたく、この場に足を運んだ! 魔王カオルよ! 俺の声は届いているか! 俺たちはこの場に1時間留まる! 交渉に応じるのであれば、相応の反応を示せ!」
魔王は自身の支配領域内であればリアルタイムで監視が可能だ。故に、俺の声は高確率で魔王カオルに届いているはず。
「さて、魔王カオルはどうでるかな? ノワール、ルージュ! 例の道具を出せ」
「おうよ!」
「はいな!」
俺はノワールとルージュに事前に頼んでいた荷物――敷物と飲食を用意させる。
「さてと、優雅にティーパーティーと洒落込むか」
俺は敵の支配領域内で配下たちとティーパーティーを始めるのであった。
◆
「シオン! 酒はねーのかよ!」
「ある訳ないだろ。今日の目的は交渉だぞ」
「酒の席で交渉するのが常識だろ!」
「そんな常識知らねーよ! 仮にそうだとしても、交渉の前に酒は飲まないだろ」
「チッ……しけてるな」
アホのタカハルが暴走する。
「あーしが思うに、ピクニックにしてはここは殺風景すぎじゃね?」
「目的はピクニックじゃない」
「とりま、歌う?」
「何でだよ……」
「ならば、僭越ながら私めが……」
「いやいや、ヒビっちの後はハードル高いっしょ! しかもシラフなのにいきなり脱ぐとかありえんてぃー」
アホのサラも暴走し、何故かヒビキが脱衣をしようとする。
連れてくる人選をミスったかも知れない……と、後悔をしたその時――
「キミたちの目的は何かな?」
いつの間にか現れた小さな翼の生えた赤い小悪魔――インプが、声を掛けてきた。
「魔王カオルの遣いか?」
「然り。僕はカオル様の原初の眷属――マクダル=カオル。して、目的は何かな?」
インプ――マクダルが俺に同じ問いかけをする。
「最初に伝えたと思うが、交渉だ」
「交渉? 僕たちが人類を統治するように、キミたちは僕たちに降伏しろと言うのかい?」
「仮にそう言ったらどうする?」
仮に降伏に応じるつもりなら、同盟ではなく従属させるのもありだ。
「答えはノーだ。お引取り願おう」
マクダルは丁寧な口調で拒否する。
「『仮に』、と言っただろ?」
「ならば本題は? カオル様は言葉遊びは嫌いではないが、キミのことは嫌いだ」
「にしし……シオンっちのこと嫌いだって」
「ご主人様……イヤよ、イヤよ、も好きのうち。罵倒もいずれ快感へと――」
――黙れ! 今後、俺の許可なく発言することを禁止する!
「すまない。雑音が入った。本題だが、同盟を結ばないか?」
「……」
「聞こえなかったか? 同盟だ」
「聞こえている。今カオル様の返事待ちだ」
「面倒だな。魔王カオルよ。どうせなら、顔を突き合わせて話さないか?」
「こんな危険な場所にカオル様に来いと?」
「危険な場所って……ここは、魔王カオルの支配領域だろ?」
マクダルは俺の後ろに控える配下たちに目を向けて、怒りを顕にする。
「そいつらは知っている。僕たちが危険視している魔物たちだ」
「そうなのか?」
「僕たちが劣勢を強いられている主な原因が、そこにいる魔物たちだ」
「ほぉ……。それで、魔王カオルの返答は?」
「……来ると仰っている」
「そうか。ならば待たせてもらおうか」
殺意に溢れたマクダルの視線を受けながら待つこと10分。
「初めまして。魔王シオン」
「初めまして。魔王カオル」
銀髪、赤眼の少年――魔王カオルが多くの魔物を引き連れて現れたのであった。
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