同盟へ向けて③


「え? え? 降伏させるよりも大きなメリットですかぁ?」


 カノンは俺からの問いかけに戸惑いを見せる。


「そうだ。ちなみに、デメリットは裏切られる可能性が発生することだな」

「むぅ……デメリットなら私でも分かりましたよぉ! メリット……メリット……えっとぉ、降伏させるよりも簡単とかですかぁ? 降伏させるには、もう少し追い詰めないとダメなので時間がかかりますし、こちらの被害も増えますぅ。時は金なり! と言いますから、それは大きなメリットになりますぅ!」


 カノンは必死に考えながら言葉を紡ぐ。


「今回のケースで言えば、時間の短縮は大きなメリットになり得るな。但し、俺の考えは違う」 

「意地悪しないで教えて下さいよぉ」

「俺の考えた同盟をする最大のメリットは――CPだ」

「え? CPですかぁ?」


 俺の答えにカノンは疑問符を浮かべる。


「意外か?」

「え、えっとぉ……CPと言うのは……同盟だと魔王カオルは"魔王のまま"だから……防衛に必要な配下とかもこちらで創造しなくてもいい……と言う認識で合ってますかぁ?」

「まぁ、そうなるな」

「でも、魔王カオルを降伏させたら魔王カオルの支配領域はシオンさんのモノになるので……その分最大CPが増えませんかぁ? ひょっとして魔王カオルのレベル分だけCPがお得ってことですかぁ?」

「魔王カオルの推定レベルは24だったか? 確かに2400のCPは大きいかもな」

「でも、でも、そのCPはシオンさんが自由に使えないCPですよぉ? 2400は大きいですが、支配領域分の自由に使えるCPの方がメリットは大きくないですかぁ?」


 カノンはアホの子と思われがちだが、賢い面もある。カノンは俺の答えに必死に抗う。


「魔王カオルの支配領域の数は?」

「えっとぉ……70ですぅ」

「自由に使える7000のCPと、自由に使えない9400のCPか……確かに前者の方が魅力的だな」

「ですよねぇ! ふふふ、今回ばかりはアスター皇国軍師――カノンに軍配が上がりましたね!」


 俺に意見を受け入れられたカノンは心底嬉しそうに空中で飛び回る。


「軍配カノン、その自由に使えない9400のCPだが……魔王カオルは何に使うと思う?」

「え? 支配領域の維持とか、防衛の為の錬成とか創造じゃないですかぁ?」

「魔王カオルが……どこぞの爺のように乱数に狂っていたら話は別だが、恐らくCPの使いみちは支配領域の維持に費やすだろう」

「同じ防衛なら多い方がお得と言うことですかぁ? でもシオンさんは一つお忘れになっていることがあります!」


 カノンは決めポーズとばかりに俺に人差し指を向ける。


 人を指差すな……。


「何だ? 言ってみろ」

「魔王カオルの錬成のランクはB、対してシオンさんの錬成のランクは――A! つまり、シオンさんが自由に使えたほうが有意義なのですよぉ!」

「それを言うなら、向こうの創造のランクはAで、俺の創造のランクはBだぞ?」

「ぐぬぬ……でも、でも、絶対に自由に使えたほうが便利ですぅ!」


 カノンは器用なことに空中で地団駄を踏む。


「カノンの意見はわかった。なら、こういう考えはどうだ?」

「ん? 何ですかぁ?」

「今の俺の総CPは?」

「26000ですぅ」


 俺の現在のレベルが27。支配している支配領域の数が233だから……正解だ。


「石川県全域を防衛するとして、俺が魔王カオルを降伏させた場合のCPは?」

「?? 『その石川県全域を防衛するとして』って前提条件がよく分かりませんが……33000ですぅ」

「次に、石川県全域を防衛するとして、俺と魔王カオルが同盟を結んだ場合のCPは?」

「あぁ……そういうことですかぁ……つまり、シオンさんのCP26000と魔王カオルのCPを足した35400! そういうことですよね?」

「違う」

「え? で、でも……26000+9400なので35400で合ってますよぉ!」


 カノンは地面に律儀に筆算の式を書いて計算し直す。


「その考え方が違うのだ」

「え? え? どういうことですかぁ?」

「正解は――"26000+9400"だ」

「――? つまり、35400ですよねぇ?」

「いや、"26000+9400"だ」

「――? なぞなぞですかぁ?」


 俺の答えにカノンは疑問符を浮かべる。


「カノン、CPの使いみちには何がある?」

「えっとぉ……大きく分けて《支配領域創造》、《配下創造》、《アイテム錬成》ですかぁ?」

「他には?」

「他……? あ!? 《乱数創造》に……眷属化……後は……《統治》と《分割》ですぅ!」

「正解。全てが魔王のみが使える特権だな。前者――《支配領域創造》、《配下創造》、《アイテム錬成》と、後者――《乱数創造》、《契約》、《統治》、《分割》の違いは何だと思う?」

「前者と後者の違いですかぁ……あ!? なるほどぉ……だから”26000+9400”なのですねぇ」


 カノンはようやく俺の考えに辿り着いたようだ。


 前者と後者の違いは――CPの消費量だ。


 前者は設備、配下、アイテムの種類に応じて決められたCPを消費するのに対して、後者は全CPを消費する。


 そして、後者の《乱数創造》は狂った配下のモチベーションを高める為に定期的に使用する必要があり、《契約》――眷属化は外に出す配下を増やすためにも多用する必要がある能力だった。


 故に、別口となっている俺と魔王カオルのCPは数値以上に高い効果が見込めていた。


「なるほどぉ。今後の展開――富山県の人類との戦争を考慮すると眷属化は必須ですからねぇ」


 更に口には出さないが、同盟にはもう一つメリットがある。


 それは精神的な余裕。


 あくまで精神的な理由だが、俺の配下が消滅させられると悔しいが、魔王カオルの配下――見たことも話したこともない奴であれば、喪失感はゼロだ。


 降伏させた場合は魔王カオルの領土――福井県と面している支配領域は、防衛の重要拠点となる。そうなると必然的に強い配下を配備する必要があり、場合によっては消滅させられる危険性もある。


 別に配下に愛着があるとか……そういう訳ではないが……何となくの精神的な理由であったから、口には出さないことにしたのであった。

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