野々市市制圧
石川県に唯一残っていた人類の土地を《統治》。
アキラに部隊を編成させめぼしい物資の徴集を命じ、田村女史には投降した人類の管理を命じて、俺は早々に支配領域の自室へと戻った。
金沢解放軍との戦いは長期に渡った。金沢解放軍にとって最後となった野々市市役所を落とすのには半月以上の時間を要してしまった。
その間に魔王カオルに取られた支配領域の数は4つ。
支配領域の内部構造を複雑化させようと、複数の支配領域を【転移装置】で繋げたのは失敗だったか……。
1つ目の支配領域は時間稼ぎに成功したが、2つ目以降は【転移装置】で繋がっていたのが仇となった。
そして、魔王カオルの軍勢は最後の仕上げとなる野々市市役所への《統治》を仕掛けたら、早々と撤退してしまった。
大人しく残っていたら……主力メンバーを潰せたのに……。
全てが思い通りにはいかないか。
俺は目の前に広げた地図を見て、現在の状況を整理することにした。
アスター皇国と隣接する敵対勢力は、東方面の――富山県の人類。そして、南方面の――魔王カオルのみ。西側と北側は海となっており、とりあえずは安全だ。
次に、魔王カオルとの支配領域の数を対比。
アスター皇国が支配する支配領域の数は232。
魔王カオルが支配する支配領域の数は71。
支配領域の数の差は総CP――言わば国力の差に直結する。
互いが総当たり戦で挑めばアスター皇国の勝ちは明白だが、魔王同士の勝敗はそんな単純には決まらない。
負けることは万が一もないだろう。但し、勝つのは容易ではない。
どうすっかな……。
魔王カオルの現在のレベルは18。
魔王カオル――種族は魔王(魔族種)。予測されるステータスは【肉体】C 【魔力】B 【知識】? 【創造】B 【錬成】B。
肉体と知識が初期ランクのEと仮定して、保有しているBPは37。魔王カオルが俺やカノンと同じく『スペシャルサービス☆』でボーナスを獲得していれば47だが、俺とカノン以外にボーナスを獲得した魔王は知らない。
最悪の想定でいけば、後1回レベルアップすれば魔王カオルは【創造】か【錬成】か【魔力】がAへと成長する。
可能性としては低いが……どうなんだ?
後1回のレベルアップで【創造】か【錬成】のランクが上がるのであれば……魔王カオルには極力経験値を稼がせたくない。
つまり、配下を一人も倒されることなく……魔王カオルに打ち勝つことが必要となる。
いやいや、無理だろ……。魔王カオルも次のレベルアップで大幅な戦力の強化が見込めるなら、俺を無視して経験値を稼ぐだろう。
もう少し、現実的なことに目を向けて戦略を練り直すか。
魔王カオルのレベルは18で、支配領域の数が71。つまり、魔王カオルの最大CPは8900からバロン級の配下×1000を引いた数値となる。
侵略してきたバロン級の配下の数は4体。
他にも存在する可能性はあるが、とりあえず最大CPは4900と仮定しよう。
そうなると1時間に増えるCPの量は490。魔王カオルの種族である魔王(魔族種)の主力となる魔物は――アークデーモン、カノン曰く創造CPは150。汎用性が高いデーモンの創造CPは50。装備品を加味しなかったら、1時間にアークデーモンを4体、もしくはデーモンを10体以上倒せば魔王カオルの戦力は減少する計算となる。
1時間にその数を倒すのは余裕だが、それを24時間維持するとなると厳しいな。
とは言え、強引に押し進めると配下に疲労が溜まり倒される危険性も高まる。
んー……どうすっかな?
気分転換に自称軍師の話でも聞いてみるか。
「――と言う状況だが、自称軍師よ、何か策はあるか?」
「そうですねぇ……アスター皇国の公認軍師としては、同時に複数の支配領域を侵略。敵の戦力を削り、手薄な支配領域から奪取して敵の総CPを削るべきと進言しますぅ」
「誰が公認したのかは不明だが、悪くはない戦略だな」
「ふふっ……私の軍師経験値は日々成長しているのですよぉ」
カノンは鼻をプクッと膨らませて、胸を張る。
「自称軍師のカノンに助言をしてやろう。戦略を立てるときの最大のポイントは相手の動きを読むことだ」
戦略系のゲームをプレイするときにポイントとなるのは敵の動きを読むことだ。敵の動きを読み間違えたら、悲惨な結果となる。
「ふむふむ……つまり、魔王カオルの動きを予測しろと?」
「いや、こちらの動きに対して魔王カオルがどう動くのかを予測してみろ」
「え? シ、シオンさんが……真剣に私を軍師として育てようとしている!?」
「茶化すならいつもの検索ツールに――」
「わぁー!? ち、ち、違いますよぉ!」
俺が侮蔑の視線を送ると、カノンは慌てて手を振り、訂正する。
「次はないぞ? 先程の話に戻すぞ。カノンの言った戦略を仮に魔王カオルが仕掛けて来たら、どう対応する?」
「えっと、魔王カオルが複数の支配領域を同時に侵略してきたら……どうするのか? と言うことでよろしいですかぁ?」
「そうだ」
「えっとぉ……まずは侵略してきた全ての部隊の戦力を確認しますぅ。弱い部隊があれば、そこはリビングメイルさんを配置して防衛。強い部隊に対してはこちらも相応の戦力で迎え撃つ感じですかぁ?」
「侵略してきた部隊の強さが均一だったら? 例えば5部隊が同時に侵略してきて、全ての部隊が同じくらいの強さだったら?」
「リビングメイルさんじゃ止められないくらいの強さですよねぇ?」
「そうだな」
「んー……5部隊なら、タカハルさん、コテツさん、リナさん、ヒビキさん……後はサブロウを防衛のリーダーとしてサラさんやクロエさんたち他の幹部の皆さんを割り振って防衛ですかねぇ?」
「本当にそれでいいのか?」
俺はカノンの目を見て、確認する
「え……ちょ、ちょっと待って下さいね……」
俺の視線を浴びたカノンは慌てて思考し直す。
「――! 訂正しますぅ! 先程のは凡庸な軍師が思い付く策を試しに言っただけですぅ!」
「俺を試したと?」
「な!? こ、言葉の綾ですよぉ」
カノンはいつも一言多かった。
「で、訂正した内容は?」
俺はカノンとの会話を楽しみながら、魔王カオルに対しての戦略を練るのであった。
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