野々市市侵攻21


 《統治》を仕掛けてから1時間が経過した。


 野々市市役所の外にいた敵対勢力の掃討が完了。野々市市役所内も2Fを制圧し、残りは3Fのみとなった。


 スマートフォンを見ると、所狭しと並ぶのは降伏を示す黄色のドット。


 敵対を示す赤色のドットの数は1,000を大きく下回っていた。


 力で押し切った時もあれば、策を弄した時もあったが、最後のトドメとなったのは内部崩壊か……。


 何とも呆気ない幕切れだろうか。


 石川県統一まで倒すべき勢力はあと一つか……。


 魔王カオル……一筋縄ではいかないだろう。


 こちらの支配領域を侵攻している様子を観察した限り、個の力は十分に高かった。


 敵の主力は恐らく、俺の配下で言うイザヨイ――バロン級の配下。そして、従属させた元魔王。リナやコテツのような元人類の姿は確認出来なかったが、0とは限らない。


 武器の差を考慮すれば、タカハル、コテツ、リナは一対一でも勝てるだろう。しかし、クロエ、レイラはどうだろうか? 魔王カオルの主力と戦えば、恐らく負ける。


 魔王との戦いは対人類と大きく様式が異なる。


 数と戦略が勝負の鍵を握る対人類との戦いに対し、対魔王との戦いは支配領域の侵略――個の力と小隊の連携力が勝負の鍵を握る。


 支配領域侵略は防衛側が有利すぎるんだよな……。


 侵略側は人数制限があるのに対し、防衛側は制限なし。これは非常に大きなかせとなる。チマチマと敵の戦力を削ってレベル上げをしながら侵略するのがベストなのか?


 統治中は手を翳すだけ、暇を持て余した俺が次なる戦いのシミュレーションを繰り返していると……


「シオン、少しいいか?」


 投降した人類の保護を任せていたリナに声を掛けられた。


「どうした? 何か問題でも起きたか?」

「お祖父様から連絡があった」

「コテツから? 用件は?」

「お祖父様たちの状況を把握しているか? とだけ」


 ――?


 把握しているか、と問われれば、していない。


 戦況はすでに消化試合。波乱はあり得ない。


「お祖父様の言葉、確かに伝えたぞ」


 リナはそれだけ伝えると、元の位置へと戻っていった。


 俺はスマートフォンを操作して、コテツの状況を確認することにした。


 コテツの視界を通して周囲の状況を確認。


 壁際に追い詰められた100人を超える人類を、配下たちが取り囲んでいる。


 ――コテツ、状況は把握した。何があった?


「シオン様、聞こえておりますかな?」


 コテツが独り言のように、俺へと語りかける。


 ――聞こえている。


「奴らの言葉はどうですかな?」


 コテツの視線が奴ら――『金沢の賢者』と『金沢の聖女』に向けられる。


「た、頼む……助けてくれ……お、お、俺はいい。仲間の命だけは助けてくれ」

「お願い! 助けて! 私たちも戦いたくて戦った訳じゃないの!」


 必死な形相で命乞いをする二人の姿が映し出された。


 ふむ。俺はスマートフォンを操作して《統治》の画面に切り替える。


 黄色だな……。あれ程威勢のいいことを言っていた二人は完全に屈服している。逆に、『金沢の賢者』と『金沢の聖女』の周囲にいる人類の中には、まだ反抗を示す赤色のドットが複数確認出来た。


 コテツは俺に問いかけている――『金沢の賢者』と『金沢の聖女』の処遇を。


 このまま放置すれば、あの二人は配下となる。待望のヒーラーとバッファー。魔王カオルとの争いを控えているアスター皇国としては、有り難い存在だ。


 しかし――奴らはリナを見捨てた。


 俺の配下になったら命令で縛ることが出来るから、裏切りの心配はない。


 行動も命令で縛ることが出来る……。しかし、言い換えれば常に命令で縛り、常に言動を監視しなくてはいけない。


 『金沢の賢者』はリナから聞いた話では、まだ見込みはある。


 しかし、『金沢の聖女』はダメだ。話を聞く限り、性根が腐っている。タカハル、サラ、ヒビキ、サブロウとは別のベクトルで問題児……いや、災いになる可能性を秘めている。


 リナに聞いたら、何て答えるだろうか?


 恐らく――『シオンに任せる』とだけ答えるだろう。


 俺に『金沢の聖女』を飼い慣らせるか?


 ダメだ……。今時点でこれだけ悩んでいるのだ。配下にしたら悩みは更に増えるだろう。


 『金沢の聖女』を斬り捨てたら『金沢の賢者』はどう思う?


 俺に忠誠を誓うか? 仲間を無惨に殺した俺に……。


 そもそも、『金沢の賢者』の言葉――『仲間の命だけは助けてくれ』は本音か? そんな気概があったなら溝口を死地へと追いやらないだろう。つまりは、ポーズ。


 そもそも俺は金沢解放軍に告げた――『『金沢の賢者』と『金沢の聖女』の降伏だけは認めない』と。


 ならば、支配者として約束を果たそう。


 俺の信頼を損ねてまで欲しい人材ではない。


 ――『金沢の賢者』と『金沢の聖女』は斬り捨てろ。


「よろしいのですな?」


 俺の命令に対して、コテツが確認を取る。


 ――俺は宣言したからな。あの二人の投降は認めないと。


「承知しました」


 ――待て。


 刀を手に取るコテツを制止する。


 ――俺の言葉の後に斬り捨てろ。


「承知」


 俺は【拡声器】を取り出した。


「『金沢の賢者』――安藤英也、並びに『金沢の聖女』――香山沙織に告げる。貴様たちの最後の願いを聞き入れよう!」

「ほ、本当ですか……」

「よ、良かった……」


 【拡声器】を通して告げられた俺の言葉に二人は安堵の声を漏らす。


「貴様たちの願い通り――二人の命をもって残りの人類たちの降伏を認める!」

「えっ!? ち、違う!?」

「わ、私はそんなこと言ってない!」


 俺の言葉を受けて二人の表情が安堵から絶望へと変化。


「コテツ! タカハル! 二人を斬り捨てろ!」

「ま、待って下さい! 僕は使える――」

「待って! 私だけは――」

「承知!」

「あいよ!」


 絶望し、生を求める『金沢の賢者』と『金沢の聖女』が斬り捨てられる。


「金沢解放軍に告げる! 10秒以内に武器を捨て、投降せよ! 全配下に告げる! 10秒後に武器を持つ人類を全て斬り捨てろ! 10、9、8、7、6、5、4、3、2、1……殺れ」


 死を告げるカウントダウンの終了と共に、最後まで残った赤いドットが全て消滅。


 《統治》を仕掛けてから3時間後。


 石川県の地から全ての人類ロウが消滅したのであった。

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