野々市市侵攻13
――総員、陣形を組め!
壁役のアイアンとヒビキの部隊を最前線に、左翼、右翼、中央へと各部隊を展開する簡易的な陣形を指示する。
――サラ、フローラ、クロエ部隊は遠距離攻撃準備!
俺の指示に合わせて、サラたちが魔力を練り上げる。
――ヒビキ、アイアンの部隊は敵のヘイトを集めて、敵を中央に密集させろ!
戦場にオークとリビングメイルたちが打ち鳴らす盾の音が響き渡る。
――タカハル、コテツ、リナ、レッドの部隊は俺の合図に合わせて突撃しろ!
「「「おぉー!」」」
血の気の多いタカハルとレッドの部隊が雄叫びをあげ、銅鑼を打ち鳴らす。銅鑼は士気を高めるためにアキラに制作を依頼していたのだが、使い勝手がよく分からなかったのでタカハルとレッドの部隊に押しつけた物だった。
賑やかになったし、銅鑼を叩いている配下の顔も嬉しそうだし、結果オーライだな。
配下たちの雄叫びに、鳴り響く盾の音と銅鑼の音――喧騒とする戦場の空気を感じながら、俺へ迫り来る人類に意識を集中する。
打ち鳴らされた盾の音に……引き寄せられる人類たち。
距離は……まだだ。サラやクロエなら届くかも知れないが、まだ遠い。
俺は集中力を高めて、人類との距離を測る。
――サラ部隊は《アースジャベリン》を準備! フローラ部隊は《ファイヤーアロー》を準備! クロエ部隊は《アローレイン》を準備せよ!
……今!
――サラ部隊! 放て!
「り! いっくよー!」
「「「――《アースジャベリン》!」」」
人類たちの突撃を遮るように地面が隆起。多くの人類が突起した地面に貫かれる。
――フローラ部隊、クロエ部隊! 放て!
「いくわよ~!」
「「「――《ファイヤーアロー》!」」」
「構え! 放て!」
「「「《アローレイン》!」」」
突撃の勢いが殺され、停止した人類に無数の火の矢と矢の雨が降り注ぐ。
――総員、突撃せよ!
「「「うぉぉぉおおお!」」」
阿鼻叫喚と化した人類へと配下たちが突撃を仕掛けた。
アスター皇国と金沢解放軍。最後の死闘が幕を開けたのであった。
◆
ヘイトコントロールで多少の隊列は乱したが、まだまだ整然としているな。
12人が1組となり、互いをかばい合いながら戦うのが人類の手法だ。怪我をすれば後退し、新たな12人が前線へと投入される。
人類たちはこちらの考えを見透かしたかのように、最前線で盾を打ち鳴らすアイアン部隊――リビングメイルたちを迂回しようと左右に広がる。
まずは、敵の隊列を崩すか。
「イザヨイ、前線へ行くぞ!」
「ハッ! 畏まりました」
――タカハル、ビッグチャンスだ。もう少しで、敵が俺へと押し寄せる! 俺を死ぬ気で守りながら、敵を好きなだけ殲滅しろ!
「死ぬ気で守れとか、もう少し違う言い方はねーのかよ……守るけどな!」
タカハルは言葉とは裏腹に獰猛な笑みを浮かべて答える。
――サラ、部隊を指揮して俺の周囲を注視しろ!
「り! 注視とかシオンっちもヒビっちのアレしちゃう的な?」
――ヒビキ、俺の盾となれ!
「――! ご主人様……喜んで!」
「我が名はシオン! 我に逆らいし不敬なる者よ! 我の名を土産に死地へと旅立つがよい!」
俺はブリューナクの柄を地面に突き立て、口上を述べる。口上は《威圧》となり、周囲に存在する弱き人類たちを恐慌状態へと陥れ、強き人類たちの俺への憎悪を増幅させる。
そして、《威圧》を発動した俺は、【拡声器】を取り出した。
「野々市市役所に引き籠もり、同胞たちを死地へと送る、愚かな二人のリーダーに告げる! 俺はここだ! ここにいるぞ! 『金沢の賢者』並びに『金沢の聖女』、お前たちは来ないのか? 同胞たちを死地へと送り込み、眺めるだけか? 俺は違うぞ? 命を賭して仲間と共に大切な者たちを守るぞ!」
俺は後方に引き籠もっている敵のリーダーを挑発する。
「そして、勇敢にして哀れな人類に告げる! お前たちはそれでいいのか? 20そこらのガキに命じられて命を捨てる……ハッ! 『金沢解放軍』は最高だな!」
最後に周囲の人類たちも挑発する。
「……殺せ!」
「殺せ! 魔王シオンを殺せば俺たちの勝利だ!」
「行け! 行け! 行け! 魔王シオンを討ち取れ!」
「あいつだ……あいつさえ倒せば……俺たちは救われる!」
《威圧》の効果も相まって挑発の効果は絶大だった。
視界に映る全ての人類が、目を充血させ、汚い罵声を叫びながら俺へと殺到する。
「大漁だな。死ぬ気で守れよ?」
「おうよ! 行くぞ! てめーら! 入れ食いだ! オラッ!」
「この命に替えても、ご主人様を守るぴょん! ブタたちよ! 奉仕の時間ぴょん!」
タカハルの部隊が俺へと殺到する人類に突撃し、ヒビキの部隊は俺を守るように円形に展開する。
――リナ! 左翼より俺に殺到する人類たちの横腹を突け!
――コテツ! 右翼より俺に殺到する人類たちの横腹を突け!
リナの部隊とコテツの部隊が大きく迂回し、俺へと殺到する人類の集団を挟み込むように攻撃を仕掛ける。
――レッド、クロエ、レイラの部隊はその場を死守! 防衛ラインを超えようとする人類を叩き潰せ!
全ての人類が俺に殺到するのは物理的に不可能だ。漏れた人類はレッドたちの担当だ。
「殺せ……殺せ……殺せ……」
「ハッ、死なねーよ! イザヨイ、行くぞ!」
「畏まりました!」
無数の人類からの殺意を受けながら、俺はイザヨイと共に攻勢に出るのであった。
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