野々市市侵攻12


 二回目の勧告を告げてから24時間後。


「人類諸君に告げる。本来は約定の時となったが、昨日降伏した木戸氏の懸命な説得に応じ、猶予を24時間延長する! 木戸氏の願いに応え――降伏を望む者は武装を解除し、我が支配領域を訪れよ!」


 木戸氏と言うのは、昨日降伏した人類の中で比較的名声の高い穏健派の人物だ。


 このまま三日間放置しようか悩んだが、24時間経過したら降伏出来ないと勘違いされても困るので、今回の措置を講じた。


 明日も降伏した人類から適当な人物を見繕って、同様の措置を講じる予定だ。


 俺が開戦までに設定した残り時間は――48時間。


 主たる時間の使い道は配下の休養と装備品のメンテナンスだが、それ以外にも情報収集にも力を入れていた。


 情報を収集する元は――降伏した人類。


 田村女史主導の下収集した情報が、俺の元へと次々と送られてきた。


 ・三日前の時点での野々市市役所に立て籠もっている人類の数は約36万人。内訳は、戦闘可能要員18万人、非戦闘員18万人。


 ・昨日、一昨日で降伏した人類の総数は204,768人。


 ・現状、野々市市役所に立て籠もっている人類の数は約12万人。内訳は、戦闘可能要員8万人、非戦闘員4万人。


 ・金沢解放軍の内部は崩壊している。中には、こちらの機嫌を取るために『金沢の賢者』と『金沢の聖女』の首を差し渡そうとする過激派まで存在していた。


 ・降伏しない人類の中心にいるのが、徹底抗戦派。徹底抗戦派の多くは、魔王――更に限定するならば、俺の関係者に家族や親しい者を殺された者が中心になっており、中心人物は『金沢の賢者』――安藤英也と、『金沢の聖女』――香山沙織。


 ・金沢解放軍の中で最強と呼ばれる人類のレベルは54。レベルが50を超える人類の数は15人。その全員が、俺の関係者に仲間や家族の命を奪われており、降伏に応じることはないとの見方だ。


 ・『金沢の賢者』と『金沢の聖女』のレベルは47。共に後方支援を得意としており、前線に出ることは稀らしい。


 今は田村女史が中心となって、降伏した人類の名簿を作成。領民の中に、未だ降伏していない人類の中で家族や友人がいる場合は、電話による勧告活動を実行していた。


 二日間で敵の戦力を70%近く削ることに成功した。


 しかし、逆に言えば残った人類は確固とした決意で抗うことが予想される。


 残りの二日間でどれだけの人類がこちらに投降してくるのかは読み切れないが、残った人類は全員が死に物狂いになるだろう。


 《統治》の仕様上、野々市市役所に立て籠もる全ての人類の心を折る、もしくは殲滅しなくてはならない。徹底抗戦を決意している人類の心を折るのは難しいだろう。そうなると――残された道は殲滅のみ。


 二日後の戦いは厳しい戦いになるだろう。


 俺は二日後に侵攻に備え、様々な可能性を想定するのであった。


 二回目の勧告を告げてから72時間後。


 最終的に投降者の数は初日からの数と合わせて約23万人。野々市市役所に残っている人類の数は戦闘員8万人と非戦闘員1万人。


 数だけ見れば……珠洲市の戦いと同数だが、その全てが魔王カオスではなく俺個人に憎しみを抱いているなら状況は全く異なる。


 確固たる決意を持った8万人との戦いを始めるのであった。



 ◆



「これより、野々市市への侵攻を開始する! 今回は長期戦が予想される! 厳しい戦いになるだろうが、最後に勝つのは俺たち――アスター皇国だ!」


「「「おぉー!」」」


「この後も厳しい戦いが控えている! 故に、俺からの命令はただ一つ――死ぬな!」


「「「おぉー!」」」


「これより、進軍を開始する!」


 1万2千人の配下を連れ立って、進軍を開始した。


 野々市市役所を覆う壁から500m離れた場所に辿り着いた俺は【拡声器】を取り出した。


「人類諸君に告げる! 猶予の期間は過ぎた! 己が選択した道――後悔せよ!」


 ――工作部隊! 投石機を準備せよ!


 俺の命令に応えて、8機の投石機が前線に投入される。


「装填!」


 俺の命令に応えて、焙烙玉が装填される。


「――放てっ!」


 振り下ろした俺の左手に合わせて、焙烙玉が空中で弧を描きながら野々市市役所を覆う壁の門へと飛来する。


 ――ドンッ!


 焙烙玉が門に着弾すると、地を揺らす凄まじい衝撃音が響き渡る。


「装填!」


 俺の命令に応えて、第二波となる焙烙玉が装填される。


 左手を上げて、発射の合図を出そうとすると無数の火矢が野々市市役所の壁の上から飛来してきた。


「フローラ部隊! 投石機を防護せよ!」


 フローラの部隊が投石機を守るように魔法の障壁を展開。


「アイアン部隊! 進軍を開始せよ!」


 そして、矢の雨が飛び交う中、鉄壁の防御を誇るアイアン部隊が進軍を開始。


「サラ部隊! クロエ部隊! アイアンの後方から進軍を開始! 射程範囲へと移動し、打ち合いに応じよ!」


 アイアンの部隊に守られる形でサラとクロエの部隊が進軍を開始。200mほど進んだところで、壁の上から魔法と矢を放つ人類に向けて反撃の魔法と矢を放つ。


 壁の上から攻撃をしていた人類が、ターゲットを投石機からサラとクロエの部隊に移したところで、俺は左手を振り下ろす。


「――放てっ!」


 再び、自由を取り戻した投石機から放たれた焙烙玉が野々市市役所の壁を揺るがす。


 撃ち合いが望みなのか?


 その後も、無数の魔法と矢が空中で交差し互いの陣営に着弾。そして、その隙を付いて放たれた焙烙玉が野々市市役所の壁を揺るがす。


 魔法障壁が存在するこのコワレタ世界では……遠距離攻撃のみで敵を倒すのは互いに至難の業だった。


 魔法障壁によって弾かれる無数の魔法と矢。しかし、確実に門へとダメージを与える焙烙玉。


 消極的ではあるが、戦局はこちらに有利だ。


 門をさっさと破壊して突撃だな。


 と、戦略を練り合わせたその時――開かれた門から装備を固めた人類たちが姿を現したのであった。


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