野々市市侵攻⑦
目の前の侵略者の内訳は前衛が8人に後衛が4人。
装備と立ち振る舞いから判断すれば……厄介なのはミスリル製の装備で身を固め、ユニークアイテムである盾を保持しているリーダー格の男と、ユニークアイテムである杖を保持した後衛の女。
「タカハル、アレは任せた」
俺はリーダー格の男を指差してタカハルに指示を出す。
「お!? あいつをくれるのか? いいねぇ」
タカハルは嬉しそうに指を鳴らす。
「え? ボクは? ボクは?」
セタンタが駄々っ子のように飛び跳ねる。
「セタンタは……俺が合図したらアレを狙え」
俺は後衛の一人を指差し答える。
――サブロウも合図で共に飛び出せ。
そして、サブロウにも念話で指示を伝える。
「リナとコテツとブルーは前衛を相手しつつ、サラとカノンを守れ!」
――行くぞ! タカハル! 吠えろ!
「ウォォォオオオオ!」
タカハルは周囲の大気を揺るがす咆哮を上げると……その身を獣王へと変化させる。
――セタンタ、サブロウ今だ!
タカハルの咆哮で侵略者たちが身を竦ませた隙に、俺とセタンタとサブロウが後衛の人類に向かって一気に駆け出す。
――《偃月斬》!
俺は力の限り手にしたブリューナクを目の前の女へと振り下ろす。
「……えっ」
衝撃波を伴ったブリューナクの一撃を受けた女が、後方へと吹き飛ばされる。
チッ……倒しきれなかった。
「この野郎!」
図らずも俺の背を取る形となった侵略者の一人が俺へと武器を振りかぶる。
――《大車輪》!
俺は自分を軸にその場で回転し、周囲の人類をまとめて吹き飛ばす。
「シ、シオン様……危ないですぞ!」
ギリギリ攻撃の射程外にいたサブロウが大車輪の風圧を受けて、抗議の声をあげる。
「サブロウ! アレのトドメを刺せ!」
俺はそんなサブロウの抗議を無視し、先程トドメを刺せなかった後衛の女へと視線を向ける。
「承知! 我、一陣の風となりて全てを貫かん! ――《ファストスラスト》!」
サブロウは残像を残すほどの刹那の速さで倒れた女との距離を詰め、左胸に突き刺した。
――《一閃突き》!
同時に俺はサブロウが攻撃していた弓を手にした男へと素早い刺突を見舞った。
これで残る後衛は二人。
「な、な、なんだよ……何でこんな化け物がいるんだよ……」
残された後衛の内一人は、突然の仲間の死を受け入れられず発狂している。
もう一人の後衛は――
「あー……ボクが一番最後じゃん」
俺とサブロウに先を越されたのが悔しかったのか、セタンタは頬を膨らませながら目の前のヒーラーの女にトドメを刺した。
「んじゃ、お次は……」
ヒーラーの女にトドメを刺したセタンタは無邪気な笑みを発狂する残された後衛の一人へと向ける。
「セタンタ、待て」
「……はーい」
俺は今にも飛び出しそうなセタンタを制止する。
――《ダークインダクション》!
俺の手から放たれた黒い靄が発狂している男を更に狂わせる。
「セタンタ、サブロウ。次の獲物はあいつらだ」
俺はリナ、コテツ、ブルーと戦闘を繰り広げている前衛の人類に視線を向けたのであった。
10分後。
「……何だよ……こいつらの強さ……反則だろ……」
「うわぁぁあああ!? 死んだ……死んだ……みんな死んだ……」
タカハルと戦闘を繰り広げていたリーダー格の男が地に倒れ、狂った男のみがその場に残った。
「おい」
「アハハ……死んだ……みんな死んだよ……」
こいつに用があったのだが、ぶっ壊れたか?
どうすべきか? と悩んでいると……
――パシャッ!
「正気に戻りますかねぇ?」
カノンの放った低威力の水の塊が狂った男をずぶ濡れにした。
「おい」
「ヒ、ヒィィィ……」
カノンの放った水を浴びたためか、男は多少であるが正気を取り戻す。
「生きたいか?」
俺は怯える男に声を掛ける。
「……ヒ、ヒィィィ」
しかし、男の反応は後ずさるだけだ。
「シオン様、ここは低い声で『Dead or Alive』と問い掛けた方がいい感じ――」
――《ファイヤーランス》!
「――! な、何故……」
俺は耳元で戯言を抜かしたサブロウに炎の槍を放ち、
「こうなりたいか?」
素敵な焦げ方をしたサブロウを指差し、男にもう一度尋ねた。
すると、男は高速で首を何度も横に振る。
「喜べ。お前は生かして帰してやる。但し、戻ったお前は富山県のお仲間さんに伝言を伝えなくてはいけない」
「……で、伝言」
「俺は、高い経験値となる侵略者はいつでも歓迎だ! 来るが良い! 何度でも来るが良い! その度にお前たちは俺たちの糧となる」
「……ヒ、ヒィィィ」
「わかったか? 約束を果たすなら、俺は撤退するお前に手出しはしないことを約束しよう。だから、戻ったら俺の言葉を一言一句間違えずに仲間に伝えるんだ」
「は、は、は、い」
「分かったなら……消えろ!」
「はいぃぃぃぃ!」
最後に殺気を放つと、男は脱兎の如く逃げ出した。
多分……これでいい。下手に来るなとか言えば、敵は喜んでくるだろう。ならば、逆に俺たちの絶対的な強さを見せつけた上で……来い! と言えば、奴らは臆するだろう。
そもそも奴ら――富山県の人類から見れば、俺の支配領域を侵略する優先度はそこまで高くないはず。
「さてと、もう一組の侵略者を掃討しに行くぞ」
消え去る男の背が見えなくなったところで、俺は配下と共にもう一組の侵略者の元へと向かった。
3時間後。
もう一組の侵略者も一人を残して殲滅。生き残りには先程と同様の伝言を伝えた。
これで、富山県からの人類の侵略はしばらく止むだろう。
俺は自室に戻ると明日の準備を進めるのであった。
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