野々市市侵攻⑥
「想像以上の効果だったな」
俺は投降者の数を聞いて驚いた。
「リナさんとコテツさんの存在が大きかったみたいですよぉ」
「なるほど。流石は『黒剣の勇者』様と、『剣聖』様だな」
「特にリナさん――『黒剣の勇者』は金沢解放軍のシンボル的な存在でしたからねぇ」
リナがシンボル的な存在ね……。賢者と聖女は罪悪感からリナをシンボルに祭り上げたのだろうか。
「これで野々市市の侵略は大幅に短縮出来るな」
「ですねぇ」
「カノン、念には念をいれよう。投降者にスマホの使用を許可しろ」
「え? いいのですかぁ?」
「奴らが見たのは最前線の支配領域の入口と、何もない第十支配領域だけだ。漏洩の心配をするような情報はない」
「なるほどぉ……。つまり、投降者たちに投降を呼び掛けさせればいいのですねぇ?」
俺はカノンの言葉を聞いて首を縦に振った。
しかし、7万人超えか……。
武装は解除させたとは言え、魔法を使える者も居れば、格闘術に秀でた者もいるだろう。万が一の反乱に備えて……分断すべきか?
しかし、分断させるとそれだけ監視の数も増やす必要が生じる。
今は戦力に余剰はない。
――ヤタロウ、第十支配領域の権限を委譲する。投降者の生活圏外を罠で取り囲み、その旨を伝えておいてくれ。
仮に反乱を起こしても第十支配領域はくれてやる。しかし、その代償は――神器の経験値だな。
武装が解除された人類が7万人以上……。神器の糧にすると言ったら、タカハルあたりが大喜びしそうだ。反乱を起こしたのであれば、討伐しても領民も納得はする。
俺は予想外に多かった投降者の処理を終え、次なる戦いへと頭を切り替えることにした。
投降者の数は7万人以上。投降者の呼びかけにより、投降者の数は今以上に増える可能性もある。更にはシンボル扱いしていたリナの生存。金沢解放軍の内部は大いに揺れているだろう。
次の戦いが大きなターニングポイントになるな。
士気が低下しているところを一気に叩く。倒せた敵の数が多ければ多いほど……金沢解放軍の士気は連鎖的に低下するだろう。
ならば、次の戦いで俺たちが金沢解放軍に与えるべきは――絶対的な絶望だ。
その為には、出し惜しみすることなく戦力を投入する必要がある。
俺はスマートフォンを操作して、支配領域の状況を確認する。
白山市の支配領域では、魔王カオルの軍勢が相変わらずのハイペースで侵略を進めている。
富山県と面した支配領域では、二つの支配領域が富山県の人類から侵略されている。
魔王カオルの軍勢は放置するとして、富山県からの侵略者はさくっと掃討して……イザヨイの防衛の任を解く必要がある。
――全幹部に告げる! これより富山県の人類から侵略されている支配領域の防衛を行う! 体力に余裕がある者は俺の下に集まれ!
10分ほど待つと、全ての幹部が俺の下に集結した。
「ったく……体力に余裕のある者って言ったよな?」
一部の幹部の姿を見て、俺は苦笑する。
「まぁいい……選抜は俺が行う! 選抜されなかった者は明日に備えて休養せよ!」
創造された配下はこの辺の融通が利かない。クロエやレイラは明らかに疲労が残っており、レッドやノワールとルージュの身体には多くの裂傷が残っている。
「タカハル! サラ! サブロウ! イザヨイ! セタンタ! ブルー! そして――」
「え? ちょ? 気のせいっすか……場違いな名前が……」
名前を呼ばれて驚くブルーを無視して、俺はリナとコテツに視線を移す。
「――リナ、コテツ。相手は人類だが、いいのだな?」
「何を今更!」
「明日戦う相手も……今後戦う相手にも人類は含まれるじゃろ」
俺の心配をよそに二人は力強く一歩前へと踏み出す。
「あ、あと……ついでにカノン」
「えっ? ついでは余計ですぅ」
カノンの経験値稼ぎの優先度は高い。
「ご、ご主人様……私は!?」
「ヒビキ……お前は明日に備えて傷を癒やせ」
「――! ご、ご主人様が私に……卑しき豚にも劣る私に優しいお言葉……!? 否! ご主人様! 私も行けます!」
「ヒビキ……無理をするな」
「無理などしておりませぬ! ご主人様はただ一言……『この卑しき豚め! 俺様の肉盾となり、汚らわしい悲鳴を――」
――ヒビキ、黙れ! ……そして、休め。
俺は暴走する
「後は俺を含めた10名で富山県の人類を掃討する! 圧倒的な力の差を見せつけるぞ!」
「「「おぉー!」」」
昂ぶる配下と共に富山県の侵略者を掃討すべく、移動を開始するのであった。
◆
【転移装置】を駆使して先回りをした俺たちは富山県からの侵略者の到着を待っていた。
「ふむ……。金沢解放軍の安藤さんが言った通り、手薄だな」
「このままさくっと解放しちまおうぜ!」
「へへっ。
「油断はしないで! 先行したブラックラーレの人たちはまだ帰還してないのよ!」
「どっかで転移でもして道草でも食ってんじゃねーの?」
静かな支配領域の中、男女の声が響いてきた。
「正解! 先発したお前たちのお仲間はあの世で道草を食ってるぞ」
「――!?」
「だ、誰だ……!?」
俺の声に反応した侵略者が武器を身構える。
「人様の家に土足で上がり込んで、誰だとは失礼だな?」
「シオンっちって人だっけ?」
「どうだろうな……魔王で吸血鬼だろ? 違うんじゃね?」
「でも、この魔王様の家に土足で~って語呂が悪くないですぅ?」
「我が輩に聞いてくれれば、最高の口上をお教えしたのだが……」
アホ4人が俺の言葉に茶々を入れる。
――タカハル、バイク没収な。サブロウ特製の原付以外の搭乗を禁止する
――サブロウ、サラとカノンの吸血を許可する。しかし、その後俺の特殊能力の練習に付き合え。
「おい!」
「……マ!? シオンっち……シオン様……あーしが悪かった……許して……下さい……」
「シオンさん……何をすれば許してくれますか……」
「シオン様……後半のご命令が理解出来ぬのですが……」
アホ4人は事の重大さに気付き……生まれたての子鹿のように震える。
「次はないぞ」
俺の言葉を受けて4人は高速で首を何度も縦に振った。
「おい! ふざけてんじゃねーよ!」
俺たちの様子を見た一人の人類が激昂して剣を振り上げた。
「はぁ……」
魔王らしい登場も叶わぬまま、俺たちは侵略者の掃討を開始するのであった。
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