石川工業大学の攻防⑦


(リナ視点)

 魔王カオス人類ロウ――アスター皇国と金沢解放軍による生き残りを賭けた戦いが始まった。


「スイレン! タカハルの部隊に左前方から迫る敵に攻撃を放て!」

「リナ姉様了解です! みんな行くよっ! ――《ファイヤーアロー》!」


 ハイピクシーの副官――スイレンが私の指示に従い、配下のピクシーと共に無数の火の矢を放つ。


「ブルー! 私と共にヒビキの部隊に群がる敵に対し側面から突撃だ!」

「了解っす!」


 私は配下を率いて、無駄に露出をしながらポージングをするヒビキと、盾を打ち鳴らすオークの集団に群がる敵へと突撃を仕掛けた。


 私は神器であるグローソードではなく、ランクAの剣――レーヴァテインでオークに斧を振り下ろそうとする人類を薙ぎ払う。


「……黒髪のダンピールか? 珍しいな」


 大剣を肩に担いだ男が私を一瞥する。私は無言で剣を構える。


「ん? さっき叫んでたってことは、お前さん眷属だろ? 死んで貰うぜ! ――《パワースマッシュ》!」


 男は力任せに肩に担いだ大剣を私へと振り下ろす。


 打ち合うのは……避けた方がいいな。


 私はバックステップで振り下ろされた大剣の一撃を躱し、がら空きになった男の胴へとレーヴァテインを一閃する。


 ――《スラッシュ》!


「――ッ!? な、なんだ……その……剣の切れ味は……反則……だろ……」

「すまない」


 私の振り下ろしたレーヴァテインはミスリル製の鎧を容易く斬り裂く。斬り裂かれたことにより蹌踉めいた男の首筋をレーヴァテインで横薙ぎに一閃した。


 私の守るべき仲間も――そして、家族もアスター皇国にいる。


 故に、私は迷わない。


 私はかつての同族であり、今は敵へとなった人類へと信念をもって武器を振るい続けた。


 ――リナ! レッドの部隊が押されている。援護に回れ!


 ――タカハル! ヒビキに群がる人類どもを駆逐せよ!


 ――レイラ! その場を死守しろ!


 ――レッド! 突出し過ぎだ! それ以上は先へ進むな!


 脳内に直接響くシオンの命令に従い、私たちは行動を開始する。


「ご主人様……! 私は……私たちスクラーヴェシュバインへのご命令は!」


 ――ヒビキ、えーっと……死なない程度に頑張れ。


「念話でも伝わるこの冷めた声……ありがとうございます!! ――《パーフェクトボディ》!」

「ブルーよそ見をするな!」

「味方ながら恐ろしい存在っす……」


 無駄に身体を光らせてサイドチェストのポーズを決めたヒビキに気を引かれたブルーとゴブリンたちを叱咤する。


「ブルー、ヒビキの部隊に異動したいのか?」

「わ、わ、わ……勘弁っす! お前たち! 行くっすよ!」

「「「ギィ!」」」


 ブルーは速度を一段階上げると、配下のゴブリンを引き連れてレッドと対峙している人類へと疾駆する。


 敵は決して弱くはない。事実、私の配下であるゴブリンが何体も消滅させられている。


 しかし――勝てない相手ではない!


 私はレーヴァテインを振り上げ、レッドの部隊と対峙している人類へと攻撃を仕掛けるのであった。



 ◇



(コテツ視点)


 ふむ……。アイアン=シオン――莉那から聞いてはいたが、優秀な仲間じゃな。


 儂は石川工業大学の正門前で隊列を組んで、鉄壁の陣を敷くアイアンに感心する。


 強固な耐久性と高い盾の技術――そして、恐怖心が一切なくシオンの命令通りに仲間を献身的に守護する姿勢。


 完璧なまでの役割分担に特化した存在じゃった。


 今回の戦争とも言うべき規模の戦い――儂はある程度の犠牲は覚悟しておった。


 副官には弟子でもある人類の――ヨイチ=シオンと、ダンピールのカネツグ=シオン。そしてセタンタ=シオン。他にも10人の人類と990体のダンピールが儂の配下として部隊に配属されていた。


 シオン様からはダンピールの被害――消滅は割り切るように命令されておった。しかし、僅かな期間とは言え、共に鍛錬をした仲間。出来る限り被害は最小限に留めたかった。


 今回共にした990体のダンピールは全滅――そして、シオン様から新たに990体のダンピールが補充。と言う、悪魔のようなサイクルも想定しておったが……


「……守れるかも知れぬな」

「ん? コテツ様、何か仰りました?」


 思わず溢れた儂の独り言に、ヨイチが反応する。


「何でもない。ヨイチ、セタ坊よ……アイアン殿に群がる敵を一掃するぞ!」

「ハッ!」

「はーい!」

「カネツグ、ダンピールたちに命令じゃ。半数は後方より魔法による援護。半数は儂と共に討って出る!」

「畏まりました」

「仲間を、家族を――アスター皇国を守るため――いざ参る!」


 儂は愛刀――佐山の柄を握り、アイアン殿に引き寄せられる人類へと攻撃を仕掛けた。


 ――《空刃》!


 振り下ろした佐山から放たれた見えざる斬撃が、リビングメイルへと剣を振り下ろそうとしていた人類の腕を斬り飛ばす。


 ――《牙突》!


 儂は大きく前へと踏み出して突き出した佐山の切っ先を人類の喉へと突き立てる。


「――! ……じ、爺? ま、魔族か?」


 喉を貫かれ倒れた人類の側にいた男が儂の姿を見て騒ぎ出す。


「失礼な奴じゃな……儂は歴とした人よ」

「人……人だと!? 何で人が魔王の――大敵魔王シオンに与する!」

「守りたいモノを守るためじゃ」

「守りたいモノだと……!? 人の世以上に守りたいモノなどあるのか!」

「ある。儂の主シオン様が治めるアスター皇国――そして共に戦う仲間と家族じゃ!」

「耄碌爺がふざけるなぁぁああああ!」


 儂の答えを聞いた人類が憤怒し手にした斧を振り上げ、迫り来る。


「ふざけておらぬよ――《孤月》!」


 儂は迫り来る人類が手にした斧が振り下ろされるよりも早く、佐山を一閃。


「……グハッ……う、裏切り……者……」


 斧を手にした男は恨み言を吐き捨て地に倒れた。


「裏切り者か……大切な者を守るためならば……儂は悪魔にでも修羅にでもなる――ヨイチよ! 敵を殲滅するぞ!」

「承知しました!」

「あははー! コテツ爺ちゃん喋ってる暇あったら敵を倒そうよっ」

「そうじゃな」


 儂は苦笑を浮かべる。


 人としての情けを断ちて、神に逢うては神を斬り、仏に逢うては仏を斬る。


 大切なモノを守るため、修羅と化した儂はアスター皇国の敵を斬り捨てるべく佐山を構えて人類へと攻撃を仕掛けるのであった。

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