石川工業大学の攻防③
「なるほど……これが人類の狙いか」
俺は石川県の地図を眺めながら、今後の行動方針を考える。
■■■■■
■■■■■ ■=アスター皇国
○○○■■ ☆=野々市市役所
○☆○■■ ○=人類の土地
○○○■■ ▲=魔王カオルの支配領域
▲▲○■■
▲▲○■■■
▲▲▲○○○
▲▲▲▲▲▲▲
▲▲▲▲▲▲▲
金沢解放軍の狙いは、飢えた二匹の虎の前に餌を投げ込み競い合わせる――
ここでいう二匹の飢えた虎とは――俺と魔王カオル。
投げ込まれた餌は――無防備の土地。
奇しくも、以前カノンの唱えていた策略を人類が用いた形となった。
人類は俺たちを南下させ、魔王カオルの軍勢を北上させた。より多くの土地を《統治》するために、多くの人類が控えていた西側を避けて俺たちは南下した。同様に、魔王カオルも西側を避けて北上した。残った白山市の土地は俺の支配領域と魔王カオルの支配領域の両方と隣接している。同様に人類の拠点としている野々市市も、俺の支配領域と隣接すると共に、魔王カオルの支配領域とも隣接していた。
これは困った……。
ベストの解決方法は――魔王カオルと同盟を結ぶこと。
まずは、目先の金沢解放軍を殲滅し改めて仕切り直すという作戦だが……あり得ないだろう。
同盟を結ぶメリットは互いにあるかも知れないが、落としどころがない。
仮に、残った石川県の土地を二分する約束を交わしたとして……どちらが野々市市役所を攻める? 《統治》と言う仕様上、範囲内の敵対勢力――つまり、魔王カオルの配下を含む敵を全て殲滅しないと《統治》は成功しない。
野々市市役所を攻め落とすのは不可能ではないが、多大な時間と犠牲が必要となる。しかも、仮に同盟を結べたとしてもその期間は金沢解放軍を殲滅するまで。金沢解放軍を殲滅してしまえば、また敵同士の関係となる。
仮に、俺が野々市市役所を攻めるとする。その為には多大な戦力を投入する必要があるだろう。その隙に、魔王カオルが俺の支配領域を攻めないと言う保証はあるのか?
約束を破った! 裏切り者! と信頼度を落とすかも知れないが……それは誰に対して? 俺に対しての信頼度を落としたところで、どちらにせよ数日後には争うのだ。逆に魔王カオルが野々市市役所を攻めると言い出せば、俺はその隙に魔王カオルの支配領域を侵略するだろう。
脅威度としては野々市に立て籠もっている金沢解放軍より魔王カオルの軍勢の方が数倍も上なのだから。
ならば、人類と同盟……いや、勧告を促すか?
成功率は――極めて低いだろう。金沢解放軍は全戦力が温存されている。挙げ句に、このコワレタ世界の
困ったな……。
ここは後の先……。敵の動きを見るか。
俺は動かないことを選択。その隙に魔王カオルが人類の土地を《統治》するなら放置、あわよくばそのまま野々市市に侵略するまで待機。野々市市に侵略を開始したら全力で魔王カオルの支配領域を侵略しよう。
動かなかったら……その時はまた策を練るとしよう。
俺は丸一日様子を見ることにした。
◆
翌日。
昨日まであれ程までに果敢に《統治》を繰り返していた魔王カオルも動くことなく、石川県に久しぶりの平穏な日が訪れた。
魔王カオルは俺と同じ考えなのか?
俺が動くのを待っている?
1.魔王カオルが野々市市役所を攻めたら、俺は魔王カオルの支配領域に侵略する。
2.俺が野々市市役所を攻めたら、魔王カオルは俺の支配領域に侵略してくる。
3.俺が野々市を無視して魔王カオルの支配領域に侵略したら……? 恐らく、野々市市役所の人類が俺と魔王カオルの支配領域に侵略してくる。
1の結果がベストだが、魔王カオルは動かない。そうなると、選べる未来は2か3となる。
……ん? 待てよ? 1にしても2にしてもトリガーは野々市市役所の侵略だ。
空白となっている白山市の残った土地に《統治》を仕掛けたらどうなる? 人類が邪魔してくることはない。魔王カオルは邪魔してくるだろうか?
邪魔してくるなら、めでたく人類による
俺と魔王カオル――飢えた二匹の虎は餌となる土地を奪い合って互いに消耗する。
しかし、魔王カオルが白山市の土地に《統治》を仕掛けたら、俺は様子見をする予定だった。ひょっとしたら、魔王カオルも様子見をするのでは?
そうなると、どうなる?
俺は地図に設置した各勢力を模した駒を色々と動かしながらシミュレーションを続ける。
そして、一つの道に辿り着いた。
ベストではないが、選べる選択肢の中ではベターな道なのか?
どちらにせよこの方法を採るなら、準備が必要だな。
停滞するのはどの勢力も変わらない。ならば1ヶ月を要して入念に準備しよう。その間に痺れを切らして動いた勢力が現れたら儲けものだ。
俺は幹部を呼び出し、準備を行うのであった。
◇
1ヶ月後。
結局、俺を含めたどの勢力も動くことはなく、小康状態が続いていた。
1ヶ月の間、リナやタカハルたち幹部連中は経験値稼ぎとして氷見を始めとした富山県の支配領域に出稼ぎに出掛けたり、部隊の配下との演習を繰り返していた。侵略者の数もめっきり減少して暇を持て余したヤタロウは俺と共に試行錯誤しながら《支配領域創造》を続けていた。
準備は万全だ。
「これより白山市の《統治》を開始する!」
俺は居並ぶ配下に命令を下したのであった。
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