金沢市侵攻10


 防衛ラインの最前線では怒号と衝突音が響き渡っていた。


「クソッ! この鎧堅いぞ!」

「グール以外もやはり戦力はいたのか……!」

「ここが正念場だ! 攻めろ! 攻めろ! 攻めろぉぉぉおお!」


 憎悪ヘイトをコントロールされた人類たちは盾を打ち鳴らすリビングメイルと、ポージングを決める変態ウサギへと殺到。


「ハッハー! 入れ食いだぜ!」

「タカ兄、勝負する?」

「バーカ! カウントする余裕はねーよ!」


 嬉しそうに人類に猛威を振るうタカハルとセタンタ。


「――《ファイヤーランス》! にしし……あーしのフォローがないとダメダメっぽ?」

「るせぇ! 余計なお世話だ!」


 タカハルの背後から攻める人類の顔面に炎の槍を放ったサラが楽しそうに笑うと、タカハルは八つ当たりのように近くの人類へと回し蹴りを放つ。


「放て! 放て! 放てぇぇぇええ! シオン様の威光を愚かな人類共に刻み込め!」


 クロエは最前線で戦う配下たちに当たらぬように、後方から押し寄せる人類の集団へと狙いも定めずに矢を放ち続ける。


「――《アイスバレット》! レッド! 防御が疎かになっているぞ!」


 レイラたちダンピールの集団は最前線で戦うレッドたちオーガをフォローする形で氷の弾丸を放ち、


「――《ウィンドシールド》! 無駄よ~」


 フローラたちリリムの集団は、後方の人類から放たれる矢や魔法に対して障壁を展開して配下をフォローしていた。


「ここが一番美味しいっすね!」

「ほぉ……。利口な者もおったか」


 ブルーとコテツはヒビキに群がる人類を背後から斬り付ける役に徹していた。


 戦況は優勢。


 優勢の理由は個の力が勝っている……と言うのもあるが、最大の要因は疲労だ。


 白山市から出戻っていた金沢解放軍の主力部隊は、3時間ほど前まで5,000体のグールと戦闘をし、つい先程まで魔王カオルの主力部隊と戦い、休養の間もなく石川大学へと出戻りだ。


 移動中に少しは休めたかも知れないが、疲労困憊しているのは目に見えてわかった。


 このままいけば、《統治》の成功は確実だな。


 俺はスマートフォンを操作して周囲5kmの状況を今一度確認する。


 ん?


 ――サブロウ! 部隊を引き連れて指示した位置へと移動せよ!


 一部の人類が防衛ラインを迂回して石川大学を目指している。その数はおよそ500人。俺は別働隊として待機させていたサブロウに命じて、迂回しようとした人類の迎撃を命じる。別働隊の兵力数は100人の為、防衛ラインから500体の配下も同様にサブロウに指示した位置への移動を命令した。


「畏まりました! チームJ移動を開始しますぞ!」


 チームJ? サブロウの部隊に名があるとすれば――第三遊撃部隊だ。


 J? 何の頭文字だ?


 5分ほど戦況を眺めていると、サブロウたち第三遊撃部隊が迂回しようとしていた人類たちと鉢合わせになった。


「ふっふっふ……。不運な人類よ。虚を突いたつもりであろうが、この深淵の主――ダークネスドラクル三世の千里眼からは逃れられぬよ」


 元魔王の精鋭とダンピールを率いるサブロウが、迂回しようとしていた人類たちの行く手を阻む。


 《統治》の副作用でわかる周辺地図は千里眼と言っても差し支えないほどに便利な機能だが……断じてサブロウの能力ではない。


「クソッ! こんな場所にも敵は潜んでいたのかっ!」

「敵は少数だ……。突っ切るぞ!」

「ネームドか……。油断はするな……」


 サブロウたちと対峙した人類は武器をその手に取り戦闘態勢へとはいる。


 ネームド。つまりは、名有り――眷属。その認識は合っているが、人類もまさか目の前のダーク某と名乗った変態が魔物じゃなくて元魔王(元人類)とは思うまい。


「少数? ハッハッハ! 見くびられたものよ! 我らは魔王シオン様の懐刀――チームジョーカー! 我らと邂逅した不運を呪い、死すがよい!」


 チームジョーカー……? Jはジョーカーの頭文字か?


 先程の謎は解明されたが、名付けの親が俺だと思われたら最悪だ……。


 ――サブロウ、そこにいる人類は一人も生きて帰すな! それと、俺の与えた部隊に変な名称を付けるな!


 眷属の名付け親が魔王であることは人類にとっても周知の事実だ。生き延びた人類がいれば、俺は眷属にダーク某と恥ずかしい名前を付け、部隊にはジョーカーと香ばしいネーミングを付ける魔王だと流布される恐れがある。


「御安心下さい……敬愛なる我が主――シオン様。彼らの生き血を貴方様に捧げましょうぞ!」


 サブロウは芝居がかった仕草で口上を垂れる。サブロウが俺に捧げているのは、生き血ではなく生き恥だと言うことを教える必要があるな……。


 頭を抱える俺をよそに、サブロウたちと人類の戦闘が開始した。


「合わせますよ?」


 サブロウが吸血種の元魔王二人に視線で合図を送る。二人の吸血種の元魔王は無言で首を縦に振る。


「深き闇の風に包まれ、永久の眠りを「「「――《ダークナイトテンペスト》」」」」


 サブロウと二人の配下が放った闇の暴風が人類を包み込む。


「さぁ! ジョーカーと名付けられし我らの力を奴らに叩き込みなさい!」


 サブロウの命令に従い、鬼種、獣種、魔族種、スライム種の元魔王たちが人類へと突撃する。


「フッ……サラたんの息吹が私の中で蠢いています。レディーたち? 準備はいいですかな? いきますぞ!」


「「「――《サンダーストーム》!」」」


 サブロウは女性のエルフ種、妖精種の元魔王と共に紫電を帯びた暴風を放つ。


 魔族種の元魔王も突撃じゃなくて、こっちの魔法に加えてやれよ……。


 ツッコみどころは多々あれど、元魔王たちの個々の戦力は凄まじく個の力で数の差を押さえつける。


「アスター皇国幹部――ダークネスドラクル三世。一陣の風となりていざ行かん! ――《ファストスラスト》!」


 最後はサブロウ自身も刺突剣を構え、人類の集団へと攻撃を仕掛けたのであった。



 ◆



 《統治》完了まで残り20分。


 防衛ラインは崩されることなく優勢な状況を維持し、迂回してきた人類もサブロウたち第三遊撃部隊が見事に押さえ込んでいる。


 元魔王部隊強いな。連携こそは取れていないが、個の力で圧倒する第三遊撃部隊。


 第三遊撃部隊に配属した元魔王たちはタカハルやサラたちと違い、特化型ではない。創造と錬成にもBPを振っていたため、幹部の元魔王と比較すると弱くは感じるが……鬼種の元魔王とレッドだとどちらが強いのだろうか? 吸血種の元魔王とレイラだとどちらが強いのだろうか?


 特に細かな指示を出さなくても《統治》は成功すると感じた俺は、スマートフォンのライブ映像をサブロウ視点とコテツ視点に切り替えながら、強さの比較をしていた。


 元魔王のほうが戦い方に癖がある。対して創造された配下たちの戦い方は単調的だ。痛みや死を恐れずに敵と戦う。


 創造された配下と、元魔王の配下――どちらの戦闘スタイルも長短はある。


 タカハルやサラみたいに突き抜けた強さなら別だが……そうでないのならば、従順な創造された配下の方が使い勝手はいいのか?


 しかし、元魔王という生き物は……協調性が皆無だな……。


 俺は好き勝手戦う第三遊撃部隊を見て、ため息を溢す。


 まぁ、味方の戦力分析はこのくらいにして……金沢解放軍の戦力分析に集中するか。


 金沢解放軍の最大の特徴は――連携力だ。


 小隊? 分隊? パーティー? 何と表現するべきか悩むが、12人1組での行動が徹底されていた。互いに死角をカバーし、ケガを負えば後ろに下がる。役割も、アタッカー、タンク、ヒーラーとゲームのように分類されている。


 個の力ではこちらが勝っている。こちらの個の力の平均値を10とすると、金沢解放軍の個の力の平均値は5だ。しかし、120対120の戦いで見ると……こちらは120×10の力に対し、金沢解放軍は120ではなく12×10の人数となる。12人の力も5×12ではなく、5×12×1.5=90と言う感じだろうか。そうなると、金沢解放軍の力は90×10で900になる。


 個の力の差を大きくしている要因は装備しているアイテムだ。同等の装備であれば、下手したら突破されていた可能性もある。何より、金沢解放軍は疲労している。万全の体制であったなら、装備で勝っていても苦戦していたかも知れない。


 部隊編成と連携力が今後の課題だな。


 俺は今後の戦いを見据えながら、敵の戦力を分析し続けるのであった。

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