金沢市侵攻⑨
――リナ、100体のダンピール、100体のダークエルフ、50体のリビングメイルと共に、その場に残り人類を監視せよ!
降伏した人類に対して監視に置く配下の数は少ないが、人類からは武器を取り上げているし、戦意も喪失している。万が一の事態が発生しても、リナの命だけは守れるだろう。
――残りの配下は幹部たちの指示に従い、移動を開始せよ!
俺は配下に命令を下すと、幹部たちのスマートフォンに移動する地点の位置情報をメールする。
クロエたちにもスマートフォンは渡してあるが、操作は不慣れだ。メール画面も開けずにアタフタとしている。
――タカハル、サラ、ヒビキ、コテツの誘導に従い、移動を開始せよ!
今度、創造した配下の幹部を集めてスマートフォン講座を開催する必要があるな……。
――~♪
ん? 俺のスマートフォンがメールの受信を告げる電子音を鳴らす。
『オイラもわかるっすよ!(^_^)v』
メールの送信者はブルーだった。
あいつメールまで……と言うか、顔文字まで使いこなせるのかよ……。
――~♪
『既読スルーっすか?(>_<)』
メールに既読スルーはねーよ……。中途半端な知識を付けやがって……。
――ブルーも誘導に参加しろ!
『了解っす!(^_^)v』
「こっちっすよ!」
ブルーが楽しそうに誘導に参加し始める。
白山市に向かった人類が到着するまで……早くて30分。現実的な時間を考えるなら45分ほどか?
出戻りの人類たちが《統治》エリアに入れないように防衛ラインを構築するのであった。
◆
《統治》完了まで残り40分。
防衛ラインの最前線に立っているタカハルの視界の先に複数台の自動車が映った。
【世界救済プロジェクト】により与えられた力で人工の建物を破壊することは不可能だが……自動車などの人工物は破壊可能であった。
このコワレタ世界では……自動車は貴重品だ。工場があれば生産することは可能だが、全国から部品を集めるのは困難だった。支配領域誕生による物流の断絶は人類の世界に多大な影響を及ぼしていた。
先頭を走っていた一台のセダンがこちらの防衛ラインに気付き、停車する。防衛ラインとセダンまでの距離はおよそ300メートル。残念ながら射程範囲外だ。
次々と後続から到着する自動車から人類たちが降車する。
防衛ラインで構える配下の数は――10,000。
慌てて先行してきた人類は数の差に畏れ、その場で踏みとどまる。
このまま《統治》が完了するまで踏みとどまってくれれば万々歳だが……。
《統治》完了まで残り20分。
集結してきた人類の数が3万人を超えた頃――勇ましい怒声と共に人類たちが攻撃を仕掛けて来たのであった。
「ふぁ~。やっとかよ……このまま睨めっこで終わったらどうしようかと思ったぜ!」
「シオン様も『動くな!』なんて……意地悪な命令をするよね!」
戦闘狂(バトルジャンキー)のタカハルとセタンタが楽しそうに笑みを浮かべる。
――コテツ、指揮を執れ! 最優先すべきは防衛ラインの死守だ!
俺の命令が届いたコテツが黙って首を縦に振ると、
「タカハル、セタ坊。突出はするでないぞ。敵は放っておいても向かってくる」
「あいよ」
「はーい」
真っ先に突出しそうな二人の動きを牽制。その後、チラリとクロエやレイラたちに視線を送る。
ん? そういえば、コテツはクロエたちとの面識は少ないのか……。
――クロエ、弓部隊の指揮を執れ!
「畏まりました!」
――レイラ、フローラと共に魔法部隊の指揮を執れ!
「承知しました!」
「は~い」
コテツは、俺の命令を聞いてホッとした表情を浮かべる。
「サラ、タカハルとセタ坊をフォローするのじゃ」
「り」
「あん? フォローなんていらねーよ!」
「えっ? ボクも?」
タカハルは不満を露わに舌打ちを鳴らし、セタンタは驚きの表情を浮かべる。
――タカハル、セタンタ! コテツの指示に従え!
「……あいよ」
「はーい」
リナを残したのは失敗だったか? とは言え、あの場を任せられるのはリナしかいなかった。俺は、コテツのフォローに回ることにする。
――タカハル、セタンタ。コテツの代わりに司令塔になるか? 但し、司令塔になったら周囲に気を配れよ? 最前線で戦うことは許されないぞ?
俺はタカハルとセタンタのみに届くように念話を送る。
「うわっ……!? そんな脅しありかよ! わかったよ!」
「ボクはコテツ爺の言うことをちゃーんと聞くよっ!」
狼狽しながらも従順になる二人をよそに、
「攻め立てろぉぉおおお! 石川大学を目指すのだぁぁああ!」
「「「うぉぉぉおおおお!」」」
人類たちの集団はすぐそこまで迫っていた。
「構えよ!」
クロエの凜と響く声音に従い周囲のダークエルフが弓の弦を引き絞る。
「今だ! 放て! ――《イーグルアロー》!」
率先して放たれたクロエの矢に先導されるかのように無数の矢の雨が迫り来る人類を迎え撃つ。
「我らも続くぞ! 放て! ――《アイスバレット》!」
「いくわよ~! ――《サンダーアロー》!」
続けてレイラと共にダンピールの集団が氷の弾丸を放ち、フローラと共にリリムの集団が紫電を纏った矢の雨を降らせる。
「一人も抜かせるでない! リビングメイルよ! 盾を打ち鳴らすのじゃ!」
コテツの怒号に従い、隊列を組んでいるリビングメイルたちが盾を打ち鳴らす。
「ヒビキよ! 人類を中央に集めよ!」
「承知! 生ある全ての者よ……我が肉体に酔いしれん! ――《パーフェクトボディ》!」
リビングメイルの打ち鳴らす盾の音をBGMにして黄金に輝く半裸の変態ウサギがポージングを決める。
「タカハル! セタ坊! 今じゃ!」
「おうよ!」
「はーい!」
響き渡る盾の音と、突如降臨した変態ウサギに戸惑う人類に二人の戦闘狂が獰猛な笑みを浮かべて突撃。
「鬼たちよ! 敵を蹴散らすのじゃ!」
「「「おうよ!」」」
踊るように敵の前線で暴れ回るタカハルとセタンタに混乱状態に陥った人類へ、レッド、ノワール、ルージュを筆頭としたオーガの集団が突撃を仕掛ける。
こうして、対金沢解放軍との本当の戦いが幕を開けたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます