金沢市侵攻③
正門前に立ち塞がっていた半数――約15,000人の人類が己を奮い立たせる雄叫びを上げながら突撃してきた。
最前線にいるのは高ランクの人類なのだろうか? 身に纏っている装備品が、ミスリルシリーズで統一されている者も多く、過去の戦いのように装備品でイニシアティブを取るのも難しくなってきた。
ミスリルシリーズは錬成ランクBで錬成可能なアイテムだ。人類は自らの手で創り出すのは不可能かも知れないが、配下の魔物に配備している支配領域は多い。人類が装備しているアイテムの多くは、そのような支配領域からの戦利品と予測される。
珠洲市の人類と比べると装備品が充実しているな……。
――その場に留まり、敵の攻撃を食い止めよ!
俺は前線で戦う配下たちに防御中心の命令を下す。
2000体のグールの姿は壮観だったが……15,000人で突撃してくる人類と比べると、流石に厳しいな。
――イロ、ハニ、ホヘトを除いた眷属は第一支配領域に撤退せよ!
――ヤタロウ、追加で100人の眷属と1000体のグールを増援で送り込め!
――タスク、金沢解放軍と俺たちが衝突した情報をネットにジャンジャン流せ! 均衡しているとの誤情報も流して、魔王カオルを攪乱させろ!
俺は矢継ぎ早に配下たちに命令を下す。
最悪の結果は――魔王カオルは陽動に応じずに、眷属と多くの配下を失うだけの未来。
お膳立ては整えた。さっさと動けよ……。
出来ることはやった。後、俺がすべきことは画面に映る戦いを見届け、人類の戦力を分析することであった。
人類とイロ、ハニ、ホヘトが率いる配下たちが遂に衝突する。
人類は小隊制を採用しているのだろうか。複数人の人類が周囲の人類に指示を出し、10人ほどの人類が連携を巧みに取りながら、グールたちを次々と葬り去る。
珠洲市の人類よりも練度が高い……?
コテツ率いる珠洲市の人類はどちらかと言えば、コテツを筆頭に個々で戦闘を繰り広げていた。しかし、金沢市の人類は集団で連携を取りながら戦闘を展開している。
集団戦慣れしているのか?
珠洲市の人類は俺たちとの戦いが初めての集団戦だったが、金沢市の人類は……。
「カノン、魔王カオルは過去に白山市に《統治》を仕掛けたことはあるのか?」
「はい! 過去に3回仕掛けて、いずれも失敗していますねぇ……。でもその前までは能美市で快進撃だったみたいですよぉ」
「なるほど。それで集団戦に慣れているのか」
未経験と1回でも経験がある場合の差は果てしなく大きい。それが少なくとも3回以上。能美市の《統治》を考えると更に何回にも渡り集団戦を経験してきたのだろう。ましてや、金沢解放軍と魔王カオルは互いに接戦を繰り広げている。好敵手と言う訳ではないだろうが、似た強さの敵との戦いは更に高い経験値を与えてしまう。
《統治》であれば俺もかなりの回数を経験した。しかし、まともな集団戦の経験は珠洲市の市役所を侵略したときのみだ。
集団戦に関しては――金沢解放軍と魔王カオルは俺よりも一歩先に進んでいる可能性もあるな。
俺は頭の中で描いていた金沢解放軍と魔王カオルの脅威度を一段階上げた。
グールのみは流石に舐めすぎたか?
グールは知能が低く連携は不得手だ。対して人類は数の利を活かし、高い連携力で次々とグールを倒していく。
俺はスマートフォンの画面に映し出された人類の快進撃を見て、自身の目測の甘さを悔いる。
1時間はもつよな?
防戦一方の配下たち。グールは斬られても、叩かれても、燃やされても……人類へと向かっていくが、多勢に無勢。個の力も、数の利も、負けていては勝負にすらならない。
後方へ下がらせたイロ、ハニ、ホヘトの視線に映る最前線は阿鼻叫喚の地獄絵図だ。
せめて遠距離攻撃が出来る部隊を投入していれば……牽制も出来たのだが……。
勝てるとは思ってはいなかったが、ここまで一方的な展開になるのも想定外だった。
主力部隊を投入すべきか……? いや、本来の目的を考えれば本末転倒だ。
俺はスマートフォンを操作して大量のグールを創造。ピストン運動の如く、最前線にグールを送り続けるのであった。
◆
金沢解放軍との衝突から3時間。
眷属のイロとハニがその儚い命を散らし、失ったグールの数も初期の2000体を含めて5000体に及んだ。防衛用に大量に創造していたグールも底を尽き、俺のCPも枯渇した。最前線に残っているグールの数は1000体。後は、攪乱要員として投入した500体のジャイアントバット。人類の被害は1,000人どころか100人にも届いていないかも知れない。怪我を負った人類はすぐに前線から離れ、後方に控えた人類が後退した人類の穴を埋める。
ここまでの結果は――大敗。
このままでは一時間足らずで配下たちは全滅してしまうだろう。
どうする? ゴブリンを増援に送るか? グールよりも弱いゴブリンを送り込んでも焼け石に水だろう。ある程度の高ランクなアイテムを配備すれば……ある程度は前線を維持出来るか? しかし、そのアイテムを全て奪われたら? ――その後、本戦が厳しくなる。
主力部隊を出せば、犠牲は生じるが押し返すことは出来るだろう……。
俺は様々なシチュエーションを頭の中で思い描く。
仕切り直すか? 今回の大敗で金沢解放軍がアスター皇国の戦力を過小評価してくれれば……次回の争いは少し楽になるかも知れない。しかし、それでは今回の大敗は――金沢解放軍を油断させる為だけに支払った犠牲になってしまう。
それでいいのか? 無理やり今回の大敗を美化しようとしていないか?
今回の戦いで金沢解放軍はアスター皇国には遠距離攻撃をする手段がないと思い込んだか? いや、支配領域に侵略した経験のある人類がいれば……ダークエルフの矢もリリムやダンピールの魔法の存在も知っている。そこまでお気楽な未来予想はあり得ないか。
いつの間にか、俺の思考は陽動から次回の戦いに繋げる方向へと切り替わっていた。
せめて、ホヘトは撤収させるか……。
取るべき選択を決めた、その時――
――~♪
着信を告げる軽快なメロディーがスマートフォンから流れた。
発信者は――カエデ。
俺は一縷の希望を抱いて、軽快なメロディーを奏でるスマートフォンに応答するのであった。
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