神器育成


「おい……」

「何だ?」


 手にグローナックル――白い布を手にしたタカハルが声をあげる。


「貰えるモノは神器だよな?」

「そうだ。タカハルにはグローナックルを授与した」

「グローナックルってこの布きれのことか?」


 タカハルは貴重な神器をつまみ上げて不信に満ちた視線を俺へと送る。


「布じゃなくて……多分、バンテージだろ」

「なるほど……バンテージか……って要はただの布きれだろうが!」

「お!? タカっちは一人ツッコみを習得したみたいな?」

「うるせー! サラ、てめーのそれもただの木の棒だろうが!」

「あー! 言ったね! 触れちゃダメなところにダイレクトアタックしたね!」


 タカハルとサラが口喧嘩を始める。


 ――黙れ!


「神器である証拠を見せてやるよ。『収納(ストレージ)』の後に自分の武器の名前言え」

「――収納! ――グローソード!」


 模範的な優等生であるリナが率先して俺の言葉を実践する。


「え?」


 リナは、自分の身体に吸い込まれた木製の剣――グローソードに驚愕する。


「続いて……『召喚(コール)』の後に自分の武器の名前を言ってみろ」

「――召喚! ――グローソード!」


 突如利き手に現れたグローソードを目にしたリナが驚愕の表情を浮かべる。


「便利だろ?」


 俺はしたり顔を浮かべた。


「どれ、やってみっか。――収納(ストレージ)! ――グローナックル」


 タカハルが手にしていた白い布――グローナックルがタカハルの体内へと収納される。


「――召喚(コール)! ――グローナックル!」


 そして再び現れたグローナックルはタカハルの両手に巻き付かれていた。


「……地味じゃね?」

「キャハハハ! めっちゃ地味! あーしの見る? 見る? ――召喚(コール)! ――グローワンド! じゃん! 何もないはずのあーしの手にはグローワンドが!」


 落ち込むタカハルにサラが追撃を仕掛ける。


 サラってタカハルのことが好きなのか? ラブなのか? アオハルなのか?


 仲が悪くも、良くも見える二人のじゃれ合いに俺は頭を抱える。


「シオン様、よいか?」

「なんだ?」

「このグローカタナと言う銘なんじゃが……変えてもよいかのぉ?」

「構わん。神器は譲渡不可だ。コテツの好きにするがいい」

「うむ。感謝する」


 まさか名称変更を最初にするのがコテツになるとは、驚きだ。コテツはスマートフォンを不慣れな手付きで操作する。


「召喚(コール)! ――佐山!」


 設定を終えたコテツはグローカタナの新しい銘――佐山の名を叫ぶ。


「ほぉ……。自分の名字を銘にしたのか」

「今の儂はコテツ=シオンじゃ。佐山の姓はこの刀に託そうと思っての」

「……お祖父様」


 手にした佐山の感触を確かめながら、コテツが柔和な笑みを浮かべた。


「さてと、神器で遊ぶのは終了だ。次は――試運転だ」

「試運転って……コレFランクだろ? 俺とか魔法が使えるシオンやサラはいいが……リナとコテツはきつくねーか?」

「安心しろ。とっておきの支配領域に連れて行ってやるよ」


 珍しく仲間を気遣うタカハルに、俺は笑みを返すのであった。



 ◆



「ここだ」


 俺は目的地――とっておきの支配領域の入口の前に辿り着いた。


「は? ここって……金沢市だよな?」

「そうだな。第一支配領域のすぐそばだな」

「金沢市にまだシオン以外の支配領域が残っていたのかよ……」


 タカハルが間の抜けた声をあげる。俺は驚く配下たちの表情に満足しながら、説明を続けた。


「この支配領域は――切り札だ」

「切り札というと?」


 俺の言葉にリナが首を傾げる。


「魔王を消滅させて【真核】を奪うと……何が起きる?」

「――! 【擬似的平和】か……」

「正解。この支配領域は、最悪の事態に遭遇したら強制的に【擬似的平和】を発生させるために残しておいた支配領域だ。周囲は俺の支配領域が囲んでいるから人類は侵略することが出来ない。中の魔王はレベルが2以下だから、外に出ることも出来ない。そんな支配領域だな」


 今思えば、あの時の俺の判断は正しかった。前者であれば創り出すことは可能だが、後者――レベル2以下の魔王を今から探すのは不可能に等しい。


「この支配領域は何度か偵察した結果、暇を持て余している魔王がコボルトとゴブリンといった低ランクの魔物を量産しているらしい」

「なるほど、試運転の相手は低ランクの相手と言う訳じゃな」


 俺の説明にコテツが合点のいった様子で頷く。


「注意点は一つ――魔王が出てきても絶対に殺すな」


 ここの魔王はある意味絶滅危惧種だ。丁重に保護をする必要があった。


「それじゃ、試運転に出掛けるぞ」

「おう!」

「はい!」

「り」

「畏まりました」

「承知」

「了解」


 俺は神器を装備した配下と共に……飼い殺しにされている魔王の支配領域へと侵略を開始した。


 洞窟の体を成した支配領域の中へと足を踏み入れると……


「ワォーン!」

「「「ワォーン!」」」


 早速番犬ならぬ――ウルフの大軍が俺たちを出迎えた。


「サラ! 範囲攻撃は控えろ!」

「り!」


 サラの手にしている神器は弱いが――サラ自身の魔力は強力だ。下手したら範囲魔法で一掃される可能性もある。


 俺の命令を理解したサラは、ファイヤーランスを放って迫り来るウルフを1体ずつ仕留める。俺はグローガンを取り出して、ウルフ目掛けて引き金を引いた。


「っしゃ! やってやるよ!」


 タカハルは嬉々として迫り来るウルフの群れに飛び込んで、修羅の如く暴れ回る。リナとコテツもFランクの木製にしか見えない神器で、迫り来るウルフを叩き潰す。


「はっはっは! さぁ、オオカミさん! 悪いウサギさんここだぴょん! ――《パーフェクトボディ》!」


 ヒビキは絶対に必要のない獣化をし、真紅のTバックに木製の籠手のみというシュールな姿で無数のウルフを引き付け、ヒビキに集まったウルフをカエデが背後から攻撃する。


 銃も楽しいが、育てるべきは槍だな。俺も変態ヒビキに群がる哀れなウルフをターゲットに定め、グローランスを振るった。


 武器はFランクだが、俺を含め配下たちは高レベルだ。今更、苦戦などするわけもなく、蹂躙とも言える一方的な戦いを繰り返すのであった。


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