出稼ぎ③


 戦闘開始から十分が経過。


 かなりの数の敵を倒したと思うが、敵の勢いは一向に衰えない。


 ってか、ピクシーの魔法がウザいな……。


 俺は周囲の配下の様子を確認する。


 コテツとリナは……改めて見ると凄い実力だ。コテツは巧みに刀を操りゴブリンの斧を受け流して、斬殺。リナは振り下ろされた斧を打ち払い、流れるような動きでゴブリンを斬殺。


 ヒビキは、視覚効果さえ気にしなければ……相変わらずのずば抜けた回避能力だった。敵の攻撃を最小限の動きで回避。回避が間に合わない場合は手甲を巧みに操り、攻撃を受け流す。不利な状況に陥らないように無駄に長い足を振り回して敵を吹き飛ばし、隙を見つけたらカウンターを叩き込んでいた。


 タカハルとセタンタは戦闘狂だ。タカハルは見る者を竦ませるような獰猛な笑みを浮かべ、セタンタは心底楽しそうな笑顔を浮かべながら、敵をなぎ倒している。


 この状況なら、いけるな。


「ヒビキ! 敵のヘイトを集めろ!」

「承知ぴょん! 生ある者よ、真なるまなこで我を隅々まで見るぴょん! ――《パーフェクトボディ》!」


 ヒビキは横向きになり、腕を後ろで組んで上腕三頭筋を強調するポーズ――サイド・トライセップスを決め、敵のヘイトを集める。


「タカハル! セタンタ! 後方で飛び回る羽虫を叩き潰せ!」

「あいよ!」

「はーい!」

「は、羽虫は酷いですぅ」


 敏捷性に長けるタカハルとセタンタが嬉々として前線へと突っ込み、ピクシーへと攻撃を仕掛ける。


「カイン! セタンタの位置に移動しろ!」

「畏まりました!」


 カインにセタンタの抜けた穴をフォローさせ、俺はタカハルの抜けた位置へと移動する。


 ここのゴブリンは手にする得物は全て斧。今まで数の力で侵略者を圧倒していた為か、1体、1体の練度は低い。


 俺は自分の得物――槍の長所であるリーチを活かして、迫り来るゴブリンを近付けることなく、刺突。偶然のタイミングなのか、複数のゴブリンが同時に俺へと迫り来ると、


 ――《五月雨突き》!


 神速の連続突きで纏めて敵を葬り去った。


 ――!


「シオンっち油断禁物、みたいな?」


 《五月雨突き》を放った直後の僅かな隙を見て飛びかかってきたゴブリンの頭部に、サラの放った炎の槍が突き刺さる。


「すまん、助かった」

「おけまる(※オッケー)」


 サラへと礼を告げると、サラは嬉しそうに笑みを浮かべた。


 魔王(妖精種)がゴブリンを創造するのに必要なCPは3。装備込みで考えるなら、1体当たりのコストはCP30ほどか。この支配領域の魔王のレベルは12で、支配領域の数は13。最大CPは2400なので、1分間で回復するCPは40。敵の戦力は着実に減らしているが、敵の数はまだまだ余裕だろう。


 俺は無限ポップのように数の減らない敵を目の前にほくそ笑むのであった。



 ◆



 戦闘開始から1時間。


 定期的に後方のピクシーを掃討しているので、迫り来る敵はゴブリンのみとなっていた。30分に一度のペースで疲労回復効果もあるポーションを飲んでいるので、こちらの状態は盤石だ。


 敵の増援が尽きる方が早いか、こちらのポーションの在庫が尽きる方が早いか。


 どちらにせよ、レベリングとしては大成功の成果を収めていた。


 低コストのゴブリンのみで防衛は……無理だな。数のインパクトは凄い。何も知らずに侵略しに来た人類なら、目の前が埋め尽くされる敵の数に臆するだろう。しかし、最初からそれを知っていれば――ただの稼ぎ場だな。


 俺はレベリング成功の手応えを感じながら、ほくそ笑むと……


 ――?


 一本の銀色に輝く矢が飛来してきた。


 銀の矢?


 今まで敵の構成は、後方から魔法攻撃を放つピクシーと、数に物を言わせた斧を装備したゴブリンのみであったが……。


 敵の構成が変わった?


 奥の方から、通常のゴブリンよりも肌つやのよい上位種――ハイゴブリンの群れが姿を現わし、最後にオーガと見紛うほどの巨躯のゴブリン――ゴブリンジェネラルが姿を現わした。


「貴様ら! どこの魔王の手の者だ!」


 ゴブリンジェネラルがドスの効いた低い声で叫ぶ。


 毎回思うが……ブルーがゴブリンジェネラルに進化したら、口調も変わるのだろうか?


 それとも、あの形で「お頭、お腹が空いたっす!」とか言うのだろうか……。


 ツマラナイことを考えていると、配下たちが俺へと視線を集める。


 ここで、クロエたちであれば意気揚々と俺の名前を出すだろう。但し、今回は元魔王と人類が主体のメンバーだ。そんなバカな配下は――


「ボクはシオ――」


 ――セタンタ、黙れ!


 安心したのも束の間、正々堂々を答えようとしていたセタンタの口を閉ざす。


 名前か……どうするかな……。


「俺たちは……シ、蜃気楼の町魚津市より侵略に来た魔王サブロー様の配下だ!」


 悩んだ結果、セタンタが口走った言葉を誤魔化すために蜃気楼を付け加え、名前は掲示板で使い慣れていた偽名を用いた。


「……サブロウとか、ありえんてぃ」

「サブロウじゃない、サブローだ」

「マジ、イミフ」


 後ろからため息と共に愚痴を吐くサラに、俺は正確な発音を伝える。


「魚津市の魔王……サブローだと?」

「我が主の名前を知らぬのか!」


 俺は困惑するゴブリンジェネラルへと叱咤の言葉を浴びせる。


「我がお頭も知らぬと言っておるわ! まぁ、よい。――死ね!」


 ゴブリンジェネラルが巨大な銀の戦斧を振り下ろすのを合図に、敵が襲撃を仕掛けて来た。


「カイン! 風の障壁を張って、矢を防げ!」

「畏まりました! ――《ウィンドシールド》!」


 展開された風の障壁が降り注ぐ矢をあらぬ方向へと吹き飛ばす。


「ヒビキ!」

「畏まりました! 醜悪なる者よ! 我が肉体に酔いしれん! ――《パーフェクトボディ》!」


 発光するヒビキが敵の憎悪を引き寄せる。


「サラ!」

「り! ――《ファイヤーストーム》!」


 ――《ダークナイトテンペスト》!


 吹き荒れる炎と闇の暴風がゴブリンの群れを蹂躙。ボロボロになりながらも辿り着いた1体のゴブリンがコテツに斬り捨てられる。


 後方に控える敵が手にする斧は――全てシルバーアックス。俺は槍による攻撃参加から後方からの魔法攻撃へと戦闘スタイルを変化させる。


「魔王サブロー様の恐怖を敵に刻み込む――殲滅せよ!」

「おうよ!」「承知!」「了解!」「よくわかんないけど、了解だよ!」


 前線を守る配下たちが俺の声に応えるように、向かってくる敵へと武器を振るう。


 俺は適度に【魔力水】を飲みながら、魔法を放ち続けるのであった。



 ◆



 3時間後。

 ようやく敵の増援は止まり、目に見えて敵の数は減っていった。


 最後に残ったゴブリンジェネラルはタカハルとセタンタが言い争いをしている間に、俺の命令により行動を起こしたコテツが斬り捨てた。


 無数に横たわるゴブリンとピクシーの亡骸、そして先へと続く道を確認。


「どうする?」


 リナが俺へと指示を仰ぐ。


 進めば敵は出現するのだろうか?


 少し悩んだ結果、俺は安全を優先して撤退を選択。


「用事は済んだ。撤退だ」

「あ!? ちょっと待って下さいぃ」


 踵を返そうとすると、カノンが声をあげる。


「どうした?」

「アキラちゃんから、素材の収集をお願いされていますぅ」

「素材?」

「はい。魔物の部位の一部が鍛冶に使えるらしいですぅ」

「具体的には?」

「ゴブリンさんの角と、ピクシーさんの羽根ですねぇ」


 素材とかあったのか……。


「ゴブリンは数が多すぎる……ハイゴブリンとゴブリンジェネラル、後はピクシーの羽根だけ収集したら撤退だ」


 その後、俺たちは亡骸から素材を収集。戦闘よりも大きい精神的疲労を感じながら、収集を済ませた後に撤退したのであった。


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