出稼ぎ①


 アスター皇国を建国してから8日後。


 アスター皇国として国となった支配領域内は、急激な変化を見せていた。


 《支配領域創造》と《アイテム錬成》、この二つに人類の技術と知識が加わると、支配領域内のインフラ環境は急速に整備された。


 他にも、日々の建国宣言が功を奏したのか……100人にも満たない少数ではあるが、投降を申し出てくる人類も現れ始めた。


 居住区を視察すれば、充実した表情で田畑を耕す領民たち。学校を視察すれば、子供たちは笑顔を浮かべながら机に向かっている。食事環境も大幅に改善された結果、配下たちもどこか幸せそうに見える。


 人類の敵――魔王。


 日本を恐怖のどん底に叩き落とす――『十三凶星』


 世間の評価は散々だが、この様子を見せれば無駄な争いはなくなるだろう。そうすれば、俺の目的でもある――生き残ることを達成するのは容易いように思えた。


 しかし、人類は俺の支配領域を侵略し続ける。人類を退けても、支配領域の拡大を目指す魔王が侵略してくる。


 結局は、成長し続けない限り……平穏な未来は得られない。


 さてと、生き残る為に頑張りますか。


 俺は配下たちの待つ自室へと戻るのであった。


 自室に戻ると、リナ部隊に属する配下たちとカノンが待機していた。


「待たせたな」


 俺は待機していた配下たちに一声掛けて椅子に座る。


「今回呼び寄せたのは、共に遠征をするためだ」

「遠征? 氷見じゃねーのか?」

「金沢市を飛び越えて小松市っしょ!」

「ご主人様と共に遠征ですか……私を遠慮なさらずに肉盾として用いて下さい」


 俺の言葉にタカハル、サラ、ヒビキが真っ先に反応を示す。


「リナ、苦労をかけているな」

「気にするな」

「「どういう意味だよ!」」


 リーダーであるリナの労をねぎらうと、タカハルとサラが綺麗に声を合わせる。


「あのぉ……何で私も呼ばれたのでしょうかぁ?」


 すると、カノンが遠慮がちに俺へと問い掛けてくる。


「ん? 言ってなかったか?」

「はい」

「今回の遠征はカノンも同行だ」

「……え?」


 俺の答えを聞いたカノンが呆然とする。


「今回の遠征の目的は――レベリングだ。目標は俺のレベルアップ。次いで、カノンのレベリングだ」

「ふぁ!? わ、私のレベリングですかぁ!?」

「今回の遠征先は富山県砺波市にある支配領域だ」


 俺は驚愕するカノンをスルーして、目的地を告げる。


「砺波市? 道中には人類が統治する土地も、他の魔王が支配する支配領域も存在するはずだが?」


 行き先を聞いたリナが眉をしかめながら、問い掛けてくる。


「道中に存在する人類や支配領域は全て無視する」

「無視って、向こうが無視しねーだろ?」


 今度はタカハルが問い掛けてくる。


「ルート次第だ。カエデに調査を依頼したところ、倶利伽羅峠を越えるルートを辿れば、目立つことなく目的地へと到着可能だ」

「峠越え? マジ勘弁っしょ!」


 サラが立ち上がり文句を言い出す。


「安心しろ。交通手段は車だ」

「バスですかな? 流石にバスで移動するのは目立たぬか?」


 コテツが問い掛けてくる。大変革以降、移動手段はもっぱら車だ。但し、バスなどの移動は人類の目に付きやすく、場所によっては検問が張られている。


「バスじゃない。ハイエースで移動だ」

「ハイエース? しかし、それでは人数が……」


 ハイエース。古くから日本で使用される自家用小型貨物車だ。搭乗人数は6人~10人乗りまで存在する。


 最大で10人まで乗れるとは言え、侵略の基本は24人編成だ。詰めて搭乗しても流石にリビングメイルを含む24人が乗るには無理がある。


「故に、今回の遠征メンバーは俺を含めた8人+カノンとする」


「「「――!?」」」


 俺の発表に全員が驚愕する。


 10人乗りだが装備や食料を積み込むスペースを加味すると、8人が限界だ。カノンは小さいのでノーカウントだ。


「大丈夫なのか?」


 リナが全員を代表して、俺に問い掛ける。


「遠征先の支配領域の魔王は【創造B】、【錬成C】。支配している支配領域の数は13。階層の深さ――レベルは12。未だ魔王の目撃情報もないことから、【肉体】と【魔力】のランクも高くないと想定している」


「んで、8人って誰よ?」

「俺、リナ、コテツ、タカハル、サラ、ヒビキ、カイン、セタンタ……それにカノンだ」

「わ、儂は……!?」


 唯一名前を呼ばれなかったアベルが悲痛な叫びをあげる。


「アベルには留守を頼みたい。ヤタロウの指示に従い、新たな試みに協力してくれ」

「……畏まりました」


 今回の遠征では支配領域を解放するつもりはない。故に、強敵と戦う機会も少ないだろう。ならば、作戦は見敵必殺(サーチ&デストロイ)。圧倒的な火力で雑魚を倒し続けて経験値を稼ぐ。理屈は不明だが、同時に挑む人数が少ないほど一人当たりの経験値は増加する。何より……アベルの巨漢はハイエースに搭乗するには少し大きすぎるのも要因の一つだった。


「カノンはヒーラーに徹してくれ」

「は、はい!」

「サラも攻撃よりも回復を優先するように!」

「り」

「一応、薬は多めに持参するが……全員無理はするなよ」

「おうよ!」「お任せ下さい!」「了解!」「うむ」「はーい」「畏まりました!」


 それぞれの配下の返事を聞きながら、俺たちは倶利伽羅峠に面した支配領域へと移動するのであった。


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