魔物と人
「次にソウスケ、領民と魔物の関係性はどうだ?」
「んー……厳しいっすね。一部の子供や戦闘未経験の領民からは、魔物と仲良くしようとする者も出てきましたが……」
「何か問題でもあるのか?」
言い淀むソウスケに俺は問い掛ける。
「一番大きな問題は言葉の壁っす。コミュニケーション手段は互いにジェスチャーのみっすからね」
「言葉の壁か……。通訳用の眷属を派遣すれば解決するのか?」
「そうっすね……。カノンちゃんが居れば全ての魔物と対話が可能だったので、助かってたっす」
カノンをそんな勿体ない用途に使う気はサラサラない。そうなると、通訳用の眷属を派遣か……。眷属を創造するのも多大なCPが必要になる。これは、慎重に考慮する案件だ。
「シオン様、よろしいでしょうか?」
悩む俺に田村女史が声を掛けてくる。
「何だ?」
「学校で言語学習を取り入れてはいかがでしょうか?」
「言語学習?」
「はい。通訳を出来る者がいるのであれば、可能だと思いますよ」
「なるほど……。試してみるか。とりあえず、ダンピール、ダークエルフ、ウェアウルフ、ライカンスロープ、オーク、ゴブリン、コボルトでいいか?」
俺は創造可能な亜人種系の配下の名称を挙げる。
「あ!? それなら、まずはゴブリンがいいっす!」
「ゴブリン……? 理由は?」
「数が多いっす。人類に対しても好意的っす」
ソウスケはクロエをチラチラと見ながら、俺の質問に答える。
「ちなみに、ダークエルフは?」
「だ、ダークエルフさんは……」
俺の質問にソウスケが言い淀む。
――ソウスケ! 質問に本音で答えよ!
「ダークエルフとダンピールは排他的っす。あっしたち人類を見下しているっす。コボルトとオークは仲間意識が強いので歩み寄るには時間が掛かるっす。ウェアウルフとライカンスロープはそもそも見掛けないっす」
「フッ。当然だな。我々ダークエルフが――」
「クロエ! お前は俺の領民が下等生物だと言いたいのか?」
「――!? も、申し訳ございません……そ、そのような意味では……」
本音で答えるソウスケに対して誇らしげに胸を張るクロエを叱咤する。
「はぁ……。まぁ、いい。物事には順序がある」
俺はため息を吐き捨て、ソウスケの意見を取り入れることにした。
「そうなると、まずはゴブリンの言語が学習可能か確認するか」
俺はブルーとゴブリンを1体呼び寄せる。
「何すか? オイラは休暇を楽しんで――」
「ブルー!」
呼ばれて早々に悪態をつくブルーをクロエが叱咤する。
「ブルー。そこのゴブリンに『こんにちは』と言わせろ」
「えっ!? シオン様が命令すれば、オイラは不要じゃ……」
――命令しろ!
「りょ、了解っす。こんちにはと言えっす」
「ギィ(↑)ギィ(↓)」
「次は『ありがとう』だ」
「ありがとうと言えっす」
「ギィ(↓)ギィ(→)」
――?
俺には全て同じ『ギィギイ』にしか聞こえない。
「本当に、『こんにちは』と『ありがとう』って言ったのか?」
「言ったっすよ!」
俺の問い掛けにブルーは憤慨しながら答える。
「俺には違いは分からないが……いけるか?」
「もう一度、お願いしてもいいでしょうか?」
田村女史に確認すると、田村女史はもう一度同じ言葉をリクエストする。
「ギィ(↓)ギィ(→)」
「ありがとうですか……?」
「正解っす!」
「ギィ(↑)ギィ(→)ギィ(↓)」
「こんにちは……? ですか?」
「残念! おめでとうっす!」
「知らねーよ!」
ドヤ顔で残念と言うブルーに対して、俺は全力でツッコンでしまう。
「ギィ(→)ギィ(↓)ギィ(↓)ギィ(→)ギィ(↑)ギィ(→)」
「今のは『今回の報酬は肉がいいっす』っすね」
最後に聞かれもしない、言葉を放つゴブリン。
「よし、戻っていいぞ」
「え? 肉は――」
ポカンと口を開けるブルーに俺は錬成した低ランクの肉を投げつける。
「毎度っす! む? この肉は低ラン――」
尚も悪態をつこうとしたブルーの腹にクロエの拳がめり込み、ブルーは逃げるように退室した。
「本当に、最初に友好を築く魔物の種族は……アレでいいのか?」
「ははっ……。ブルーさんは特別っす……」
一抹の不安を覚える俺に、ソウスケは苦笑する。
「それじゃ、眷属のゴブリンが数体いたはずだから……二人ほど預ける」
「あ!? 一ついいっすか?」
「なんだ?」
「出来れば……一人はこちらで指定したいっす」
俺の出した決断に、ソウスケが要望を伝えてくる。
「指定……? ブルーはダメだぞ?」
「あはは……。ブルーさんはあっしには荷が重いっす……」
「なら、誰だ?」
正直、ゴブリンの眷属はブルー以外把握していない。名前もゴブオ、ゴブスケ、ゴブミなど適当に名付けていた。
「ゴブ太さんっす」
「ゴブ太?」
俺はスマートフォンを操作して、眷属の一覧を確認する。
「ゴブ太と言う眷属はいないが……?」
「あ!? ゴブ太さんは眷属じゃないっす!」
「――?」
眷属じゃないのに、名前がある?
「ゴブ太さんはカノンちゃんと一緒に配下になったゴブリンっす」
カノンと一緒に配下になった……あぁ、いたな。俺は遠い過去の記憶を呼び起こす。
「そいつを眷属にしろと?」
「出来れば……! ゴブ太さんとは長い付き合いです。人類に対しては一番理解のある魔物です!」
いつもは臆病で下手に出ることが多いソウスケが、初めて強い意志で俺に言葉を投げかける。
CP10時間分。《統治》を仕掛けることも出来れば、戦力となる眷属を増やすことも出来る。装備を整えることも出来れば、【家畜】を揃えることも出来るし、ヤタロウを歓喜させることも出来る。
数分悩んだ結果――
「わかった。ゴブ太を連れて来い」
俺は、領民と魔物を繋ぐソウスケの片腕としてゴブ太を眷属にしたのであった。
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