アスター皇国


「これより我が国――アスター皇国の建国を世に示す!」


 俺は幹部に声高々に宣言する。


「世に示すと言っても……それ系の投稿はすぐに削除されるっすよ」


 情報統制を任せているタスクから物言いが入る。


「それは百も承知だ。タスクよ、削除している機関はどこか掴んでいるのか?」

「多分っすけど……メガフロート――日本政府の連中っす」

「奴らはなぜ魔王が発信した情報を削除する?」

「そ、それは……」

「あ!? アレをされるの私だけじゃないんですねぇ」


 俺の質問にタスクは狼狽。カノンはそんなタスクの様子を見て楽しそうに笑う。


「シオンさんはその後、指を立ててドヤ顔で――」


 ――カノン! スカートを捲し上げろ!


「って……え!? キャー!? 何故ですぅ……」

「カノン? 今は大事な会議の場だ。自分の性癖を暴露する場じゃないぞ?」

「え? ……え? こ、これはシ――」


 ――カノン! 黙れ! 次はサブロウの目の前で同じ命令を下すぞ?


「ん? カノン、何か言ったか?」


 俺は慈愛に満ちた眼差しで、カノンへと笑みを投げかける。


「な、何でもないですぅ……ご、ごめんなさい……」


 カノンは目に涙を浮かべて、会議を中断したことを謝罪する。


「本題に戻るが、日本政府が何故情報を規制するのか? 答えは、人類にとって不利益になり得る情報――魔王にとっては、有益となり得る情報だからだ。同様に、誰に対して発信されると困るのか? 答えは――人類だ」


「確かに、いつの頃からか……『魔王の言葉には耳を貸すな!』と田山県知事も口を酸っぱくして言っていました」


 俺の言葉に田村女史が思い出したように、口添えをする。


「現状、情報を広く流布する最適の手段は――インターネットだ。しかし、インターネットの世界は敵が一枚上手だ。ならばどうすればいいか……?」


 俺は問い掛けるように幹部の顔を見回す。


「あん? んなのは、叫べばいいじゃねーか!」

「あーしのセンスでエモいポスター作る?」

「私のパーフェクトボディで大衆の目を集めましょうか?」

「フッ……我が輩が広告塔として――」

「ありえんてぃ!」「……あり得ませんね」「シオン様の名を汚す気か!」


 幹部が各々の考えを口に出し、最後にサブロウが発言すると同時に女性陣からのツッコみが殺到する。


「正解は――タカハルだな。インターネットに投稿したら規制されるのであれば、現実で叫べばいい。俺たちの声はやがて、人類に届き――届いた情報は拡散される」

「人の口に戸は立てられぬ、というやつじゃな」


 俺の言葉を聞いてヤタロウは柔和な笑みを浮かべながら、頷く。


「これからの行動方針を伝える! 侵略してきた人類に、『アスター皇国』の名を刻み込め! 数人はわざと逃がしてやれ。また、カエデは後で渡すビラを人類の街中に流布しろ。最後に、俺自身は【拡声機】を用いて定期的に建国宣言を行う」

「あーしたちは?」


 俺の行動方針にサラが質問をする。 氷見市の魔王に建国を宣言しても無意味だ。同様に富山県に侵入しているのをわざわざ知らせるのは悪手だ。


「今まで通り氷見市の支配領域で経験値を稼いでいればいい」

「りょ」

「んだよ、結局今まで通りかよ」


 サラは右手をおでこに当てて敬礼のようなポーズを取り、タカハルは露骨にふて腐れる。


「それでは、解散! 各自、任された命令を遂行。最高の成果を期待している!」


 初となったアスター皇国の幹部会議は幕を閉じたのであった。



 ◆



 解散を告げた後に、俺は田村女史、ソウスケ、ヤタロウ、リナ、クロエの5人をその場で呼び止めた。


「呼び止めてすまない。各々から進捗を聞きたい」


 俺が呼び止めた5人は責任者、或いはリーダーの立場にある幹部たちだ。


「まずは、田村女史。領民の生活はどうだ? 不満の声などはあがっているか?」

「生活水準は日々向上しております。今では、シオン様の領民になる以前よりも高い生活水準が維持出来ております。不満ではありませんが、一部の領民から要望はいくつかあがっております」

「要望?」

「はい。主に工業に属する領民から、機械――素材が足らないとの要望があがっています。他には、農業に属する領民から畜産や酪農も始めたいので、家畜が欲しいとの要望もあがっております」


 田村女史が簡潔に要望を伝えてくる。


「素材はそうだな……。ヤタロウ? 元魔王の眷属で使えそうな連中はいるか?」

「使えそうな……と言うと、出稼ぎ用かのぉ?」

「そうなるな」


 侵略をしている配下以外は元魔王も含めて、全てヤタロウの管理下だ。


「元魔王は、全員癖が強いからのぉ……。一応、何人かピックアップしてみよう」

「頼んだ」


 次は家畜か……。解決する方法は二つある。


 一つは、人類の土地からの強奪。しかし、下手に動くとせっかくカオルに敵意が向いている金沢市の人類を刺激する恐れが生じる。


 もう一つは、《支配領域創造》だ。いつの間にアンロックされたのかは、不明だが《支配領域創造》の項目に【家畜】が増えていた。今なら、鶏、牛、豚、羊、馬などを創造することは可能であったが……。


「ちなみに、家畜だが……ラットやウルフで代用することは――」

「ダメっす!」

「反対です」


 俺の言葉は最後まで言い終わる前にソウスケと田村女史から反対される。


 【家畜】の創造CPはコストが大きかった。最小の鶏でもCP10だ。牛ならCP50も必要となる。防衛にも侵略にも使えないのに……このCPは高すぎじゃないだろうか?


「反対する理由は?」

「今、人類と魔物が仲良くなろうとしているっす! 魔物を家畜として見るのは、将来的に絶対に軋轢が生じるっす!」

「私もソウスケさんと同じ意見です」


 ラットもウルフも……【家畜】も、元を辿れば俺が創造した生物となる。それなのに、魔物はダメなのに、【家畜】は問題なし。俺も元々は人間だ。一見矛盾したこの二人の理屈を理解は出来る。でもなぁ……。


「カノンさんも魔物を家畜扱いしたら怒ると思うっすよ!」

「儂も、田村女史とソウスケくんの意見に賛成じゃのぉ」

「私も田村先生の言うとおりだと思う」


 難色を示す俺に、ヤタロウとリナが田村女史とソウスケの助け船に入る。


「笑止! 私たちはマスターに絶対的な忠誠心を捧げている! マスターが家畜と言うのであれば、喜んで家畜へとこの身を捧げるまでだ!」


 対して、クロエのみが誇らしげに俺の意見に賛同する。


 人類と魔物の軋轢ね……。


「わかった。近日中に家畜を用意することを約束しよう」


 色々な状況を天秤にかけた結果、俺は【家畜】の創造を決断するのであった。


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