外伝 とある政府高官の手記①


 20X1年


 7月15日

 全人類が【世界救済プロジェクト】のメールを受信する。

 上記のメールは大規模な迷惑メールと思われていたが、17:00に事態が急変。各国の首脳に『国民に適性調査を受けさせるように勧告を出して下さい。18:00までに約束が果たされなかったら防衛大臣の命が失われます。21:00までに果たされなかったら首相の命が失われます』という脅迫メールが届く。メールの指示を無視した国(我が国含む)の防衛大臣が18:00に相次いで死亡。各国は国民に適性調査を受けるように勧告した。この日を後に『大変革』と呼ぶようになった。


 7月16日

 世界各地に不可侵地帯が出現。

 不可侵地帯は人口密度が多い地域ほど、多く出現。首都東京は90%以上の土地が不可侵地帯に侵されてしまった。


 7月17日

 東京で政治を行うことは不可能であると判断。首都機能を東京湾の埋め立て地に設立された100万人の人類が生活出来る自立型都市『メガフロート』に移転。政府高官、学者、著名人、合わせて80万人の人類が移住。残された東京都民は、交通機関が壊滅していることもあり、千葉、茨城、埼玉、群馬などの近隣の県へと移住した。


 7月25日

 某国が不可侵地帯へと核爆弾を投下。結果は、不可侵地帯は無傷。人類が住めない土地が増えただけであった。


 8月16日

 AM10:00。全人類に女神(仮称)から啓示が下される。不可侵地帯は支配領域という名称であると判明。啓示は一方的でこちらから質問することは叶わなかった。

 適性調査を受けた人類(以後ロウと称する)のスマートフォンに女神からの贈り物『世界救済プロジェクト』のアプリがインストールされる。以後、支配領域への侵略が可能となった。

 一部の人類は、特殊能力と呼ばれる魔法のような超常現象を引き起こすことが出来るようになった。

 自衛隊の調査により、支配領域には12人しか侵入出来ないことが判明。

 PM6:00。タカ派の自衛隊高官の暴走により、全国各地の支配領域に計12,000人の自衛隊員を派遣。結果は死亡者数3,876名と散々たる結末に終わり、タカ派の自衛隊高官数名が責任を取って辞職した。

 支配領域内部には異形の生物――魔物が生息していることが判明。魔物には『叡智の結晶たる科学』――すなわち、銃を含む近代兵器が無効であることが判明。


 8月19日

 日本人で初めてのレベルアップした者が誕生。にわかに信じられないが、魔物を倒すとレベルが上がり、BPを肉体に割り振ることにより身体能力が高まるようだ。また、支配領域内部に宝箱の存在を確認。中には魔物と戦うのに有効となる武器や防具が入っていることもあった。

 この日から、一攫千金、或いは名誉を求めて支配領域へ侵入する人類が増え始めた。


 8月23日

 『女神の啓示』から1週間が経過。

 幸いにも我が国はバイオテクノロジーによる食品加工で国民が餓死することは無かったが、一部後進国では餓死者が相次ぎ、支配領域に生息する魔物を食する国も存在した。但し、『大変革』以前には普通に食べていた一部の飲食が贅沢品になってしまった。


 8月27日

 横浜にて支配領域の外で徒党を組む魔物の目撃情報が届く。支配領域の外は安全だと思い込んでいた多くの人類が命を落とした。

 この事件を境に支配領域へ侵入(レベル上げ)する人類が増加。統計によれば、7割近くの人類ロウが支配領域へと足を運ぶようになった。

 また、自治体や有力企業が優秀な人類ロウへの支援(囲い込み)を始めた。当然、私の所属する日本政府も東京で活躍する優秀な人類ロウを支援した。


 9月14日

 アメリカが世界初となる支配領域解放に成功。その二時間後にドイツも支配領域解放に成功。この日から世界各地で支配領域解放の朗報が流れ始めた。


 9月15日

 我が国でも支配領域解放に成功。初めて成功したのは北海道の自衛隊員。その後も神奈川、福岡、大阪、神戸、愛知、宮城の地域にて支配領域解放の朗報が相次いだ。

 この頃になると支配領域内部の情報――生息している魔物の種類、仕掛けられた罠の種類、休憩所の存在など、多くの情報が蓄積されていた。


 9月18日

 支配領域を解放した政府が支援している人類ロウから、「魔王は元人間かもしれない」と言う驚きの情報を聞かされる。魔王が元人間……? 日本に存在している魔王の数は約16,000。16,000もの魔王が元人間だとして……家族は誰も気付かないのか? 一人くらい報告があっても良さそうだ。しかし、そのような報告は聞いたことがない。ならば外国人か? しかし、報告では魔王の姿は日本人に酷似しているという情報もある。未来から来た? 平行世界から来た? 地球外生命体……? 今のようなコワレタ世界なら……あり得ない説でもない。魔王の生態について謎は深まるばかりであった。支援している人類ロウに魔王との交渉は可能か? と聞いたが、答えは「無理」であった。


 11月1日

 政府主導にて我々人類の未来を左右する重要なプロジェクト――『魔王捕獲作戦』が開始。


 11月7日

 魔王を支配領域の外に連れ出せない事実が判明。プロジェクトの内容を見直し、支配領域内部での魔王の無力化へと変更。


 11月19日

 魔王の無力化に失敗するも、重要な情報を入手。

 魔王はスマートフォンを使用して魔物を創造しているらしい。つまり、魔王からスマートフォンを奪い取ることが今後のプロジェクト成功の鍵となる。

 スマートフォンで魔物を創造? 魔王の元人類説が正しいのだろうか?


 12月3日

 魔王の無力化に成功。

 無力化した魔王の名前を記すことは許されていないのでAと称する。

 無力化した魔王Aから様々な情報を引き出すことが出来た。

 ① 魔王は元人類。我々が人類であった頃の魔王の個人情報を有しない理由は、その存在(記憶)が全て抹消されたから。

 ② 魔王にも人類ロウと同じくレベルという概念が存在する。階層の深さが魔王のレベルと一致する。魔王Aのレベルは2であった。

 ③ レベルは2だが、魔王Aの能力はレベル15以上の人類ロウに匹敵した。

 ④ 魔王Aが創造した魔物は支配領域の外には出られない。

 ⑤ 魔王の所持するスマートフォンを解析しようとしたが、あらゆる手段をもってしてもロックを解除することは出来なかった。

 ⑥ 魔王はインターネットを利用出来る。


 最後の⑥の案件は物議を醸した。インターネット上に度々魔王を名乗る者からの書き込みは確認されていた。その書き込みの全てとは言わないが、一部は本当に魔王が書き込んだものと思われた。

 この事実を受けて、一部の者は通信回線を遮断すべきと唱えた。しかし、魔王のみをピンポイントで遮断するのは不可能だ。現在日本には7つの基地局が存在している。1つの基地局がカバーする範囲は非常に広く、基地局を閉鎖してしまえば、そこの地域に暮らす人類もインターネットに繋げなくなってしまう。 現代において、我々人類の生活にはインターネットが浸透していた。今更、インターネットのない生活を送るのは不可能といえた。

 魔王のIPを特定しようにも、魔王は存在そのものが我々人類の記憶、記録から抹消されていた。ロジックは不明だが、魔王AのスマートフォンのIPは該当するキャリア、プロバイダに問い合わせても情報はなかった。しかし、利用は出来ている。魔王の痕跡は、我々が認識出来ないだけで、存在しているのだろうか? 神の御業というには、悪趣味にも思える仕様であった。

 広く公開されている一部のサイトを閉鎖する案も出たが、国民からの反発……何より、支配領域解放に日々励んでいる人類ロウたちは、インターネット上で情報交換するのが常となる。


 結局、話し合いの結果――日々支配領域の解放に励んでいる人類ロウの意見が尊重され、現状維持となった。

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