珠洲市役所への侵攻18
コテツを眷属にしてから1週間が経過した。
現在、珠洲市役所の人類と俺の陣営は大きな争いもなく、小康状態を保っていた。
こちらから攻撃を仕掛けない理由は一つ――内部の切り崩しを行うためだ。
コテツを眷属にした日、俺は『拡声器』を用いて人類に投降を呼び掛けた。結果として投降してきた人類は0人であった。翌日、コテツが『拡声器』を用いて人類に投降を呼び掛けた。返ってきたのは県知事からの罵詈雑言だけであった。
コテツを眷属にした日から3日後。庇護下に置いた人類の一人に電話が架かってきた。その人類は、コソコソと隠れながら通話をしていたが……こちらは全てお見通しだった。その日の夜――4人の人類が拠点となっている支配領域に訪れて、投降を申し出てきた。
この日を境に、夜逃げのような形で投降に応じる人類が増加。1週間が経過した今日――投降してきた人類の数は初日に投降した876人を含めて……合計で3248人にまで増加した。
またこの1週間で溜まったCPを利用して、庇護下にある人類の中からコテツが推薦した5人を新たに眷属として迎え入れた。
そして、今日も元気に『拡声器』を用いて投降を呼び掛け続けた。
コテツを眷属にしてから15日が経過した。
投降に応じた人類の数は5227人まで増加したが、そろそろ頭打ちだ。昨日は、投降者が0人だった。
「そろそろ仕掛けるか」
「いよいよ、攻撃を仕掛けるのですかぁ?」
「攻撃を仕掛けるのは……3日後だな」
「3日後ですかぁ? 何を仕掛けるのですかぁ?」
俺の言葉にカノンが首を傾げる。
「――宣戦布告だよ」
俺の答えにカノンは驚きを露わにした。
「ふぁ!? せ、宣戦布告ですかぁ? どうしたのですかぁ!? 悪巧みで定評のあるシオンさんが騎士道に――」
――スカートを捲し上げろ!
さり気なく悪口を含ませたカノンに罰を与える。
「誰が悪巧みで定評のあるシオンだよ! 宣戦布告をする目的は――未だ迷っている人類に重圧を掛けるためだ」
「あ!? 3日後に攻めるから、投降するなら今のうちだぞぉ! って脅すのですね! 流石は悪巧みで――」
――スカートを捲し上げろ!
最近思うが、この
俺は自称参謀の行く末が心配になるのであった。
◆
支配領域の外に出た俺は慣れた手付きで『拡声器』を操作する。
「珠洲市役所の人類に告げる! 我らは3日後に攻撃を仕掛ける! 繰り返す! 我らは3日後に攻撃を仕掛ける! 投降者への門戸を開くのも……その日までだ! 正しき判断を下せる人類諸君は、正しき行動が出来ることを信じている! 投降を申し出る者は、我が支配領域へ非武装で来るがよい!」
俺は伝えるべき言葉を簡潔に告げ、返事を待つことなく支配領域へと戻った。
さてとどうなるかな……?
俺は宣戦布告による効果を期待しながら、戦いの準備を始めるのであった。
宣戦布告をした日の夜。
新たに1203人の人類が投降を申し出てきた。
効果は上々だな。宣戦布告の効果に俺はほくそ笑む。
翌日。
「あれぇ? 今日は勧告をしないのですかぁ?」
「勧告はしない予定だ」
「ほぉ……。ひょっとして、恐怖心を煽るためですかぁ?」
「正解」
カノンの意地の悪い笑みに応えるかのように、俺もほくそ笑む。コテツを眷属にして以来、手を変え、品を変え……人類には毎日勧告をしていた。しかし、宣戦布告をした翌日から半ば恒例行事と化していた勧告が止んだら、人類はどう思う?
答えは――
「こ、降伏したい!」
「た、助けてくれ!」
「ま、まだ……降伏は受け入れてくれるよな!」
必死な形相で1000人近くの人類が支配領域へと詰めかけてきた。
俺のもくろみ通り――珠洲市の陣営は着実に内部崩壊を起こしていった。
翌日。更に1000人を超える人類が投降を申し出てきた。これで、投降してきた人類の総数は9018人にまで膨れ上がった。
1万人には届かなかったか……。
翌日――俺が侵攻すると指定した日が訪れるのであった。
◆
「しゃっ! シオン! いよいよ攻撃開始だな!」
戦闘狂のタカハルが獰猛な笑みを浮かべながら、指を鳴らす。
「ん? タカハル。お前は留守番だ」
「は? 何でだよ!」
「ぷぷぷっ! マジうける~。タカっちは、大人しくお留守番っしょ」
俺の言葉を受けて激昂するタカハルをサラが楽しそうに煽り始める。
「サラ。お前も留守番だぞ?」
「だよね~! って? あーしも? ありえんてぃ!」
「ハッ! ざまぁねーな!」
俺の言葉を聞いて、タカハルが嬉しそうにサラへと中指を立てる。
「「って、何で俺 (あーし)が留守番なんだよ!!」」
そして、互いを煽り続けた後に……二人は声をハモらせながら、俺に詰め寄る。
「ったく、相変わらず仲がいいな……」
「は?」
「マジ卍!」
「「俺 (あーし)はこいつ(タカっち)と仲良くねーし!」」
またしても、見事にユニゾンするタカハルとサラの怒声。
「シオン! 何で、俺が留守番なんだよ!」
「別に付いてきてもいいが……ヒマだぞ?」
詰め寄るタカハルに、俺は辟易としながら答える。
「は? 何でだよ! 今から珠洲市の連中と戦うんじゃねーのかよ!」
「いや、攻撃を仕掛けるだけだ」
「――? 一緒じゃねーか!」
俺の言葉を聞いて一瞬思考するが、自分なりの答えに至ったタカハルは再び俺に詰め寄る。
「全然違うが……まぁいい。付いてきたいなら、好きにしろ」
俺はブーたれるタカハルとサラ、そして2000体の配下を引き連れて支配領域を後にするのであった。
◆
俺は盾を構えたリビングメイルの集団を先頭に、ギリギリ弓矢が届く位置まで移動した。
今回引き連れてきた配下はリビングメイルを除けば……全員が弓を扱える配下だった。
――総員、構え!
俺の命令を受けて、配下たちが弓の弦を引く。
――放て!
1000本を超える矢が、風切り音をあげながら珠洲市役所へと放たれた。
――総員! 撤退だ!
「は?」
「え?」
俺の命令にタカハルとサラが呆けた表情を浮かべる。
「だから言っただろ? ヒマだって」
俺はタカハルとサラに苦笑を浮かべると、支配領域へと撤退するのであった。
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