進化(リナ)②
「名称から推測すると、ステータスの特化系は無さそうだな」
「そうですねぇ……。名称から推測するに、ステータスじゃなくて得意な武器の種類で特化する感じっぽいですよねぇ」
「得意な武器か……」
剣士は剣。侍は刀。闘士は……素手か? 騎士は剣? 槍? もしくは、盾か? 魔法剣士は剣だけど、魔法も扱える感じか? 重戦士は……イメージ的に斧か?
「剣士は剣で、侍は刀だろ? 剣と刀って似た感じだが、違いはあるのか?」
「全然違う! 剣は押す感じで斬るが、刀は引く感じで斬る!」
俺の素朴な疑問にリナが熱い口調で反論する。
「実際に、剣技と刀技があるので……違うと思いますよぉ」
カノンがリナに賛同する意見を述べる。
「ん? ダーインスレイブって剣だよな?」
「そうだな」
「実は、ダーインスレイブじゃなくて刀の方がよかったのか?」
カノンから聞いた話だが、リナの名前で検索をするとあっさりとヒットする程度には剣道で有名な選手だった。剣道の動きって刀技に近いよな?
「あの頃にはシオンが仕込んだ『黒鉄の剣』を使い慣れていたから……剣で問題なかった」
「そうか」
リナは俺が仕込んだと言う言葉を強調しながら、微笑を浮かべる。
「そうなると、クラスの進化先は剣士がいいのか? 対抗馬で魔法剣士か?」
「そうだな。刀の戦闘スタイルに戻してもバランスが崩れるから剣の方がいいな」
そうなると、重戦士と闘士は却下。盾を扱ったこともないから騎士も却下か。
「思ったよりも簡単に決まりそうだな。リナ、剣士と魔法剣士……どっちがいい?」
俺はリナに二つに絞られた選択肢を投げかける。
「魔法にも興味はあるが……BPは全部肉体に振ってきたから、剣士がいいな」
「それが、最適解だな」
俺はリナの出した結論に、肯定の言葉を返した。
「剣士ですかぁ……。魔法剣士って勇者っぽくありません? ほら? リナさんって元勇者ですし……?」
「嫌な過去を思い出させる。今の私は……ただの魔王の眷属だ」
魔法剣士を推すカノンの意見を、リナは苦笑で返す。
「それじゃ……剣士に進化するぞ?」
リナの視線を受けて、俺は黙って首肯する。リナは頷いた俺を確認すると、スマートフォンを操作し始めた。
リナは一瞬の硬直の後、意を決してスマートフォンの画面に人差し指を押し当てる。
すると、リナの手にしたスマートフォンから淡い輝きが漏れ始め、やがてその光はリナの全身を包み込んだ。
「魔王の進化とかなり違いますねぇ」
「足下に六芒星は出現しないのか」
「ちょっと地味ですねぇ」
「ちょっとか? かなりだろ?」
俺はカノンと共に、初めて見る人類の進化について感想を言い合う。
「シオン……? カノン……? 聞こえているのだが?」
いつの間にか光は収束しており、リナは腰に手を当てて俺とカノンにジト目を向ける。
「ん? 何か聞こえたか?」
「性悪な黒幕の声ですかぁ?」
「っと、それよりも、痛みは大丈夫だったか?」
俺は話題を切り替えるためにも、優しい言葉をリナに投げかける。俺も魔王になってから二回の進化を経験したが……それは激しい苦痛を伴う行為であった。
「痛み? 特に痛くはなかったが……?」
そんな俺の優しい気遣いの言葉に、リナは首を傾げる。
「えっ? 進化する時って痛くないのか? 全身が燃やされるような……」
「バラバラに引き裂かれるような痛みは無かったのですかぁ!?」
俺と同じく進化で苦痛を味わった経験のあるカノンが、俺の言葉に続く。
「と、特には……。ほんの少し温かったかな?」
「「――!?」」
リナの言葉に俺とカノンは同時に言葉を失う。
あの地獄のような苦痛は【カオス】限定なのか……。そこに差を付けるのはダメだと思うぞ?
俺は、この世界をコワシタ元凶である黒幕に怨嗟の念を抱く。
「私が思うに……、私はクラス――言わば職業が進化した程度だ。対してシオンは種族が変わった。その違いは大きいのではないか?」
激しく落ち込む俺にリナが慌ててフォローの言葉を投げかける。
「まぁいい……。それで、どうだ?」
黒幕に恨み言を吐いても、意味は無い。俺はリナに進化した感想を求める。
「そうだな……全身に力が漲っている感じか? 身体は軽いし、感覚も鋭くなった気がするな」
「ステータスは?」
「今、確かめる」
リナはスマートフォンを操作して、自身のステータスを確認する。
「――!?」
スマートフォンの画面を覗くリナの目が、驚きからか大きく見開く。
「す、凄いな……。進化とは、ここまで強くなるのか……」
「どうした?」
呆然とするリナに駆け寄り、リナのスマートフォンを背後から覗き込む。
――!?
『 名前 :リナ=シオン
種族 :人間
ランク:B
LP :100/150
肉体 :B
知識 :G
魔力 :H
特殊 :剣技(A)
→ダブルスラッシュ
→パリィ
→ムーンスラッシュ
→ソニックスラッシュ
→シャイニングレイブ
レイジングスラッシュ
アクセル
配下 : リビングメイル*2 ウェアウルフ*2
【編成】 』
強くなりすぎだろ……。苦痛を伴わない地味な進化じゃないのかよ……。
リナは俺の配下だ。現状は忠実な配下であり、侵略部隊の主力だ。早期にリナを眷属に出来たのは幸運だった。リナが配下にいなかったら、金沢を統一するのは1年以上遅れていただろう。
そのリナが強くなったことは喜ばしいことだが……
――イザヨイ! 来い!
俺は勢力下で最強の配下の一人である――イザヨイを呼び寄せる。
「遅参……申し訳ございません」
待つこと5分。イザヨイが姿を現わした。
「リナ、イザヨイと戦え」
「む?」
「畏まりました」
突然の俺からの命令に驚くリナと、恭しく頭を下げるイザヨイ。
「武器はそうだな……コレを使え」
俺はリナへと鉄の剣を放り投げ、イザヨイには鉄の槍を放り投げる。
「互いに殺すことは許さないが……本気で戦え」
「魔法の使用は?」
「許す」
イザヨイからの申し出に俺は首を縦に振る。
「準備はいいか?」
「いつでも」
「少し待って! 少しだけ……身体を慣らす時間が欲しい」
リナは狼狽した口調で、猶予を申し出る。
「どのくらい必要だ?」
「10分でいい」
リナの言葉に俺は黙って首肯すると、リナは部屋の隅へと移動して素振りを始める。
10分後。
俺の部屋から程近い空間にて、リナとイザヨイが対峙するのであった。
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