vs魔王アリサ10


 ――クロエ、ブルー、ホープ、シルバー、ノワール、ルージュ。それぞれ自分の配下を引き連れて【帰還装置】を目指せ!


 クロエたちに【転移装置】の先に設置してある【帰還装置】への移動を命じる。


 これでクロエたちは敵を飛び越えて支配領域の外側――支配領域の入口へと移動し、背後から銀の矢を降らせる敵を駆逐することが可能となる。


 クロエたちが奇襲を仕掛けるまでは、敵の意識をこちらに釘付けにしたほうがいいな。


「総員退避! 後方の遮蔽物まで後退せよ!」


 リビングメイルたちは一列に並び、盾を構えながら一歩ずつ後退。俺やリナたちは、降り注ぐ銀の矢の雨を避けながら、後方に多数設置した遮蔽物へと疾走した。


 ――遠距離攻撃が出来る配下は応戦せよ! それ以外は遮蔽物の裏で待機!


 配下たちに命令を下し、俺も遮蔽物に隠れながら魔法で応戦をする。


 ――《ダークアロー》!


 哀れなのは最前線に立つ魔王アリサの配下だった。前方からは俺たちが放つ魔法が飛来し、後方からは味方が放つ銀の矢の雨が降り注ぐ。俺たちへ特攻を仕掛けようにも、目の前に立ち塞がるリビングメイルたちがそれを許さない。


 背中から銀の矢を生やしたゴブリンやピクシーたちが1体、また1体と地に倒れていった。


 銀の矢による雨は次第に勢いを弱めると、新たな敵の軍勢が姿を現わした。


「魔王アリサ様に勝利をーっ!」

「「「&%$#!」」」


 全身を銀色の鎧で身を固めた巨大なゴブリン――ゴブリンジェネラルを先頭に、銀尽くめのゴブリンの大軍が押し寄せてくる。


 ――総員、押し寄せる敵を迎撃せよ!


 ――アイアンは俺を護れ!


 遮蔽物の裏で燻っていたリナたちに突撃の命令を下し、防御力が最も優れるアイアンには俺の守護を命じる。


 現在のCPは3100か。


 俺は遮蔽物に隠れながら《配下創造》を行い、3体のリビングメイルを創造する。続いて、『ミスリルの鎧』と『ミスリルの盾』を錬成し、リビングメイルに与える。これで即席ではあるが、俺に対する守護は強化される。


 アイアンと3体のリビングメイルの影に隠れながら、俺は魔法で応戦を続けるが、敵も死に物狂いだった。フレンドリーファイヤーをモノともしない後方からの激しい魔法と弓矢による攻撃。シルバー装備に身を固めたゴブリンたちの決死の攻撃。リナを始めとした眷属たちは無事であったが、名も無き配下たちの被害は確実に増加していった。


 こちらも控えていた第3陣以下、残存戦力を次々と投入して対抗。


 交差する互いの後方から放たれる魔法と弓矢。飛び交う怒号と悲鳴。倒れる味方と敵。周囲は阿鼻叫喚の地獄と化していた。


 そろそろ前線のリビングメイルの数がヤバいな。


 ――ガイ、周囲に落ちている装備を掻き集めてこい!


 俺は《配下創造》にてリビングメイルを創造し、ガイが掻き集めたアイテムを与える。この際、リビングメイルは消耗品と割り切ろう。リビングメイルには己の命を賭して味方を護るように命令を下し、次々と前線へと送り込んだ。


 俺は《配下創造》を行い、魔法で応戦し、そしてスマートフォンで支配領域の入口の様子を確認する。


 まだだ……。まだだ……。もう少し……。


 10秒に1回スマートフォンで支配領域の入口を確認しながら、タイミングを図る。


 ――!


 機は熟した。


 入口付近――敵の最後方には、遠距離攻撃のために配置された魔物のみが残り、近接攻撃が得意な魔物は全て前線へと移動した。


 ――クロエ! 奇襲を仕掛けろ!


「総員! 突撃を仕掛けろ!」


 今までリビングメイルたちが築き上げた防衛ラインを超えずに応戦していたリナたちへ、突撃の命令を下す。同時に、敵の後方からはクロエたちが奇襲を仕掛けた。


 後方から飛び交っていた魔法と弓矢は止み、前線でリビングメイルに侵入を阻まれていた敵たちへ一斉にリナたちが攻撃を仕掛ける。


 ――《ダークインダクション》!


 最前線でシルバーアックスを振るっていたゴブリンジェネラルの思考を誘導し、近くのゴブリンを攻撃させる。ゴブリンを仕留めたゴブリンジェネラルは自分の手にした斧に視線を落とし困惑しているところをレイラの振るった冥府の鞭が首を締め付け、レッドの振るったヴァジュラが顔面を殴打、悲鳴を上げたゴブリンジェネラルの首をリナがダーインスレイブで斬り落とした。


「「「#&%$!?」」」


 自分の主たるゴブリンジェネラルを失った一部のゴブリンが恐慌状態へと陥る。


 ――《ダークアロー》!


 喚き散らすゴブリンたちに闇の矢が降り注ぎ、呼応した仲間の攻撃が生き残ったゴブリンにトドメの一撃を加える。


「攻撃の手を緩めるな! 進め!」


 俺は配下を鼓舞しながら前線を押し上げる。クロエたちは僅か24人で敵の大群に奇襲を仕掛けている。万が一の消失を防ぐためにも、早期の合流が求められていた。


 周囲の様子を確認すると……銀色の敵はいない。


 天敵が殲滅したのを確認した俺もゲイボルグを手にして、最前線へと駆けるのであった。


 ゲイボルグを振るい、ゴブリンやピクシーを駆逐しながら侵攻すると、激しく戦闘する一団が目に映った。


「クロエ! 全員無事か!」

「――!? も、勿体なきお言葉! 無事でございます!」


 震える声でクロエが返事をする。


「残った敵を殲滅せよ!」


 ――但し、眷属と思われる個体は見逃せ。


 言葉と、思念両方で配下たちに命令を下す。言葉では、魔王アリサにこちらの意図が読まれてしまう可能性がある。


「クッ!? 撤退! 撤退っす!」

「撤退よ! 撤退するのよ!」

「撤退だ! 撤退するのだ!」


 人語を話すゴブリンやピクシーたちが撤退を口にして、敗走する。


 ――眷属以外は出来るだけ、仕留めよ!


 俺たちは人語を話す魔物――眷属を除いた魔物の駆逐に精を出すのであった。



 ◆



 30分後。


 第二十八支配領域から全ての敵対勢力が姿を消した。


 初めての大規模戦闘による被害は大きかった。多くの名も無き配下を失った。しかし、魔王アリサの方がこちらよりも甚大な被害を被っただろう。


 作戦としては、まずまずの成果と言えた。


「シオン。一ついいか?」

「どうした?」


 多くの死体が転がる戦場を見ながら、今後の予定を考えているとリナが声を掛けてきた。


「なぜ、敵の眷属を見逃した?」

「敵の戦力を殲滅するため」

「――? 意味がわからん」


 俺の答えにリナが首を捻る。


「今回の現象は理解しているか?」

「《宣戦布告》だろ? カノンから聞いた」

「《宣戦布告》を仕掛けた魔王のペナルティは聞いたか?」

「いや、そこまで詳しくは聞いてないな」


 なるほど。確かに、カノンがそれをリナに説明する必要はないか。


「えっと、《宣戦布告》を仕掛けた魔王は《宣戦布告》の期間中CPが回復しないのな」

「ふむ」

「つまり、眷属を新たに創造出来ない」

「そうなるな」

「眷属がいないと、魔物は支配領域の外に出られないだろ」

「そうだな……。――! なるほど」


 ようやく、リナは俺の伝えたい意味を理解したらしい。


「眷属を生かして帰せばまた敵を連れてくる。《宣戦布告》中は魔王アリサのCPは回復しない。となると、敵を殲滅すれば……?」

「侵略が容易になる」

「そういうことだ」


 魔王アリサが眷属を何体創造しているかは不明だ。更に言えば、手駒の配下の数も不明だ。しかし、眷属がいないと俺の支配領域に攻め入ることは出来ない。侵略中に敵を倒すよりも、防衛中に敵を倒すほうが危険度は少なく、容易だ。


 そして、6時間後。


 俺のリクエストに応えるかのように、魔王アリサの配下たちが再び俺の支配領域へと侵略してきたのであった。

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