vs魔王アリサ⑨
俺は置かれた状況から、取るべき選択肢を考える。
選択肢を考える前に……理想の結果(ゴール)を定める必要があるな。
理想の結果は――魔王アリサが支配する全ての支配領域を支配すること。
魔王アリサは《宣戦布告》を仕掛けて来た。これにより、30日間は第三勢力による介入はなくなり、魔王アリサはCPが自動回復しない。
配下同士の争いは、罠や立地の観点から防衛側に優位性がある。
これらの状況より導き出される最善の手は――侵略してきた魔王アリサの配下を出来るだけ多く倒し、戦力が尽きた頃を見計らい、魔王アリサの支配領域へ侵略を開始する。
そう考えれば、餌となる俺が前線に姿を見せるのは得策とも言える。
とは言え、この場所――第二十六支配領域では殲滅力が乏しい。
出来れば、殲滅力に優れる第二十八支配領域に多くの敵を釣りたい。
俺が移動したら、敵も移動するか……?
――ダクエル。50の同族を引き連れて第二十六支配領域に来い。第二十六支配領域に到着したらカノンの指揮下に入れ。カノンの命令は絶対だ。
「カノン。俺の代わりにダクエルを呼んだ」
「はい?」
「ダクエルとダークエルフ50体が来るから、指示を出して敵を迎撃しろ」
俺の代わりに遠距離攻撃役としてダクエルとダークエルフ50体を招集。続いて、カノンにこの場での指揮系統を託す。
「シオンさんはどうするのですかぁ?」
「第二十八支配領域に移動する」
「あ!? 銀製品の集団が……って、向こうもシオンさんを追いかけると思いますよぉ?」
「それが狙いだ」
「……へ?」
呆けるカノンを置き去りにして、俺は【転移装置】の元へと走る。
「リビングメイルの数が半数以下になったら、撤退しろ! 支配領域の防衛よりも自分の命を優先にしろ! いいな!」
俺は後ろを振り返らずに走りながら、最後の命令を伝えたのであった。
◆
【転移装置】を二回経て第二十八支配領域に辿り着いた俺は、スマートフォンで第二十六支配領域の状況を確認する。
俺と入れ違いで参戦したダクエルとダークエルフたちが、果敢に弓矢を放っている。威力では俺のダークアローの方が圧倒的に上だが、放たれる数ではダクエルと50体のダークエルフに軍配が上がり、結果として殲滅力は大幅に高まった。
そして、今から参戦する第二十八支配領域の戦況は……
リナを筆頭に近接攻撃を得意としている配下たちが前線でゴブリンたちと激しい戦闘を繰り広げ、背後からはフローラを筆頭に遠距離攻撃を得意としている配下たちが魔法や弓矢を飛ばしていた。
太陽の光が当たらない限り、俺の能力は自勢力内で最強だ。装備品も全てユニークアイテムのBランクで固めている。
痛みや恐怖を感じれば、すぐに撤退すればいい……。今の俺がやるべきことは囮――魔王アリサに俺の存在を伝えること。
大丈夫……。怖くない……。俺は強い……。ステータスだって、装備だって……。誰よりも強い!
俺は、己を鼓舞するように手にしたゲイボルグを強く握り締める。
――魔王シオン! 推して参る!
俺はかつて見たゲームの中の英雄を自分に重ね、激しい戦闘を繰り広げる前線へとその身を投じるのであった。
◆
最前線ではアイアンを中心にリビングメイルたちが盾を構えて、敵の侵攻食い止め、リビングメイルに武器を振るう敵をリナたちが攻撃していた。
――《一閃突き》!
素早く繰り出したゲイボルグの刺突が、リナへと斧を振り下ろそうとしたゴブリンの喉を貫く。
「シオン!?」
前線に現れた俺の姿を見て、リナが驚きの声を上げる。
「よそ見している暇はないぞ?」
俺はリナに軽く視線を送りながら、手にしたゲイボルグを突き出し1体のゴブリンを仕留める。リナは、すぐに俺から視線を外すと黒い魔剣――ダーインスレイブを振るって目の前のゴブリンを仕留める。
「クロエ! レイラ! 何を悠長に遊んでいる? さっさと敵を殲滅するぞ!」
「「――!? ハッ!」」
俺は狂信的な二人を鼓舞しながら、最前線でゲイボルグを振るう。名指しで鼓舞された、二人は獰猛な笑みを浮かべて、妖精種の魔物が溢れる前線へとその身を投げ出す。
「ブルー。それがお前の全力なのか? 働かざる者食うべ――」
「わぁぁぁ!? 待つっす! オイラの活躍を見て欲しいっす!」
続いて、視線と共に言葉を投げかけたブルーは、慌てて前線のゴブリンの群れへと突っ込み、一心不乱に斧を振るう。
「レッド! ノワール! ルージュ! 鬼種とはもっと強いと思っていたが、気のせいか?」
「旦那! そりゃねーぜ!」
「クッ……!?」
「ちょっと待って! 今から本気出すから!」
レッド、ノワール、ルージュの三人が、その力を存分に活かして金棒を振り回し、まとめて前線にいたゴブリンたちを吹き飛ばす。
その後も、眷属を鼓舞しながら俺は前線で武器を振るい続ける。
危ない場面はあったが、過保護とも言えるアイアンたちのヘイト管理と、レイラとクロエによる援護に助けられ、俺は無傷のまま敵を駆逐し続けた。
「ハッハッハッ!」
イケる! 俺は強い! 俺は強いじゃないか!
俺は高笑いを上げながら、そのステータスと最高峰のアイテムの性能を遺憾なく発揮し、ゴブリン、ピクシー、ジャックフロスト、ジャックランタンと……押し寄せる数多の敵を葬るのであった。
◆
第二十八支配領域の防衛を始めてから3時間。
何体の敵を葬っただろう? 魔王になってから今まで葬った数を遙かに超える数の敵を葬ったのは間違いないだろう。
しかし、敵の勢いは衰えない。むしろ、敵の勢いは激しさを増していた。
乱戦での戦い方はこの3時間で理解した。全体の動きを確認するのは不可能だ。出来ることは目の前の敵への集中のみ。前線は崩れていないので、突出しない限り後方や左右から攻撃される心配はない。前方から押し寄せる敵に全神経を集中させれば、危険が及ぶことは無かった。
俺は前方から迫るゴブリンにリーチの差を活かした刺突を見舞い、目の前に敵がいなくなると魔法を放ち、突出しないようにだけ注意して敵の数を確実に減らしていった。
このままいけば、レベル10に成長する日も近いかもな。
俺は順調に迎撃が出来ている現状に満足し、ほくそ笑むが……。
――!?
突如、上空から銀色の矢の雨が降り注いだ。
銀色の雨の矢は、敵も味方も区別せず、前線で争う全ての者に平等に降り注ぐ。
最前線は一気に阿鼻叫喚の地獄と化す。背後から――味方から銀の矢で射貫かれたゴブリンが悲鳴を上げ、浮遊していたピクシーはその羽根を射貫かれ墜落する、目の前に敵に集中していた俺の配下も、突然の無差別な攻撃にその身を傷つけ……。
――ッ!?
敵も味方も区別しない、無慈悲な銀の矢は俺の肩にも突き刺さった。
熱い!? 焼け付く痛みが俺の肩をはしる。
致死量のダメージはない。しかし、熱湯を掛けられたくらいの痛さが俺を襲った。
俺は堪らず前線から退いて、その身をリビングメイルの背後へと隠す。
味方諸共かよ……。俺は魔王アリサが命令を下したであろう、敵の攻撃に怨嗟と称賛の感情を覚える。
「全員リビングメイルの背後に退避しろ! リビングメイルは盾を構えて、矢の攻撃に備えろ!」
俺はリビングメイルの背後から全員に指示を出す。経験値は惜しいが、防御に徹しても敵は自らの味方の弓矢でその命を散らすだろう。
とは言え、このまま防御に徹するのは得策とは言えない。
俺は対抗策を打つのであった。
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