vs魔王アリサ⑦


 ――ビィ! ビィ! ビィ! ビィ! ビィ!


 聞き慣れない電子音が手元のスマートフォンから響く。


 ――?


 レベアップの告知音、侵入のアラーム音、【真核】を奪った告知音……全ての電子音と異なる激しい電子音。


 電子音の正体を確かめるべく、俺はスマートフォンの画面を覗き込む。


 ――!?


 スマートフォンの画面に映し出された文字を見て、俺は激しく混乱した。


 は? え? 何? どういうことだ!?


 スマートフォンの画面に映し出された文字――『魔王アリサから《宣戦布告》されました』


 宣戦布告? 言葉の意味は知っている。今から戦争するぞ! と相手に告知する的な意味だろ? 事実、俺と魔王アリサはある意味戦争状態だ。問題なのは――


 なぜ、それをスマートフォン――システムが告知してくる?


 よく見ると、《宣戦布告》の文字の色が、他と異なる。その意味が示すことは……。


 俺は《宣戦布告》の文字をタップする。


『《宣戦布告》を行うと、宣誓した勢力及び宣誓された勢力は第三者からの攻撃を受け付けなくなる。


 ・《宣戦布告》の効果期間は720時間。


 ・効果期間内に宣誓した勢力が宣誓された勢力の支配領域を半分以上奪えなければ、ペナルティーとして奪った支配領域及び自身の支配領域の半数が【ロウ】へと解放される。


 ・《宣戦布告》の期間内は、宣誓した勢力、宣誓された勢力共に全ての特殊効果が消失する。


 ・宣誓した勢力は《宣戦布告》の期間内、CPが一切回復しない。


 ・宣誓した勢力は宣誓された勢力の支配領域の半分以上を支配した時点で、任意に《宣戦布告》の状態を解除することが出来る。


 ・《宣戦布告》を実施すると、《宣戦布告》終了から720時間宣戦布告を実施することが出来ない。


 ・《宣戦布告》から1時間は宣誓した勢力、宣誓された勢力共に《擬似的平和》の効力を得る。


 ・《宣戦布告》は支配領域の数、もしくはレベルが優れている相手にのみ発動出来る。          』


 スマートフォンの画面に表示された説明を熟読する。


 簡潔に言えば、魔王アリサは俺に対してタイマン勝負を仕掛けて来たと言うことか。かなりの強攻策なだけあって、《宣戦布告》を仕掛けた側のデメリットはかなり大きい。


 《宣戦布告》の説明を受けて、俺が最も着目した点は2つ。


 1つは、特殊効果の消失。つまりは、支配領域に施された【魔物制限】の消失を意味していた。今までは制限されていた侵略者の数も撤廃されたのだ。まさしく戦争状態への突入と言えるだろう。


 1つは、《宣戦布告》から1時間だけ付与される《擬似的平和》。


 俺は急いでスマートフォンを操作して支配領域の状態を確認する。


『擬似的平和(残り53分)』


 俺に与えられた防衛の準備時間は53分。


 さてと……どうする?


 金沢市内の地図を広げて、防衛の準備を考える。


 ○○○●●●      

 ○○○●●    

 ○●●●● ○=魔王シオンの支配領域(一部) ●=魔王アリサの支配領域


 魔王アリサの支配領域と隣接している支配領域は4カ所。遠回りすれば、侵略される可能性のある支配領域は増えるが……遠回りをするには人類の土地を横断する必要がある。仮にそうなれば、ネットニュースに取り上げられるだろうから、その時に対応しても間に合うだろう。


 となると、早急に対応すべきは隣接した4カ所の支配領域となる。


 4カ所に配下を振り分け……ダメだ。敵が1つの支配領域に戦力を集中したら、守り切れない。


 どこが攻められる? いや、1つの支配領域へ戦力を集中するという先入観は捨てないとダメだ……。4つの支配領域を同時に侵攻してくる可能性も当然ある。


 目の前に並ぶ配下たちは悩む俺の姿を静観し、頭を悩ませている間にも時間は刻々と過ぎていく。


 ――!


 リナやクロエたち眷属の顔を見て、正確には魔王アリサの支配領域を侵略していた時の様子を思い出し、1つの案が思い浮かんだ。


 魔王アリサは支配する支配領域それぞれを【転移装置】で繋いでいた。


 同様の策を用いれば、全ての事態に対処出来るのではないか?


 俺はスマートフォンを操作して【支配領域創造】を実施する。今いる場所から攻められると想定されている4カ所とは別の支配領域の階層に【転移装置】を繋げる。


 そして、リナたち全ての眷属と待機させていた配下たちを次々と転移させる。


 これで、俺の勢力の最大戦力が一カ所に集中。続いて、戦力を集中させた場所から、攻められると想定される4カ所の支配領域を【転移装置】で繋げる。


 これで、攻められた支配領域へ適時配下を送り込むことが出来る。


 続いて、4カ所同時に侵攻されたケースに備えて2カ所の支配領域に罠を設置する。


 1カ所目には、【毒の沼】と【毒霧】を大量に設置した。魔王アリサの配下は妖精種だ。毒には効果が期待出来る。毒が無効のリビングメイルのみを配置すれば、早々と侵略されることはないだろう。


 2カ所目には、【落とし穴】と【肥溜め】、そして遮蔽物を大量に設置した。大群で押し寄せると予測されるゴブリンを【落とし穴】に誘い込むのが狙いだ。遠距離攻撃に優れたダークエルフとゴブリンアーチャー、それにリリムを配置し、【落とし穴】にハマったゴブリンを遠距離攻撃で仕留めるのが狙いとなる。


 残りの2カ所は総力戦だ。下手に罠があると、リナを始めとした一部の配下が実力を発揮出来ない。防衛に有利になりそうな遮蔽物のオブジェクトのみを設置して、攻めて来た敵は個の力で撃退する。


 後、考えるべきことは……防衛に成功した後のことだな。


 魔王アリサが侵攻失敗→支配領域の半分を解放というのは、俺にとって二番目に最悪な結末だ。魔王アリサのCPが【宣戦布告】中は回復しないのであれば……魔王アリサの支配領域を全て支配出来るチャンスにもなる。


 ポイントとなるのは反撃するタイミングの見極めだ。


 魔王アリサの支配領域の数は9。9階層までだから……ん? 待てよ。


「カノン!」


 俺は大声でカノン――検索ツールの名を叫ぶ。


「はぁい」


 検索ツールがふわぁと浮遊しながら近寄ってくる。


「《宣戦布告》は知っているか?」

「はい。あ!? 急に慌ただしくなったと思ったら、《宣戦布告》をされたのですかぁ?」

「《宣戦布告》が行える条件を教えろ」


 俺はカノンの質問を無視して質問を投げかける。


「はい。えっと、《宣戦布告》はレベルが10に成長した魔王が――」

「わかった。もういい」

「え? え!? まだ、条件を説明してないですよぉ」


 俺の知りたかった答えは、早々にカノンの口から出た。


 そもそも、魔王アリサはなぜ《宣戦布告》が出来たのか?


 説明に記載されていた条件のみであれば、俺のレベルが8の時にレベル9の魔王アリサに《宣戦布告》が出来ていないとおかしい。


 ならば、《降伏》のように特別な手順が必要なのか……? ――否。答えはレベルだった。


 と言うことは、魔王アリサのレベルは10。つまり、支配領域の階層も10となる。


「リナ」

「何?」

「支配領域の階層1つを踏破するのに、必要な時間は? 敵は極少数と考えていい」

「そうだな。遮る邪魔者がいないのなら……多く見積もって6時間」

「なるほど」


 知りたい答えを知った俺は、再び思考の中に入る。


 魔王アリサの支配領域の数は9。10階層までだから……9×10階層×6時間÷2(リナ+クロエ)=270時間。日数にすると11日間。6時間と言う時間は多く見積もった時間……実際はもう少し早くなるだろうが、睡眠時間と休憩時間と言う面倒な時間を差し引きすればプラスマイナス0か? 一応予備として、2日間を加算したとして13日。


 《宣戦布告》の有効時間は720時間。つまりは、30日。17日間以内に侵攻してくる敵を殲滅させれば……勝利確定?


 勝利への筋書きは見えた。


『擬似的平和(残り7分)』


 後は、魔王アリサの侵攻を待つだけであった。

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