外伝 佐山莉奈②
『BPを振って下さい。
愛しき我が子よ、絶望するなかれ。継続は必ず力へと変わる』
――?
ステータス画面から先送りした画面には、意味不明な文章が表示される。
文章を閉じると、【肉体F】、【知識G】、【魔力H】の項目が表示される。
BPを振って下さい?
BPと言うのは、この3と言う数値?
この3つの数値を肉体、知識、魔力に振ればいいの?
私は、困惑する。
相談しようにも、残っているルームメイトは会釈する程度の間柄だ。とても、相談が出来る間柄ではない。一番の仲の良い友人である沙織は、テニパラの部室にいるのだろうが、私はどうもあのサークルの雰囲気が苦手だった。
戻ろうにも、戻るボタンがスマートフォンに表示されない。画面を強制的に消そうとしても、スマートフォンはその操作も受け付けない。
「はぁ……」
困ったわね。
「あ、あの……タップしたらステータスの説明が出ますよ」
「えっ……あ、ありがとう」
意図せず漏れたため息が聞こえたのだろうか。ルームメイトから助け船が出された。ルームメイトは一言だけ、私に告げるとそそくさと自分のベッドへと戻ってしまう。
私はルームメイトの助言を受けて、各項目の説明を確認した。
なるほど……? ほぼ言葉通りの意味だった。唯一【知識】の説明が『造詣の深さ』と抽象的なのが理解に苦しんだ程度だった。
私が一番優れているのは肉体なのだろうか? と言うか、全ての人間がそうでは? 魔力なんて、ファンタジー映画にしか出てこない能力に最初から優れている人間などいるのだろうか?
ここは、長所を伸ばした方が得策?
私は【肉体】にBPを3振った。結果は変わらず【F】。
――?
やり方を間違えた? もしくは……女神と思われる者からのメッセージ――『愛しき我が子よ、絶望するなかれ。継続は必ず力へと変わる』を信じるなら、継続して上げ続ければいつか【E】へとランクアップするのだろうか?
BPを振り終えると、画面には【ステータス】と【助言】の項目のみが残った。
【ステータス】は確認済みなので、私は【助言】をタップした。
『愛しい我が子が、この世界を乗り越えるために
・支配領域の最奥に収められている【真核】を破壊すると、支配領域は再び人類の手に戻ります。
・支配領域の魔物を退治すると、レベルアップし、更なる能力が引き出されます。
・全ての支配領域を解放した時に、世界は絶望から救われるでしょう。
愛しい我が子が、この絶望に覆われた世界を救済する事を願っております』
支配領域と言うのは、不可侵地帯の事だろうか?
支配領域には、魔物が生息しており退治するとレベルが上がる。最奥には【真核】と呼ばれるモノがあり、破壊すると支配領域は不可侵地帯ではなくなる。そして、最終的には世界中の支配領域を解放しろ。そういうことなのだろうか?
私がやらなくても、誰かが成し遂げてくれる。学生であり、未成年でもある私が出る幕は無いのだろう。きっと、大人が何とかしてくれる……。
私は、まだ知らぬ英雄に未来を託し、ベッドに横たわるであった。
7時間後。
政府指導の下、日本に発生した1万6千の支配領域の内……1千の支配領域に自衛隊が強襲を仕掛けることになった。動員された自衛隊員の数は1万2千人。
なぜ、1つの支配領域に戦力を集中しないのか? 答えは、理解不能であったが……検証の結果、支配領域には12人までしか入れなかったらしい。
日本はすでに、正体不明の敵に侵略されているに等しい状態だ。早期解決と、人員のバランスを考慮した結果が、1万2千人の自衛隊による、1千の支配領域への強襲作戦だった。
そして、その1千の支配領域の中には、私の居る大学付近の支配領域も含まれていた。
1時間後。
結果は散々であった。自衛隊の死亡者数3876名。負傷者8124名。解放された支配領域0。日本国内で初めて行われた人類の逆襲は、惨敗に終わった。
ネット上、或いはテレビに出演するコメンテーターは声を揃えて「女神の啓示で、銃火器が効かないことは容易に予測出来た。政府は前途ある隊員の命を無駄に奪った」とバッシングの嵐が続いた。
自衛隊が突入するまでは、「政府は早期に解決すべし」「早期の自衛隊の投入を!」と声高に叫んでいたのに……私は名前も知らない政府の高官に同情をするのであった。
◆
三日後。
人類には小さいけれど、確かな希望が幾つももたらされた。
曰く、
――『北海道のダンジョンを攻略していた北海道第三師団に所属する隊員12名がレベルアップ』
――『有志の学生が攻略していたダンジョンで、強力な武器を発見!』
――『テクノロジーを用いない武器であれば、下位ランクのモンスターは人類でも討伐可能である』
明るいニュースが世間に流れる度に、幾人もの英雄願望に取り憑かれた人たちが、支配領域へと侵入した。
まだ、支配領域が解放されたニュースは流れていない。
でも、このままいけば世界に希望はもたらされるかも知れない。
私は、そんな世界で脇役にもなれない第三者として、世界の行く末を見守り続けるのだろう。と、一人ベッドで横たわっていると……。
――~♪ ~♪ ~♪
着信を告げる音楽がスマートフォンから流れた。
スマートフォンに表示された発信者の名前は――香山 沙織。
私はスマートフォンを操作して、電話を取る。
「もしもし」
『あ!? もしもし、莉那? 私! 沙織!』
「どうしたの?」
『えっとね、ちょっと莉那に相談したいことがあるんだ。テニパラの部室まで来られないかな?』
「相談? 何?」
『うーん、私じゃ上手く説明できないかも。ごめんだけど、テニパラの部室に来て! 待ってるね!』
「ちょ!? 沙織!?」
沙織は一方的に用件を告げて、電話を切った。
テニパラの部室か……。気乗りしないな。
沙織は私の友人だ。大学で知り合った友人も沙織経由の友人が多い。大学生になった沙織とは多少波長が合わないが、大切な友人には違いない。
私は重い足取りで、テニパラの部室へと向かうのであった。
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