支配領域創造③
【擬似的平和】 残り3時間。
12k㎡*3階層にも及ぶ、【支配領域創造】が終了した。
カノンと話し合う際に、『元カノンの支配領域』と毎回言うのは面倒なので、便宜的に俺が支配していた支配領域を【第一支配領域】、カノンが支配していた支配領域を【第二支配領域】と名付けた。
【第一支配領域】と【第二支配領域】は、壁で隔てることが可能であったし、通路を繋げれば行き来する事も可能であった。当然の仕様とも言えるが、入り口から【真核】が設置してあるまでの通路を遮断する事は出来なかった。
【第一支配領域】と【第二支配領域】はコンセプトを明確にして、創造した。
【第二支配領域】のコンセプトは稼ぎ場だ。一階層の通路は、ほぼ一本道。脇道の先と最奥には、宝箱と守護する配下が待ち受けている。二階層へと降る階段は、入り口付近に設置してあるので、解放目的ならば、一階層はスルーする事も出来る親切設計だ。二階層からはコボルトやグールを配置。前半部分はシンプルな作りになっており、後半部分――三階層へと続く階段への道のりには、アイテムを渡した配下を配置してある。三階層からは、本気モードだ。全力で侵入者を排除する。
【第一支配領域】のコンセプトは本気だ。本気と書いて
一階層から複雑に入り乱れた迷路の形を成しており、罠もふんだんに仕掛けてある。配置した配下は、コストパフォーマンスに優れるグールとジャイアントバットだ。二階層からは俺の長所である――錬成を存分に活かした強力なアイテムを装備した配下を設置した。
そして、三階層は――居住エリアとなっていた。
これは、カノンの助言を聞き入れて創造した階層だ。
「シオンさんは、居住区を創造しないのですかぁ?」
「居住区?」
聞き覚えのない言葉に、俺はオウム返しの返事をする。
「はい。モンスターにはそれぞれ好みのエリアがあります。居住区が安定すれば、食料の自給自足も出来ますし、居住を構えれば繁栄もします。と言うか、先程配下の方から聞いたのですが、シオンさんの配下はまともな食事環境に置かれていませんね」
「どういうことだ?」
「聞けば、シオンさんは配下に人類や倒された配下を食事として与えていたとか」
「そうだな」
与えていたと言うか、勝手に食べていたと言うのが正解だ。常に側にいた配下は、余りに痩せ衰えていたら、消費CPの一番少ない食料を創造して与えていた。そもそも、多くの配下は、創造してから倒されるまでのサイクルが早かったので、食事環境は気にしていなかった。
「ダメですよ! 倒された配下を食べるなんて……それは、最終手段です!」
思い起こせば、選抜した配下達は人類を倒して戻ってくる時に、人類の所持していた食料を持ち帰り、他の配下に分け与えていた。
「ちなみに、まともな食事と居住を与えたらメリットはあるのか?」
食事と居住は、創造でどうにでもなる。但し、無料ではない。対価に重要なCPが必要となる。
「あります。居住と食事環境を与えれば繁殖します。つまり、CPを消費せずに配下を増やせます」
「なるほどな。CPを消費せずに配下を増やせる――大きなメリットだ」
「ご理解頂けて何よりです」
「とは言え、繁殖だろ? 具体的な周期や、増える数は分かるのか?」
「周期や繁殖の数は種族によって異なります。ラットならば一対の雌雄が繁殖するまでの期間は10日、数は10匹前後。ウルフならば繁殖期間は15日、数は5匹前後。ゴブリンならば繁殖期間は20日、数は7匹前後。コボルトならば繁殖期間は30日、数は5匹前後。オークならば繁殖期間は40日。数は5匹前後。ライカンスロープとダークエルフは共に180日前後、数は1人です。但し、此れは種が宿ってからの期間となります」
カノンが答えた内容を頭の中で反芻する。
想像していたよりも、繁殖期間は短かった。
「ラットが繁殖する環境を整えるのに、消費するCPは幾つだ?」
「えっと、ちょっと計算するので……お待ち下さい」
カノンはスマートフォンを操作して、電卓アプリを操作する。
「10組のラットが繁殖するために、適した環境を整えるために必要なCPは30です。補足になりますけど、ラットだけじゃなくて他の種族の繁殖させる為に水源が必要となります。【川】がコストパフォーマンスに優れますので、その場合はCP50の他にDPが30必要となります」
「【池】じゃダメなのか?」
【池】だと、CP10、DP10で創造可能だ。
「ラットのみならいいのですが、他の種族も繁殖もお考えなら、【池】は範囲が狭すぎます。【川】ならば、広範囲をカバー出来ます」
「なるほど。有意義な情報だ。つまり、【川】の創造は他の種族の繁栄にも必須だから、考慮しないとして、【支配領域創造】にてCP30。ラット10組の【配下創造】でCP20の合わせて50CPを消費すれば、10日毎にラットが100匹前後増える。そう考えていいんだな?」
「いえ、違います」
「何でだ?」
「10組全てのラットが繁殖するとは限りません。ラットは繁殖し易い種族とは言え、繁殖率は70%と考えるべきです」
「なるほどな」
俺は、頭の中で数値を修正する。
費用対効果――費やした費用に対してどれだけの効果が得られるのか。大学の経済学で学んだ知識だ。まさか、役に立つとは。
30CPという費用を費やして、10日でラットが70匹。つまり、140CPに匹敵する効果が得られる。
30日で、費用対効果は1400%!?
異常だ。授業で習ったのは、120%で大成功とかだった。
その後も、カノンから配下の繁殖に必要な環境を聞き出した。
結果として――CP360、DP130を費やして居住エリアを創造した。尚、自給自足の体制が整うまでは、ランニングコストとして毎日30のCPが必要となった。
尚、費用対効果は30日でザクッと200%。ラットの費用対効果だけが、異常に高かっただけであった。
◆
「うわぁ……綺麗ですね」
創造した3階層へとカノンと共に移動した。
新たに創造した、配下の居住区とも言える3階層は、 DP100を費やし、タイプ【草原】へと変更した。ダンジョンの中にありながら燦々と太陽の光が降り注ぎ、中央には縦に横断する川、周囲を見渡せば草木が生い茂る草原に、深い森。視認は出来ないが森の奥には2つの洞窟が存在している。
「創っといて言うのも何だが……地獄だな」
「えっ?」
降り注ぐ太陽の光は確実に、吸血鬼である俺の体力を奪い去っていた。
「さて、戻るか……」
「え? もう戻るんですか!?」
俺は新たな自室となった洞窟の中へと戻った。
3階層に設置された2つの洞窟。1つは、太陽の光を嫌う俺の自室。もう1つは【第二支配領域】へと繋がる、洞窟であった。
1階層と2階層は共に、【第一支配領域】と【第二支配領域】を遮断していた。3階層のみ、配下が行き来する為に通路を設けたのだ。
配下が行き来する為――つまり、俺には別の手段での移動が可能だった。
支配領域が拡大した時、新たに習得した特殊能力――《転移C》
効果は、支配領域内の配下の近くに転移する。但し、敵対勢力が近くにいると転移出来ない。
つまり、俺のみであれば支配領域内を条件付きで転移出来るのだ。
その条件が中々厳しい。『配下の近くに転移』――つまり、配下のいない場所には移動出来ない。例えば、侵略者が配下を倒しながら進んだとすれば、侵略者が踏破した場所には配下がいないので転移出来ない。背後に転移してからの奇襲は無理であった。更に、『敵対勢力が近くにいると転移出来ない』――要は、転移を逃走手段には使えなかった。おまけに、一度使うとクールタイムと言えばいいのだろうか? 8時間の間隔を空けないと再使用出来なかった。
と、縛りは多いが便利な特殊能力であった。
但し、転移出来るのは俺だけなので、配下は徒歩で配置先まで向かう必要がある。その為の移動経路が3階層に設けた通路となる。
「ってか、何で転移C?」
「転移Bになれば、配下も移動出来るらしいですよ。レベル5で習得可能です」
検索ツール――カノンが答えてくれる。
「転移Aは?」
「私の知識にはありませんでした……」
カノンは肩を落として落ち込むのであった。
居住エリアに多くのDPを割り当てたため、【第二支配領域】には罠を一切仕掛けなかった。その分、【第一支配領域】にはふんだんな罠が仕掛けてある。
ともあれ、【支配領域創造】は終わった。今後はレベルアップの為に、俺も前線に立つ機会を増やそうと思う。
来たるべき、『ガチ勢』の侵略に備えて、俺は着実に力を増していくのであった。
『魔王シオン支配領域
DP:508/508
支配面積 12k㎡
人口 0人
タイプ ダンジョン
階層 3
設置施設 小部屋*50
草原(階層)*1
森林(部分)*1
川*1
洞窟(小)*2
小屋*30
畑*10
墓*20
岩*20
入口*2
宝箱*28
休憩所*8
階段*4
設置兵器 鉄の矢*20
毒の矢*20
転がる岩*4
落とし穴*2
毒沼*1
アラーム*1
特殊制限 12人*2
特殊効果 擬似的平和(残り3時間)』
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