増えた支配領域②
ステータスを確認すると、CPの最大値が100増えていた。更には新たな特殊能力を習得していた。
この特殊能力の検証は後回しだな。次から次へと、やるべき事が増えていくな……。
「カノン、得意な武器はあるのか?」
俺はカノンに声を掛ける。400/400と飽和したCPを処理するためだ。
「武器ですか? すいません。扱った事はありません」
カノンは申し訳なさそうに、肩を落とす。
「ならば……って、よく考えたら、コレ持てるか?」
俺はストックとして保管していた黒鉄の剣をカノンに渡す。
カノンの全長は10cm。対して、黒鉄の剣は刃渡りだけで80cmはある。
結果は、
「うーん……うーん……ハァハァ……」
黒鉄の剣に纏わり付く虫……もとい、必死に持ち上げようと努力するカノン。
「……ハァハァ。無理ですね」
「まぁ、そうなるわな」
俺は、スマートフォンを操作して多岐に渡る錬成出来る武器のリストを確認する。
確か……ここら辺にあったような……っと、発見。
コロポックルの杖:ランクC。消費CP150。こびとでも持てる小型の杖。
何気に消費CP多いな。安物買いの銭失いって言葉もあるし、いっか。
ちなみに、フェアリーロッド:ランクB。消費CP350。も錬成可能だが、俺の武器よりも高価になるので、却下した。
俺はコロポックルの杖を錬成し、カノンへと投げる。
「あいたっ!? って……えぇ!? こんな高価なアイテムいいんですかぁ!?」
コロポックルの杖を頭に受けたカノンが、二重の意味で悶える。
「とりあえず、CPが全快だったからな」
「ありがとうございます! 大切にしますね!」
「お、おう」
思った以上に素直に喜ぶカノンに、俺は戸惑ってしまった。
「そういえば、CPの最大値は100しか増えてないが……」
「はい。【真核】で増加するCPは100ですよぉ」
カノンはコロポックルの杖がよほど嬉しかったのか、弾んだ声で答える。
「それなのに、【真核】をテリトリー外へ移動させたら、CPが半分……200も減るのか?」
どう考えても割に合わない。
「仕様ですねぇ」
カノンは浮かれた声で、身も蓋もない返事をするのであった。
◆
「さてと、どうするべきか?」
俺は独り言を呟く。あえて、声に出したのはカノンの意見を聞くためだ。
「何をですかぁ?」
「今後の方針だ。選択肢は2つある、と思ってな」
「どんな選択肢ですかぁ?」
「新たに得た支配領域を守るのか? ――放棄するのか?」
例の天下統一を目指すシミュレーションゲームの経験となるが、序盤に欲しいモノ(例えば人材)があるから、領土を攻め落とす。但し、2つの領土を守るだけの戦力は整っていないから、攻め落とした領土には一切戦力を置かずに、攻められたら放棄する。
「なるほどですね。シオンさんっぽく言うなら、『放棄をすることによるメリットは、戦力の集中化。デメリットは、DPとCPの最大値の減少』って感じですかぁ?」
声を低くしてドヤ顔で話す、目の前の虫を
「まさかと思うが、俺の真似か?」
「えへへ。似てまし――ブハッ!?」
にへらと笑う目の前の虫をとりあえず叩いた。
悶える
デメリットは本当にそれだけか……?
「……違うな」
「痛いですよぉ……って何が違うのですか?」
「デメリットだ」
「え? でも、放棄したら【真核】を壊されると思うので、CPもDPも減少しますよ?」
「そうだな。生き残るためには――強くなるためには、CPとDPは不可欠だ」
「……? 合ってるじゃないですかぁ?」
「そうだな。でも、放棄にはもっと大きなデメリットがある」
「もっと大きなデメリットですかぁ?」
「これから先、世界はどういう状況になる……?」
「シオンさんって、話の途中で急に話題が飛ぶというか、自分の世界に――」
――スカートを捲し上げろ。
「えっ? えっ!? キャー!? なぜ!? 何故!」
カノンは顔を紅潮させながら、スカートを捲し上げる。
「ストレス発散だ」
「……ヒドイです」
主従関係は偉大だ。
「生き残り続けたとしたら――魔王の今後はどうなると思う?」
「魔王のですかぁ? 私はもう魔王では――」
「参謀になれるチャンスを棒に振ったな。検索ツールとして、今後の活躍を期待するぞ」
「え? そ、そんな、もう一度……もう一度チャンスを――」
泣き声で懇願する
「魔王になって最初の一ヶ月は準備期間だった。準備期間が終わると防衛期間になった。今がこの期間だな」
「あ? 私の話を聞いていな――」
「この期間を終えると、どうなる? 多くの魔王は眷属を創造し、支配領域の外へと進出。そして、他の魔王を討伐し支配領域の拡大を始める。言うなれば、魔王の選別期間だ」
口を挟むカノンを無視して推測を続ける。
「魔王の選別ですかぁ?」
「そうだ。強者の魔王と弱者の魔王の選別だ」
「そうして勝ち残った魔王が、各地で乱立。魔王同士、そして人類を交えた群雄割拠の時代へと突入。最後まで生きていた魔王が勝者だ。もしくは、全ての魔王を倒して人類が勝者になる」
俺は自分の推測を言い終え、満足感に包まれる。
「なるほど……。どういうことですかぁ?」
「……え?」
「えっ?」
俺の戸惑いの声に、カノンは戸惑いの声を重ねてくる。
何だろ? 説明するの面倒になってきた。とは言え、カノンの知識を十二分に活かすには、情報の共有化は不可欠だ。
「つまりだな、遠くない未来に魔王同士の争いが起きるだろ?」
「魔王の選別ですね」
「うむ。強者の魔王になる為に、必要な要素は何だ?」
「レベル、CP,DP、知識Bの優秀な参――」
「攻守に必要なCP。防衛に必要なDP。レベルを上げる以外に、それらを増やす方法は?」
カノンの戯言を遮る。
「支配領域の支配です」
「そうだ。でも支配領域は無数にあるとは言え、有限だ。特にこちらが出向ける範囲で、自分よりも格下の支配領域となると、その数は更に減る」
「そうなりますね」
「そこで、問題だ。今、支配領域を放棄すると、どうなると思う?」
「解放されます」
「そう。解放だ。支配じゃなくて、解放される」
「えっと、魔王じゃ無くて人類が支配領域を解放するので……」
「惜しい。解放された支配領域を支配するには……?」
「――あ!? 分かりました! 解放された支配領域を支配するには、レベルを10まで成長させる必要があります。つまり、ただでさえ少ないシェアが失われる!」
「正解。放棄による、一番のデメリットは人類に支配領域を解放されることだ」
魔王ならば、問題ない……とまでは言わないが、隣接する支配領域だ。ネットで調べる限り、近隣に抜きん出た魔王の存在は確認されていない。最悪、奪い返せばいい。しかし、解放されては、レベルが10になるまで奪い返せない。これが、一番のデメリットだった。
「行動方針は防衛だ。それを踏まえて支配領域の創造から始めるか」
「はい!」
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