増えた支配領域①


 【擬似的平和】残り18時間。 

 

 カノンから聞いた有意義な情報を、スマートフォンのメモアプリに入力する。


 ・ 魔王が、レベルを1上げるのに必要な経験値は、同レベルの敵*現在のレベルの値*20。

 (例) レベルを3→4に上げるためには、レベル3の敵を60(3*20)人倒せばよい。


 ・ 魔王以外が、レベルを1上げるのに必要な経験値は、同レベルの敵*現在のレベルの値*5。


 ・ 自分のレベルよりも低い敵から得られる経験値は、1下がるごとに50%乗算される。

 (例) 自分のレベルが3と仮定する。レベルアップに必要な経験値は60。レベル3の敵を倒すと1の経験値を得られる。レベル2の敵を倒した時に得られる経験値は0.5(1*50%)。レベル1の敵を倒したときに得られる経験値は0.25(1*50%*50%)


 ・ 自分のレベルよりも高い敵から得られる経験値は、1上がるごとに110%乗算される。魔王を倒したときの経験値は*1000%される。


 ・ モンスターにもレベルは存在する。目安は、Fランク1~2、Eランク3~5、Dランク6~9、Cランク10~19、Bランク20~49、Aランク50~。


 ・ 徒党を組んで倒した場合は、貢献度に応じて経験値は分配される。


 ・ 配下が倒した経験値は、支配領域内であれば10%が創造主に分担される。支配領域外であれば5%が創造主に分担される。


 ・ 罠で倒した敵の経験値は100%創造主に分担される。



 俺が一番興味を抱いた経験値とレベルに関しては、以上だ。


 よく考えられた仕様だと思う。弱者を相手にしても得られる経験値は、減少していく一方だ。人類、魔王が共に成長しないと、レベルは停滞する仕組みとも言える。


 ……本当にそうか? 悪魔のような考えが頭によぎる。しかし、その考えは穴も多く、実現不可能に思えたので、忘却することにした。


 つまり、手っ取り早くレベルを上げるには、罠を有効活用するか、俺自身が戦うしかないのか……。眷属による遠征レベリングは、そこまで効率が良くないと知ってしまったのが、個人的に一番ダメージが大きかった。


 続いて、未分類の情報だ。


 ・ 魔王はレベルが5になると《分割》を習得する。《分割》とは、支配領域を分割して、仮の支配領域の主を配下から選別する行為らしい。イメージとしては、シミュレーションゲームの委任だろうか。仮の支配領域の主は配下創造が出来ないなど、様々な縛りがあるらしいので、万能とは言い難かった。


 ・ 魔王はレベルが10になると進化する。また、《統治》を習得する。《統治》とは、人類の土地を支配領域化する行為だ。色々と面倒な手順が必要だが、まぁ先の話だな。


 ・ ゴブリンとコボルトは4段階進化する。ダークエルフの進化は2段階。ライカンスロープも4段階であった。ちなみに、最多はスライムの10段階進化だ。


 ・ 一部の人類とドワーフ及びエルフは錬成が出来る。ダークエルフは錬成が出来ない。


 後は、ゴブリンの好物とかどうでもいい情報が多かったので割愛する。


 カノンからある程度の情報を聞き出した俺は、とある難局にぶつかっていた。



  ◆



「すいません。何か私のせいで……」


 難局を招いた一因ともなったカノンが申し訳なさそうに謝罪する。


「まぁ、こうなるとは知らなかったんだろ?」


 カノンから聞き出した知識は、非常に有意義な情報であった。指示すれば、無理矢理聞き出せるとは言え、険悪な関係は望んでいない俺は、フォローの言葉を返す。


「いえ、知識としては知っていましたが……その事に気が回りませんでした」


 カノンは先ほど、俺が見せた表情がよっぽど衝撃的だったのか、気落ちしたままだ。


 俺はスマートフォンを操作して【支配領域】の状態を、改めて確認する。



『魔王シオン支配領域


 DP:284/294


 支配面積 12k㎡


 人口   0人


 タイプ  ダンジョン


 階層   3


 設置施設 小部屋*35

      森林*1

      岩*68

      入口*2

      宝箱*14

      休憩所*4

      階段*4


 設置兵器 木の矢*12

      毒矢*4

      転がる岩*3

      落とし穴*4

      アラーム*1

      毒沼*1


 特殊制限 12人*2


 特殊効果 擬似的平和(残り18時間)』 


 カノンが招いた難局とは、支配領域の拡大化に伴う――入り口の増加だ。


 入り口の増加は、守るべき場所が増えた事を意味していた。


 俺は行動指針を立てるときは、いつも入念なシミュレーションをしていた。


 元々が一般の大学生であった俺が、なぜシミュレーションが出来たのか。


 俺が大学で履修している科目は主に経済学だ。軍事戦略などではない。平和だった日本に生まれた俺は、戦争や争いに参加した経験も皆無だった。


 そんな俺が、シミュレーション――妄想の基にしたのは、本や映画やアニメといった創作物、そしてゲームを通して得た、経験や知識だった。


 俺は孤高ぼっちにして雑食だった為、様々なジャンルの創作物を読み漁り、様々なジャンルのゲームに手を出していた。


 当然、創作物の主人公のように絶対的な力で敵を倒したり、とあるアクションゲームのように一人で千人の敵を倒すことなどは不可能だ。しかし、当てはまる状況も多々あった。実際に、その経験を活かして生き延びているのだから、何が役立つかわからない。


 今回の事態を当て嵌めるなら、中国や日本の戦国時代を題材にした天下統一を目指すシミュレーションゲームだ。この種のゲームは、難易度が跳ね上がる転機が幾つか存在する。その内の1つが、序盤の支配地(城)が増加したタイミングだ。


 支配地が増える事による恩恵は国力の増加だ。今の俺の現状で当て嵌めるなら、DPの増加だろうか。《降伏》によって支配領域を拡大したことによってDPの最大値が50増えた。更に休憩所なども設置可能となるので、DPの最大値は更に増加する。


 出来れば、DP以外にCPの最大値も増やして欲しいと……切実に願う。


 っと、話が逸れたな。対して、デメリットは戦力の分散化。更には、俺が直面しているのはゲームではなく、現実だ。思考中に敵が待ってくれるでもなく、俯瞰的に全てを見渡すのにも限界があるので、意識も分散化されてしまう。


 入り口を2つ並べて設置すれば……と、思い付いたときには、俺って天才? と思わず自画自賛したが、入り口はある程度の距離を離さないと設置出来なかった。


 12k㎡*3階層のダンジョンクエリエイトって面倒過ぎるぞ……。魔王中級者パックみたいなのは無いのか?


「カノンの支配領域を俺が支配したって、人類にバレてるかな?」


「うーん、バレてるんじゃないですか? ネットでもその話題で持ちきりですよ」


「だよな……」


 カノンの支配領域は、魔王初心者パック(ハイブリッドタイプ)だったらしい。広大な森と廃墟を組み合わせた支配領域だ。対して、俺の支配領域はダンジョンタイプだ。関係のない話だが、ハイブリッドタイプは拡張すると、設置出来る建物の内部構造が拡張されるらしい。


 カノンの《降伏》を受け入れた結果、カノンの支配領域はそのままの形で残らず、合併と言うか、吸収したと言うか……全ての設備が消え去り、ダンジョンタイプへと形を変え、俺の支配領域と結合した。


ダンジョンタイプの支配領域は外から見れば、大きな一枚岩だ。イメージとしては、エアーズロックが近い。


 つまり、今回の騒動を端から見れば……カノンの支配領域を形成していた森が消え去り、地鳴りと共に地面から生えてきた巨大な岩が、俺の支配領域の外観を形成している巨大な岩と融合した。と言うことになる。


「せめて、シオンさんのレベルが5以上、或いは直接【真核】を奪いに来て頂ければ、私の支配領域は形を変えることは無かったのですが……」


 え? 何それ? 俺が悪いの?


「あ!? いえ、シオンさんが悪いとかじゃなくて……えっと、その、つまり……悪いのは私です!」


 カノンを非難する気持ちが顔に出てしまったのか、カノンが慌てて釈明する。


 カノンって時々、空気読めないよな。適性は俺と同じ【カオス】だし、俺と同じ属性:孤高ぼっち=コミュ障なのかも知れない。


「まぁ、いい。ちなみに、レベル5以上だったら、どうなってた?」


「レベル5以上でしたら《分割》出来たので、その場で仮の支配領域の主を選別すれば、そのままの状態で支配出来たみたいです」


「複雑でややこしい仕様が多いな……」


「すいません……」


 カノンが決めた仕様では無いのだが、なぜかカノンは謝罪するのであった。


「待てよ……。【真核】を移動する事は出来たよな?」


 支配領域が拡大した俺は、2つの【真核】を保有していた。守るべきモノが2つもあるから、面倒なのだ。一カ所に纏めればいい。


「それは可能ですが……」


「支配領域の外に出さなかったら、創造とか錬成は出来るんだろ?」


「いえ、正確にはテリトリーです」


 カノンは申し訳なそうに小声で返事をする。


「テリトリー?」


「はい。シオンさんの【真核】のテリトリーは、この部屋です」


 言われてみれば【真核】をこの部屋から、正確には冷凍庫から出したことがない。


「テリトリーから出すと、創造も錬成も出来ないと?」


「いえ、シオンさんは【真核】を2つ保有しているので、一方の【真核】をテリトリーの外に移動させても、創造も錬成も可能です。但し……」


「但し?」


「その場合はシオンさんのCPの最大値は半減します」


「え? ひょっとして、保有する【真核】が増えたらCPが増えるのか?」


「はい。言ってませんでした?」


「言ってない」


 考えることが多すぎて、ステータス(CP)を確認していなかった。ミスリルの槍を錬成したので、CPが最大まで回復するのに10時間あると、油断していた。


 って言うか、10時間過ぎてるよな?


 あぁぁぁあああ! もう! やること多すぎ!


 俺はストレスから頭を掻き毟るのであった。

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