ご利用は計画的に
運命の日から1週間が経過した。
リア充のSNS投稿以来、俺の支配領域は満員御礼状態が続いていた。
最近では、余りの侵入者の多さに戦力とCPがじり貧となり、適度なバランス調整と情報操作に追われていた。
まずは、情報操作。
32 名無しの冒険者 ID:hgytaye
最近、例の金沢のダンジョン低ランクのモンスター減少してないか?
35 名無しの冒険者 ID:skedufh
俺も聞いたことがある。入口にいきなりゴブリンが出たらしいな
41 名無しの冒険者 ID:lesdcrf
>35
mjk。噂を聞いて、明日挑む予定だったのに、やめるべき?
42 名無しの冒険者 ID:skedufh
>41
レベルは?
43 名無しの冒険者 ID:lesdcrf
>42
1に決まってるだろ
44 名無しの冒険者 ID:skedufh
なら、やめとけ。自殺志願者じゃないのならな。
52 名無しの冒険者 ID:qwfthbc
>35
ウソ乙。昨日挑んだが、入口にはスライムとウルフしかいなかったぞ
72 名無しの冒険者 ID:sdfghjk
俺、魔王www お前達の謎を解明してやろうか?w
74 名無しの冒険者 ID:ejdurhs
魔王降臨www ってか、本当に魔王なら解明よろwww
75 名無しの冒険者 ID:sdfghjk
モンスターのリポップには6時間が必要
以上、解明終了www
俺は、スマートフォンを駆使して情報操作に励んでいた。
ちなみに、匿名掲示板のレス番号32、35、41、43、44、52、72、75は俺の書き込みだ。IDはアプリを使って変更してある。
更に、支配領域の入口に配置する配下は定期的にスライムからゴブリンに入れ替えているので、真実性も十分だ。
俺の投下した書き込みは、議論を巻き起こし、匿名掲示板の書き込み速度は加速。まとめサイトにも取り上げられた。
モンスターのリポップ6時間説は、捏造である派と真実である派が激しいレスバトルを繰り返す。
真実であるなら人類に取って、重要な情報となる。
最終的にはとある大学の教授が乗り出し、実験を行うことになった。
実験の内容は、レベル3以上の人類12人が噂となっている金沢のダンジョン――つまりは、俺の支配領域へ侵攻。入口付近で、ひたすらスライムとラットを討伐。
全てのスライムとラットを駆逐した後に、撤退。そして1時間後と3時間後、そして6時間後に再び侵攻を開始するという内容であった。
上記の実験を成功させるために、他の人間がダンジョンに挑まないように周知徹底する必要がある。多くの人々に知らせる手段として、ネットでも呼び掛けも行われていた。
実験の模様はテレビやネット配信を通じて、リアルタイムで放映された。
◆
実験は開始された。
俺は支配領域の入口付近に、スライムとラットを計50体配置。一斉に襲撃はさせず、少数を複数回に分けて、入口で暴れる人類を襲うように指示を出した。
2時間後。全てのスライムとラットが殲滅。
周囲に、モンスターがいないことを確認した侵入者達は撤退した。
1時間後。侵入者達は再び俺の支配領域へと侵入。
俺は、全ての配下に入口付近へ近付かないことを厳命。
入口付近を1時間散策した侵入者達は撤退した。
2時間後。侵入者達は再び俺の支配領域へと侵入。
俺は、入口付近に弓矢を装備したゴブリンを10匹配置。侵入者達に弓矢の雨をプレゼントした。
「ご、ゴブリンの大群だ!? 撤退だ! 撤退しろー!」
侵入者達は慌てて、俺の支配領域から撤退した。
3時間後。侵入者達は再び俺の支配領域へと侵入。
俺は、入口付近にスライムとラットを配置。配置されたスライムとラットは程なくして全滅させられた。
これによって――モンスターのリポップ6時間説は実証されたのであった。
捏造だけどな。
◆
実証されたモンスターのリポップ6時間説は、様々な議論を巻き起こした。
中には、恐らく本物の魔王と思われる者の『ウソ乙www』と言う、俺の捏造を見破る書き込みも多々あったが、議論はネットだけではなく、討論番組、或いは各種機関の机上でも交わされた為、大事には至らなかった。
今回の検証を経て一番多く導き出された結論は――速戦即決。
主力部隊を短時間で波状的にダンジョンへ投入し、時間を置かずにダンジョンを攻略。つまりは、魔王を討伐して不可侵領域を解放するといった意見であった。
実際に、魔王が配下を創造する代償――CPは時間と共に回復する。
魔王っぽく言い回しをするならば、配下は消耗品。長期化してもCPがあれば消耗した配下は補充可能だ。対して【ロウ】――人類は、死んだら終了。数こそ圧倒的に多いが、失われた命は帰ってこない。
速戦即決は魔王を討ち倒すのに、理に叶った作戦と言えるだろう。
頑張れ人類! 生き延びるために、魔王の討伐を頑張ってくれ!
――但し、討伐をするのは俺以外の魔王だ。
俺は、第二の情報操作に乗り出す。
巧みにIDを使い分け、匿名掲示板だけではなく、影響力のあるブログのコメントに次々と書き込みを始める。
書き込んだ内容は――。
『稼ぎ場のダンジョンって解放したらどうなるの?』
『俺レベル1なんだけど、スライムがいるダンジョンが無くなったら人生詰む』
『今は俺達が一方的に攻めてるけど、魔王から攻めてきたらヤバくね?』
『稼ぎ場のダンジョン、例えば金沢の例のダンジョンは残して育成の場にした方がよくないか?』
『あそこは良質のアイテムも拾えるから、無くなると困るな』
俺は、人類が俗に言う『稼ぎ場』――低ランクの魔物が出現するダンジョン、もしくは良質なアイテムの目撃情報があるダンジョン――の保護を求める書き込みを続けた。
今、世界は混沌としていた。法と秩序は形骸化し、レベルの高さが己の地位を高める世界へと変貌していた。
しかし、いきなりダンジョンへ挑むのは、誰もが怖い。
結果として、大多数の人類はレベル1を余儀なくされていた。
その多数派であるレベル1の人類の不安な心理を煽るのが今回の目的だ。
俺の地道な情報活動は実を結び、世論は『稼ぎ場』の保護を提唱した。
こうして俺の支配領域は、低レベルの人類を誘い、且つCPが枯渇しないように適度なブレークタイムを得るに至ったのであった。
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