第19話 からかいギャル、一世一代の告白

 放課後、俺は真っ直ぐ帰宅し、自室で小説の続きを書いていた。


 人気作には程遠いが、待ってくれている読者がいる。しかも、心のこもった感想までくれるのだ。それだけで執筆する原動力になる。


 ……そのはずなのだが、イマイチ筆が乗らない。


 原因はわかっている。俺の作品の読者がクラスメイトの姫野だったからだ。


 感想を貰えるのは嬉しい。だが、リアルの知り合いに読まれていると思うと、なんだか気恥ずかしいのだ。


 救いなのは、俺が『転生したら図書館だった件』の作者だと姫野にバレていないことだろう。


「そうさ。姫野には気づかれていないんだ。バレなきゃいいんだよ、バレなきゃ」

「……おにい。なんかひとり言ヤバいけど大丈夫?」


 声がして振り返る。

 妹の未美が怪訝な表情をして立っていた。


「なんだ、未美。いたのか」

「いたのか、じゃないよ。おにい、何考えてるの? 今、バレなきゃいいとか言ってたでしょ。何企んでるの? また犯罪?」

「誤解だよ!?」


 あと『また』って言うな。人生で一度も法を犯してないっての。


「俺、小説書いてるでしょ?」

「うん。知ってる。人間が巨大な無機物になる話でしょ?」

「間違ってはないけど……まぁいいか。で、その小説に感想をくれる熱心な読者がいるんだけど、その人がクラスメイトだってわかったんだよね」

「うわぁ。それはちょっと気まずいね……本人にそのことは伝えたの?」

「いや。さすがに無理」

「そっちのほうがいいよ、おにい。その人の夢を壊しかねないもん」

「どういう意味だ」

「想像してみて。もしも大好きな作品の作者が陰キャのシスコンぼっちだったら……ね? 地獄でしょ?」

「地獄って言うなよ」


 未美はもう少しお兄ちゃんを敬ってもいいと思う。

 妹に説教してやろうかと思っていると、スマホが鳴った。


「新着メッセージ……?」


 タップしてメッセージアプリを開く。

 送り主は英梨だった。


『やっほ。明日、放課後空いてる?』


 これは……まさか遊びのお誘いか?

 ドキドキしつつ、俺は「空いてるよ」と返信した。

 すると、すぐにスマホが鳴る。


『じゃあさ。放課後、校舎裏に来てくんない? 話があるから。絶対に一人で来てね?』


 メッセージにはそう書いてあった。

 話ってなんだろう。どうやら遊びの誘いじゃないみたいだけど……。


 考えていると、未美が横からぬっと顔を出してスマホを覗き見た。


「お、おにい……何この女子からのメッセージ!」

「俺もわからない。いったい何の話なんだろう……」

「え、わからないの? ダメなおにい……」

「未美にはわかるのか?」

「逆にどうして駄にいはわからないの……」


 おい。ダメなおにいを略して駄にいって言うのやめろ。傷つくだろ。


 未美はため息をつき、俺を睨んだ。


「放課後、誰もいない場所に女の子が『話がある』って呼び出したんだよ? そんなの告白に決まってんじゃん」

「こっ、告白!?」


 いやいや。そんなのありえない。英梨が俺のことを好きだなんて。


 でも……もしも告白だったら?

 考えたら、一気に顔が熱くなる。


 どうしよう。最近友達になったばかりなのに、いきなりそんな話をされても困る。


「おにい……未美がアドバイスしてあげる」


 未美は俺の肩にぽんと手を置いた。


「振っちゃおう、その女」

「……一応聞こうか。どうして振ったほうがいいと思うの?」

「だってぇ! おにいの恋人ができたら、いったい誰が未美を養うの!?」


 未美は泣きそうな顔で抱きついてきた。悲報。うちの妹が立派なニートになりました。

 未美はこんな調子だし、他に相談できる人もいない。

 どうしていいかわからず、俺はパニックになるのだった。



 ◆



 結局、自分の気持ちを整理できないまま、翌日の放課後を迎えてしまった。


 俺は指定された校舎裏に来ている。もちろん一人でだ。

 周囲を見回す。まだ英梨は来ていないようだ。


 いかん。緊張してきた。

 俺は英梨と仲良くなりたいとは思っている。だが、好きかと言われると途端にわからなくなる。


 嫌ではないけど……俺は英梨と恋人関係になりたいのか?


 思考がぐるぐる回る。

 何もわからなくなり、俺は思考を放棄した。


 相手は英梨だ。からかうために俺を呼び出したに決まっている。きっとそうだ。


「俺は絶対にからかわれないぞ!」

「何? 急にどしたん?」

「うわぁ!」


 背後から声がして慌てて振り返る。

 そこには楽しそうに笑う英梨の姿があった。


「あははっ! 驚きすぎだしー!」

「い、いるなら言えよ!」

「今来たんだもーん」


 英梨はべっーっと舌を出した。

 その可愛らしい仕草にドキッとする。


「英梨。あの……は、話って何?」

「あ、うん。大事な話があるんだ」


 英梨は急にもじもじし始めた。スカートの裾をきゅっと引っ張り、チラチラとこちらを見ている。


 このリアクション……おい。まさか本当に告白なのか?


「だっ、大事な話?」

「そう。勇太にしかできない話。誰にも言わないでね?」

「わ、わかった。約束する」


 ごくりと生唾を飲み込み、英梨の言葉を待った。

 英梨の唇が、か弱く震える。


「あ、あたしに小説の書き方を教えてほしいんだ!」


 ……はい?

 俺が英梨に小説の書き方を……はい?


 予想外の告白に、俺はぽかーんと口を開けるしかなかった。

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幼なじみのからかいギャル、甘い本音で反撃されてたじたじ可愛い 上村夏樹 @montgomery

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