第9話 からかい対決! 英梨VS愛花!

 放課後を知らせるチャイムが校舎に鳴り響く。


 あのあと、英梨は機嫌が直ったらしく、いつものように俺をからかってきた。どうして怒っていたかはわからないままである。

 英梨に怒った理由を聞いて、再びご機嫌ナナメになられても困る。俺は深く詮索しないことにした。


 今日の放課後は特に予定はない。家に帰って小説の続きでも書こうと思う。


「勇太くん」


 帰りの支度をしていると、姫野が話しかけてきた。


「ねね、今日ヒマかな? もしよかったら、好きなラノベの話、聞かせてくれない?」

「えっ? あ、いや今日は……」

「そうだ。オススメのラノベ、教え合いっこしようよ。どうせなら本屋さんに行かない? 本棚見ながらオススメし合えば、その場で買えるし」

「待て。俺は書店に行くとは一言も……」

「あ、もしかして、ネット小説派だった? 私、そっちも詳しいよ。勇太くんはネット小説よく読む?」


 姫野は勝手に話を進めていく。共通の趣味を持つクラスメイトが見つかって、よほど嬉しいらしい。でも、俺は今日、小説を書きたい気分なんだよなぁ……。


 困惑していると、隣の席の英梨が俺と姫野の間に入ってきた。


「やめなよ、愛花。グイグイいきすぎ。勇太が困ってんじゃん」

「えー、そんなことないよ。私と勇太くんはラノベ友達。仲良しだもん。ね、勇太くん?」


 いや俺に振るなよ。返答に困るだろ。

 姫野は俺の左腕に抱きついてきた。


「ねぇ、勇太くん。英梨ちゃんのことは放っておいて本屋さん行こ?」


 右腕から姫野の体温が伝わってくる。お、女の子って柔らかい……しかもなんかいい匂いがするんですけど……!


 ドキドキしていると、おもむろに英梨が立ち上がった。


「……あたしも勇太の友達だし」


 むぎゅっ。


 何故か英梨は俺の右腕に抱きついてきた。胸の感触がダイレクトに伝わり、俺の心臓がどくんと跳ねる。


 やめてくれ。女の子二人に抱きつかれたら、本音無双が発動してしまう……!


「ちょっと。離れてよ、英梨ちゃん。勇太くんは私の友達なんだからね」

「離れるのはそっち。勇太はあたしの友達だっての」

「私の友達!」

「あたしの友達!」


 二人は俺から離れて睨み合った。


 あぶねぇ。抱きつかれたままだったら、二人まとめて本音無双しちゃうところだったぞ。


 最悪の事態は免れたが、それでも修羅場に違いない。二人の間には険悪なムードが漂っている。


「私は勇太くんと運命的な出会いをしたの。本屋さんで同じ本を取ろうとして、手が触れ合ったんだから」


 姫野はドヤ顔でそう言った。いやそれ友達関係ないだろ。ただの偶然だし。そもそも俺は友達だと認めてないからな?


「なっ……だ、だから何? あたしのほうが勇太と付き合い長いんですけど? 昔から知ってるし」


 英梨は負けじと対抗した。まだ例の『幼なじみ』のことを言ってるのか、この子は。


「それにね、あたしは勇太と休日に二人っきりで遊びに行く仲だから」

「えっ……ま、まさか二人は付き合ってるの!?」

「それはない」


 俺が即座にツッコむと、英梨はむすっとした顔で睨んできた。


 な、なんで怒るの?

 誤解されたら迷惑だと思ったから否定したのに……女の子の気持ちはわからん。


「英梨ちゃん、付き合ってないんだ。なら安心。私、彼と仲良くなっちゃおっと」

「は、はぁ? 勇太のこと何も知らないくせに」

「じゃあ聞くけど、英梨ちゃんは勇太くんの何を知ってるの?」

「勇太はね、あたしにからかわれるのが好きなの。こう見えてドMなんだぞ。ね、勇太?」

「ちげぇよ!?」


 おい。勝手に俺の性癖を決めつけるのやめろ。


「そっか……英梨ちゃん。私と勝負しよう」


 姫野は何かを企んでいるような怪しい笑みを浮かべた。正直、嫌な予感しかしない。


「まず前提として勇太くんはドM。これは間違いないよね?」

「大間違いだよ!」

「ちょっと。勇太は黙ってろし」


 抗議したが、英梨に睨まれたので口を閉じた。理不尽すぎる。


 姫野は英梨に説明を続けた。


「本当に勇太くんと仲良しなら、彼の好みを把握できているはず……つまり、喜ばせることができるでしょ?」

「そーだね。それで?」

「ドMの勇太くんをからかって、より喜ばせたほうが勝ちっていうのはどうかな?」


 どうかな、じゃねぇよ。

 そもそも俺はドMじゃないっての。


「なるほどね。勇太の好みを知っているほうが、より親密な仲だってことを証明できるわけだ。その勝負、のった!」


 英梨は姫野の提案を意気揚々と受け入れた。


「ふふっ。私、英梨ちゃんよりも勇太くんをドキドキさせてみせるから」

「それはこっちのセリフなんですけど。あたしは勇太をからかうプロだかんね」

「ふふっ、楽しみ。今日は学校終わっちゃったし、明日勝負ね」

「おっけー。後で泣いても知らないから」


 二人とも何故か燃えている。


 ……マズいことになったぞ。


 ただのからかいじゃない。これは勝負事だ。二人とも本気を出してくるに違いない。必然的に俺もドキドキしてしまうだろう。


 つまり、本音無双が発動する可能性が高い。


 せっかく少しは話せるようになってきたのに、本音で傷つけたりしたら嫌だなぁ……。


「どうしてこうなった……」


 明日のことを考えると、憂鬱でしかない。

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