第2章 俺とギャルは幼なじみですか?

第8話 姫野愛花はからかい女子?

 英梨と遊んだ日の翌朝、登校した俺はスマホを取り出した。小説投稿サイト『キミも小説家になろうぜ』を開き、マイページにログインする。


 目に飛び込んできたのは「新着の感想があります」の赤文字。俺はその赤文字をタップした。


 感想ページに飛ぶと、ペンネーム『あいあい』さんからの感想だった。


 あいあいさんは、俺の投稿作品『転生したら図書館だった件』の読者だ。まったく人気のない作品なのだが、あいあいさんは更新するたびに感想をくれる。最近では、あいあいさんの感想が楽しみで小説を書いているくらいだ。


 感想はこう書かれていた。



『転生したら図書館だった件、最新話もすごく面白かったです! ヒロインがすごく可愛いくて、それがこの作品の魅力だなぁって思います。きっと作者様も魅力のある素敵な王子様みたいな方なんだろうなぁ。一度お会いしてみたいです(冗談です笑)』



 俺は感想を読んでズッコケそうになった。

 作品の感想はすごく嬉しいが、作者を妄想しないでくれ。俺は王子様どころか、クラスの陰キャぼっちだぞ。


「あいあいさん、どんだけハードル上げるんだよ……」

「おはよう、勇太くん。朝からひとり言?」


 声をかけられたほうに視線を向ける。

 そこにはクラスの女子が立っていた。


「うわっ、姫野愛花……」

「何そのリアクション。嫌そうな顔しないでよぅ」


 姫野は腕を組み、ぷくっと頬をふくらませて俺を睨んだ。


 昨日、俺は姫野に本音無双で変なことを口走った。しかも、そのせいでプレイボーイ認定されてしまったんだ。そりゃ会いたくはないだろう。


「わ、悪い。ほら。昨日、姫野と気まずい別れ方したからさ……」

「あっ、あれは忘れて! 私、別にドキドキなんてしなかったんだからね!」


 姫野は顔を赤くしてそう言った。

 その必死な表情が可笑しくて、つい口元が緩んでしまう。


「ちょっと勇太くん! 何笑ってるのよ!」

「ご、ごめん。で、俺に何か用?」


 尋ねると、姫野は急に笑顔を取り戻した。


「決まっているじゃない。私とラノベ友達になりましょう?」

「またそれか……」


 丁重にお断りしたはずなのに、めげずに同じお願いをしてきたか。メンタル強いな、この子。


 あのときは、友達を作るのが怖くて却下した。


 でも、帰り道に英梨と話して思ったんだ……友達と過ごす時間も悪くないのかなって。


 俺には『本音無双』という悪癖がある。もしかしたら、本音で友達を傷つけてしまうことがあるかもしれない。


 だけど……ほんの少しだけ、勇気を出してみようかな。


「……いいよ。俺とラノベの話、しよう」


 こういうとき、どういう顔をしていいかわからない。気恥ずかしくて、俺は姫野から視線を外して言った。


「えっ……いいの? 私とラノベ語ってくれる?」

「ああ。俺も、その……姫野とラノベの話したいし……と、友達じゃないぞ? あくまで『ラノベを話すクラスメイトになろう』って意味だ。俺は友達を作らない主義だからな」

「勇太くん……ありがとぉー!」


 姫野は人目も気にせず、ぎゅーっと抱きついてきた。


「うわっ! ちょ、離れろって!」


 よせ! 陰キャに陽キャのスキンシップはよく効く!


 しかも、何気に姫野のおっぱいが当たっている。や、やわらけぇ……こんなの秒で本音無双が発動しちゃう……本音が、いっぱいでちゃう……っ!


「あっ、ごめんね。興奮して、つい」


 姫野は俺から離れて、恥ずかしそうに頭をかいた。

 危なかった。もう少し遅れていたら、朝の教室で「おっぱい! おっぱい!」と本音で叫ぶところだったわ。


「くすっ。勇太くんを照れさせると危険だもんね」

「えっ? あ、昨日のこと?」

「うん。昨日みたいにグイグイ来られたら……私、大変なことになっちゃう」


 姫野は胸の辺りに手を添えてはにかんだ。


 大変なことってなんだろう……嫌な気分になるってことだろうか。やはり本音無双には気をつけないといけないな。


「勇太くん。連絡先、交換しよ?」


 姫野は制服のポケットからスマホを取り出した。

 俺もスマホを取り出して、メッセージアプリを起動させる。


「あれ? 勇太くん、昨日ぼっちって言ってたのに、メッセージアプリ入れてるんだ?」

「まぁ……これくらい普通だろ」


 ついイキってしまったが、これは英梨が入れてくれたアプリだ。しかも、アプリの友達帳には英梨の名前しかない。悲しすぎる。


「なんだぁ。友達いるんじゃん。最近できたの? クラスの子?」

「えっ? あぁ、うん……」


 視線を感じて、隣の席を見る。

 英梨は仏頂面でこちらを見ていた。どうしてかな。明らかに怒っていらっしゃるんですけど……。


 姫野は俺の視線の先にいる英梨を見つけて、「ああ、そういうこと」と一人納得した。


「そっか。『私も』友達だからね、勇太くん」


 姫野は英梨を見ながらそう言った。

 友達ではないぞと訂正する暇もない。英梨は姫野を睨み返す。


「……愛花。あたしに何か用?」

「ううん、別に。用があるのは勇太くん」


 二人の視線がぶつかり合い、青白い火花が散った。


 な、なんだ?

 急にケンカし始めたぞ?


 戸惑っていると、スマホが振動した。

 確認すると、友達帳に『姫野愛花』が追加されている。


「これからも、いっぱい仲良くしてね……勇太くん」


 姫野はそれだけ言い残して自分の席に戻った。たたたっと走る姫野の後ろ姿は、なんだかラノベに登場する奥手なヒロインみたいで可愛かった。


 うん……英梨からめっちゃ視線を感じるんだが。


「ふーん。よかったね、勇太。新しい友達ができて」

「だから俺に友達はいないんだって……というか、なんか言い方に棘がないか?」

「べっつにー?」


 英梨はむすっとし顔でラノベを読み始めた。


「あっ、それ昨日買ったラノベだろ? 何読んでるの?」

「教えなーい」


 英梨は本を隠すように、俺に背を向けて読書を始めた。

 どうして英梨は怒っているのだろう。全然わからないんだが。


 困っていると、スマホが振動した。

 早速、姫野からメッセージが一件きている。教室にいるんだから、直接言えばいいのに。


 俺はメッセージを開いた。



『昨日ね、勇太くんと手が触れ合ったとき、ドキドキしちゃった……私たちの出会いは運命かもって。えへへ……ちょっぴり期待してもいい?』



 なっ……なななな何言ってんの!?


 顔を上げると、席に座っている姫野と目が合う。あいつ、顔真っ赤じゃないか……!


 危うく本音無双が出そうだったが、ギリギリのところで踏みとどまった。


 まさかとは思うけど……姫野は俺のことが好きなのか?


 いや。そんなわけない。何度も言うが、俺はぼっちの陰キャ。あんなに可愛い女の子に惚れられるわけがない。


 だとすれば、彼女も英梨と同じだ。俺をからかって遊んでいるに違いない。胸を当ててきたり、こんなにときめくメッセージを送ってきたのも彼女の作戦だろう。


 英梨だけでもドキドキなのに、またからかい女子が増えてしまった……俺の学園生活、いったいどうなっちゃうの?


 俺は心の中で誓った。

 二人に言い寄られても、絶対に絆されないと。

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