最終話 理不尽を力に変えて
「龍馬ー!早く起きなさい!今日修了式でしょう!?2年生最後なのよ?しっかりしなさい!!」
母さんの大きな声で目を覚ます。
「ふあぁあああ・・・そっか・・・まだ慣れないな・・・」
帰って来てから1ヶ月位たったけど、まだ、毎日学校がある状況に慣れない。
ブランク一年はきついなぁ・・・
勉強は・・・最初かなりやばかったけど、桜花と一緒に教科書を読み直して、なんとか思い出したんだ。
異世界補正なのか、認識力や知覚、記憶力がかなり増加しているからか、すんなりと元に・・・いや、元以上に戻ったと思う。
期末考査で凄く成績良くなったからね。
順位が一桁代だった時にはびっくりしちゃった。
元々優等生だった桜花なんか一番になってたからね。
「龍馬!まだなの!?」
「はーい。今行くよ!」
僕は、自室がある2階から下に降りて、テーブルに着く。
「おはよう。」
「はい、おはよう。さっさとご飯食べなさい。桜花ちゃんを待たせちゃ駄目よ。」
「わかってるよ。父さんはもう仕事?」
「そうよ。遅れを取り戻さないとって、少し早めに出勤してるのよ。帰宅はなるべく遅らせたくないからってね。」
「・・・僕のせいだよね?」
「そんなこと気にしないの!さぁ、早く食べなさい。」
僕は朝食に目を向ける。
朝ごはんは、一般的なご飯と味噌汁と漬物、後、おかずにししゃもだ。
父さんが和食が好きで、朝ごはんはいつもこんな感じなんだ。
・・・でも、母さんの声で目が覚めて、手料理の朝ごはんを食べる・・・なんだか、帰って来たんだなぁって実感するなぁ。
不覚にも、戻って来て最初の登校日の朝、食卓についた時、涙しちゃったんだよね。
母さんと父さんがそれを見てオロオロしていたけど・・・ううう、恥ずかしい。
「ほら、ぼーっとしてないで早く食べなさい。」
「うん、頂きます。」
美味しい!
勿論、ルーさんやアナのご飯も美味しいけれど、母さんのご飯が、一番『ご飯!』って感じがするな。
たまにみんなが遊びに来ると、母さんに料理を習ってるんだよね。
母さん、結構凝り性だし、料理好きだから、デザイナーになろうか、料理人になろうか悩んだらしいし。
「今日は修了式でしょ?早く帰って来るの?」
「まあね・・・あ、やっぱりわかんないや。もしかしたらどっか寄るかも。夕方から約束もあるし。」
「あ、そう。なら、ご飯作り置きしないから、どっかで食べてらっしゃい。お小遣いいる?」
「いいよ。僕も稼いでいるしさ。」
「ああ、アレ、ね。」
僕はこっちに帰って来てから、お金をどう稼ごうか悩んだんだ。
何せ、みんなと遊ぼうと思ったら、人数多いしね。
そこで考えたのは、一つは服のデザインを母さんの会社を通じて売ること。
臨時のアルバイトって事で、母さん経由で貰える。
母さんは、会社では結構上の立場らしいから、問題が無かったようだ。
異世界風味のデザインは、中々評判が良いらしい。
2つ目は、単純な土木作業。
父さんのツテで、建設現場で日雇いで働く事がある。
と、言っても、戻って2回くらいしかやってないけど。
基本的には、父さんがどうしても応援が欲しいって時に頼まれてやってるんだ。
現場での評判は上場。
なんでも、「あんな細いのに、すっげぇ力があって体力もある!即戦力だよ!良い子だし!建築家のおやっさんの息子なのに、すげぇ力持ちじゃねーか!うちに就職させねぇか?」って建設会社の社長に言われたらしい。
3つ目は、異世界チート達の御用達の錬金スキルを使用した、彫金だ。
ネットで販売してるんだけど、中々の稼ぎになっている。
素材は、異世界産の物がいっぱいあるしね。
昨日、売上金が手元に来て、驚いちゃった。
だから正直、最初の2つのアルバイトは、親孝行のつもりだ。
だいぶ心配させちゃったからね。
これくらいはしないとな。
「ごちそうさまでした。」
「はい、お粗末様でした。」
そんな事を考えながら食事を終え、身支度を済ませる。
「行ってきます。」
「いってらっしゃい。」
母さんが笑顔で送り出してくれた。
また、嬉しくてうるっと来そうになったけど、今から学校に行くので我慢だ。
通学路で桜花と待ち合わせている。
待ち合わせ場所の公園まで行くと、桜花が立っていた。
「おはよう!ごめん、待った?」
「おはよう龍馬。遅いわよ。寝坊でもしたの?」
桜花は少しムスッとしていた。
まぁ、しょうがないよね。
「あはは!ごめんごめん。どうも気が抜けちゃってね。」
「・・・まぁ、わからないでもないわね。私も似たようなものだし。」
一緒に歩き出した桜花は空を見上げる。
「・・・なんか、凄い不思議な感じ。向こうにいる時は、こうやって思い出す度に悲しくもなったけど、いざ、戻ってみると、違和感しかないもの。」
「まあね。それだけ鮮烈な体験をして来たって事でしょ。多分。」
「そうよね。でも、本当に龍馬には感謝しかないわ。」
「なんだよそれ。僕だって桜花には感謝してるさ。」
「わかってるわよ。それでもね、今こうして普通に学校に通えるのは龍馬のおかげだもの。ありがとう。」
「こっちこそ。桜花、ありがとう。君が居なかったら、僕は理不尽に押しつぶされてたよ。」
僕たちは手を握る。
そして笑顔を向けあった。
僕たちの日常はこれからも続く。
その中には、異世界のみんなとの未来も繋がっている。
この先に続くのは異世界での殺伐としたものでは無く、普通で、それでいて輝かしい日常だ。
「龍馬!ちょっと遅いから走っていくわよ!!」
「うん!わかった!」
僕たちは駆け出す。
愛すべき日常に。
こうして僕の理不尽な物語は終わりを迎え・・・られなかった。
この後も、僕の世界のドタバタや異世界のドタバタなんかは続いて行く。
戻って一年も過ごすと、まさか、こっちの世界でも、あんなにファンタジーに
思いもよらなかったよ。
でも、それは僕の物語じゃない。
だから、この世界を救うのはあの子に任せるよ。
僕はあくまでも少しだけ手助けするだけだ。
勿論、僕の親しい人達に手が伸びたなら、その限りじゃない。
敵には徹底的に、が僕の身上だからね。
もし、誰かが理不尽を強いようとしたなら、その時には、理不尽で潰してあげよう。
優しさには優しさで、誠実には誠実で、理不尽にはより大きな理不尽で。
とはいえ、これ以上大きくでしゃばる気もない。
僕の物語は、僕とみんなで手一杯だ。
どうだったかな?
僕に降り掛かった理不尽は。
これを見ている観測者の人達、あなた達にも理不尽はいっぱい降りかかると思う。
だから、自分に降りかかる理不尽に負けないように一緒に頑張ろうね。
理不尽を力に変えて、さ!
Fin
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