第332話 桜花との夜

「緊張するわね・・・」


 僕は今、桜花と二人で部屋にいます。

 二人で正座してベッドに座っている。

 格好はお互い寝間着代わりの浴衣ゆかただ。

 これは、僕がデザインをして、寝間着代わりにみんなも使っている。


 にしても・・・ううう・・・緊張する・・・

 お風呂上がりだからか、部屋の中に桜花のいい匂いが充満していて・・・クラクラもしてる。


「もう・・・龍馬、緊張し過ぎてガチガチになってるじゃない。」

「桜花の方が余裕あるね。面目ない。」

「うふふ。そうかもね。こういう時は、案外女の方が度胸があるのかもね。」

「はぁ・・・僕は自分が情けないよ。でも、いいの?本当に僕なんかで・・・」


 そう言った瞬間に、桜花に人差し指を唇に押し当てられ、発言を止められる。


「龍馬・・・駄目よそんな事を言っちゃ。私もみんなも龍馬が良いの。他の男じゃ嫌なのよ。だから、そんな卑下するような事を言っちゃ駄目。私達に男を見る目が無いって言ってるのと同じよ。」


 そっか・・・そうだよね。

 僕が僕を否定したら、そんな僕を慕ってくれてる、みんなの事まで否定することになっちゃう。

 

「ごめんね。その通りだよ。気をつける。」

「ふふふ、それで良いのよ。にしてもあれね。ちょっと話でもしましょうか。」

「そうしよう。そうだなぁ・・・しかしまさか、僕が桜花とこんな関係になるとは夢にも思わなかったよ。最初の頃は。」


 そんな事を言った僕に桜花は苦笑する。


「・・・そうね。最初は龍馬の事嫌いだったもの。でも、私は感謝しているわ。龍馬は、私の間違った考え方を、直してくれたんだもの。」

「そう言ってくれると嬉しいよ。」


 しかし、次の瞬間、桜花はムスッとした表情に変わった。


「でもなぁ・・・付き合ってくれるまで長かったのよね・・・もっと早く告白してくれても良かったじゃない!中2から高1の夏まで、2年近くも待ったのよ!」

「え〜!?だって・・・しょうがないじゃん!あの時、告白するのも凄く怖かったんだよ?なら、桜花がしてくれたらよかったじゃないか!」

「あのね・・・私はとっくに好きになってたのよ?私の方こそ、告白したくても、あなたが好きになってないのが分かってたんだから、出来るわけないじゃない。あなたが私を好きになったのって、高1になってからか、なる直前だったでしょう?」

「・・・そこまでバレてたの?」

「そうよ。あなたは分かり易いのよ・・・私にとってはね。

「そんなぁ。」

「うふふ。でも、いいわ。今は幸せだもの。再会して、いっぱい女の子をはべらしてた時にはどうなるかと思ったけど・・・みんなとても良い子だしさ。」

はべらしてた・・・つもりはないけど、そうなっちゃったよね・・・ごめん。」

「だからいいの!楽しいもの!!他所よそ他所よそ!私達は私達!それでいいじゃない!」

「桜花・・・ありがとう。」

「多分、この先、この関係のせいで、色んな所に問題が出てくると思うわ。でも、私達ならきっと乗り越えられると思う。いや、違うわね。乗り越えるわよ!」


 桜花はぐっと力を入れて、僕にガッツポーズをしてきた。

 僕は思わず笑ってしまう。


「・・・なによ。」

「いや、やっぱり桜花は勇者だね。僕よりもずっと勇気ある者、だよ。」

「何言ってるのよ。それを言ったら龍馬は魔王ね。可愛くて綺麗な女の子をとりこにする、悪い悪い魔王だわ。」

「あはは。なんだよそれ!」

「でも、いいわそれで。だって、私は龍馬だからこんなに好きになれたんだもの。あなたが居なかったら、多分私は、どっかで妥協しながら生きていたと思う。だから、ありがとう、一緒に居てくれて。出会ってくれて。愛してくれて。」


 桜花は抱きついてきた。

 僕も桜花を抱きしめる。


「それはこっちのセリフだよ。僕も桜花が恋人になってくれたから、ここまで頑張ってこれたんだ。多分、桜花と出会っていなかったら、次元穴に飲み込まれた後、ここまでたどり着けなかったと思う。桜花、好きだ。愛している。ずっと一緒に居て欲しい。僕には桜花がいないと駄目なんだ。」

「龍馬・・・龍馬ぁ!ずっとこうしたかった!あなたが突然目の前からいなくなって、悲しくて悲しくて、ずっと泣いていて、なんでもっと早くこうして抱きしめなかったんだって!抱き合わなかったのかってそう思ってた!あなたに抱かれたかった!一緒について行けばよかったって後悔してた!もうどこにもいかないで!絶対逃さないから!だから・・・だから愛して欲しい!私をきちんと龍馬のものにして!!」

「桜花・・・桜花!!」

「んっ…あんっ」


 僕は桜花に口づけをして押し倒す。

 

「龍馬・・・ぁ・・・」


 ベッドに寝そべり、涙目で浴衣ゆかたがはだけている桜花は、羞恥と期待と、溢れんばかりの愛情を持った表情で、まさに女神のようだった。


 もう、我慢できない。

 僕は桜花に覆いかぶさる。



 その夜僕たちは一つになった。

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