閑話 教皇

「それでは、それぞれセレス様を敬い、祈りを欠かさぬように致しましょう。皆まに祝福を」

「これにて、教皇様の説法を終わる。」


 教会の大聖堂で、教会の司祭相手への説法を終えたのは、この世界最大宗教であるセレス教会の教皇だ。

 見た目はまだまだ若い。


 年齢では30代始めくらい。

 身体は引き締まっている。

 身長は175センチ位

 顔立ちは笑顔で、人の良さそうな感じだ。


 普通であれば、とても教皇になれるとは思えない年齢だった。

 普通であれば。


 大司教の指示で、大聖堂から司教が出ていく。

 そして、最後に大司教が残った。


「教皇様。ご報告があります。」

「なんだ。」


 そこには、先程のようなニコニコとした人当たりのよさそうな顔は無い。

 どこまでも怜悧な、一般的には冷酷に見える顔だ。


「ペインが死にました。」

「なんだと?」

「間違いありません。」

「そうか。相手はわかるのか?」

「いえ、調査のため、帝国に影を放ちましたが、既に帝国そのものが解体されておりました。王城は崩れ落ち、見る影もありません。かの皇帝は既に処刑されておるようです。」

「調査を続けよ。」

「はっ!!」


 大司教は出ていく。

 そこに残るは教皇のみ。


「ヴァリス」

『なんだ?』


 大聖堂の中に声が響く。

 その声は男のようで女のようで。

 若い感じで年老いた感じにも聞こえる。


「ペインが死んだ。」

『ほう。』

「殺されたようだ。帝国も潰された。」

『どこの国だ?』

「調査中だ。お前の方で何かわからないか?」

『ふむ。・・・ペインの身体は完全に消滅しているようだ。断片的な記憶では、若い黒ずくめの男に殺されている。』

「そうか。勇者か?・・・いや、勇者はあの馬鹿女の筈だ。誰だ?」

『わからん。が、この世界の外の者かもしれん。』

「何?そうすると、何かチートを持っている可能性が高いな。チッ!」

『お前と同じだな。』

「一緒にすんじゃねぇ。俺がここに来てもう15年が立った。ポッと出の勇者に負けるかよ。」

『懐かしい?というのだろう?我にはあっと言う間だったがな。』

「ああ、この世界に来ててめぇに勧誘されたんだったな。あの時はあの世界で嫌な事があって思わず了承しちまったが・・・」

『くくく・・・同輩にボコボコにされて、狙っていた女を取られたのだったな。そして、そのまま卒業して、何もせずブラブラとしていた所だったかな。』

「うるせぇ!チッてめえが顕現したらぶん殴ってやってたんだがな。」

『ふっ出来もしないことを言うものだな。それでも、今は権力を持ち、好き放題やっているではないか。』

「まあな。しかし、てめぇが完全に顕現できるまで待ってたが、長すぎだろうが!まぁ、おかげで準備には余裕があったがな。」

『しかし、邪魔している勢力がある。現に、魔神の結晶がこちらには2つしか無い。』

「別にどうでも良いだろう?てめぇが顕現してから奪うか・・・これを奪いに来た時に、俺が殺して奪えばいいだけだ。向こうの目的なんざどうでもいい。」

『まぁ、そうだな。あと、2ヶ月の辛抱だ。我にはそれこそ、瞬きするようなものだ。』

「結晶があれば、俺はもっと強くなれるんだろうな?」

『勿論だ。』

「くくく・・・約束忘れんなよ?お前が顕現したら、俺を一度元の世界に戻すって事をな。」

『そういう契約だからな。』

「ああ・・・楽しみだ。あいつはあの世界では強えぇかもしれねぇが、チートを持った俺ならアリを潰すようなもんだ。痛めつけて痛めつけて、殺してくれって言わせてからあいつを攫ってこっちに戻り、召喚されたあいつの女を、あいつの眼前でグサグサに犯してから、真神教徒の肉便器にする所を見せつけて、その後で、あの女の前でむごたらしく殺してやる!」

『相変わらず屑だな。とても信者に見せている姿と同一人物だとは思えん。』

「うるせぇ!」

『いや、だかららこそ我に見いだされたのだ。誇れ。強い自己顕示欲、冷酷さ、欲望の深さ、お前が一番最適だったのだ。』

「けっ!自分がクズな事くれぇ分かってんだよ!」

『好きにしたらいい。但し、我にこの世界を献上するのは忘れるなよ。』

「ふん!嫌がってもてめぇには勝てないだろうからな。てめぇが約束守るならこっちも守ってやるさ。駒でいてやるよ。」

『それこそ、だ』


 人ならぬ者の気配は薄れる。

 もうすぐだ・・・もうすぐ俺の望みは叶う。


 待っていやがれ三上。

 てめぇには絶望を与えてから殺してやっからよ。

 15年を越える恨みをぶつけてやるぜ。


 そっちの世界で待ってろよ!

 てめぇの女はもうこっちに攫ってんだからな。

 逃げられると思うなよ。

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