閑話 その頃の桜花(15)
「ここは・・・?僕、寝てたと思ってたんだけど…」
目の前に何かを呟いている龍馬がいる。
龍馬、龍馬だ!!
「龍馬!」
「えっ!?桜花!?」
私は龍馬に飛びつく。
龍馬!龍馬!龍馬!龍馬!
私は龍馬の胸でわんわん泣いた。
「どうしたの?何かあったの?大丈夫?」
ああ、龍馬だ。
この、心配そうにこちらを見る顔は、龍馬に間違いない!
「・・・あのね、辛いの。でもね、私が逃げたら友達が殺されちゃう・・・どうしたらいいのかわからないの!どうしよう。私どうしたらいいの?」
龍馬は、私の頭を撫でながら、しっかりと聞いてくれた。
そして、撫でるのをやめ、私の顔を見ながら言う。
「僕には、今、桜花に何が起きているかわからない。でも、大変な状況なのはわかった。できればすぐにでも、助けに行きたいんだけど、事情があってそれはできない。でもね、」
龍馬はそこで言葉を切って、私に微笑みかける。
「桜花、君は辛いからと言って、逃げる人間じゃない。逃げても辛いし、どうしようもないことを、身を持って知っているからね。でも、僕の時も、しっかりと立ち直ったでしょ?大丈夫。君が強い事を僕は知っている。だから、出来る事を、一つ一つ確実にするんだ。」
「出来ること?」
「そう。たとえば、怪我や病気をしているなら、身体を治すこと。勉強が出来ないなら勉強を。何か剣術で、出来ないことがあるのなら、技を磨くこと。なんでもいいんだ。その友達を助けるために、出来ることを一つ一つやる。でもね、大事なこともある。」
「それは何?」
龍馬は真剣な顔になった。
「例えば、人の道に外れることなんかそうだね。よくわからないけど、今、脅されているんだろう?なら、脅されて犯罪を犯しては駄目だ。例えば、誰かを傷つけろ、とか何かを盗め、とかね。」
「でも、相手は私よりも強いんだよ?」
「桜花よりも?それは強いね。でも、桜花だけなら、多分、殺されても言うことは聞かないし、聞く気もないでしょ?」
「うん。」
私の即答に、龍馬は苦笑しながら続ける。
「僕としては、できれば傷ついて欲しくないけど、君はそういう女の子だ。だから、脅されたら、言うことを聞くふりをしたらいい。それだけでも時間が稼げる筈だ。」
「時間を稼ぐ・・・」
「そう。そして、何か対策を考える。最悪思いつかなくても、時間を稼いで、脅している奴よりも、強くなるのを目指せばいい。僕の知っている桜花なら、そうすると思うし、きっと出来ると思う。」
龍馬にそう言われて、私の心に火が灯るのを感じた。
勇気という火が。
「ははは・・・ごめんね。ホントはすぐ助けに行きたいんだけどなぁ・・・遠く離れた所にいるから、まだ無理なんだよね。でもきっと帰るから。待っててね。」
あっ!そう言えば私がこの世界に来てるの言ってなかった!
「龍馬!あのね!」
「ん?って桜花の姿が透けてきている・・・やっぱり夢だったか。やけにリアルだったなぁ・・・」
段々と龍馬の姿が透けていく。
待って!まだ終わらないで!
「龍馬!私頑張る!だから勇気を頂戴!」
私はそう言って目を閉じる。
龍馬は苦笑して、
「僕の知ってる桜花は、そんなことしなくても、勇気100倍!の子だけど、僕もしたいからするよ。僕も勇気が欲しいしね。」
そうして二人の唇が重なる。
そのまま龍馬は消えていく。
「龍馬!頑張る!私頑張るからね!」
「僕も!頑張るよ!きっと戻るから!困ったら僕の名前を呼んで!心だけでも助けに行くから!」
そう言って龍馬は完全に消えた。
気づくと、目の前にはまた、セレス様がいた。
かなり辛そうに見える。
「・・・二人の夢を繋ぎました。もうこれで、私には力が残されていません。元気はでましたか?」
「セレス様ありがとう!私頑張れそうです!」
「そのようですね。先程と違って、ちゃんと口で会話出来ていますし。」
そう言えば、さっきはしゃべってはいなかったわね。
「それにしても、桜花さんの男性を見る目は、とても良いのですね。私は、彼があなたにした行動を、今、見させて頂きましたが、優しく受け止めて、しっかりと支えてくれていました。私が色々見てきた男性の中では、断トツですね。」
「・・・そうね。私の見る目は置いておいても、龍馬は、いい男だと思うわ。」
「彼は、きっとあなたを守ってくれますよ。どんな時でも。」
「私もそう思うわ。」
「うふふ。そのうち紹介してくださいね。」
「・・・それは拒否します。」
「あら、何故でしょうか?」
「セレス様は女性として、とても魅力的です。魅力的すぎますから。」
「ふふふ。ありがとうございます。」
セレス様も、そういう感覚があるのね。
「勿論です。私も女ですからね。」
絶対に、封印を解いてあげなきゃ。
そうしていると、セレス様の身体が、段々薄くなっていく。
「それでは桜花さん。辛い状況ですが頑張って下さい。きっと、なんとかなります。動くのは来月。ここだ!と思った時。いいですね?」
「わかりました。私、きっとセレス様も助けてみせます!」
セレス様はにっこり笑った。
そして私は目を覚ました。
目の前にはレーナの顔が。
泣き腫らした目をしている。
「レー・・・ナ」
「オウカ!?オウカ!ああ、目が覚めた!良かった!」
レーナはまた泣いた。
私の身体はまだ動かない。
レーナが落ち着くのを待って、あの後の顛末を聞く。
私を沈めてから、ペインは興味を失ったように、謁見の間を出ていったらしい。
豚野郎は、私の身体を一発蹴ってから、ペインの後を追ったようだ。
あの豚・・・いつかぶっ飛ばす!
レーナはそれを見て、ブチ切れて豚野郎を追おうとしたけれど、それよりも私を回復しなければと、すぐに私の身体を部屋に運んだそうだ。
王が止めたらしいけど、無視したみたい。
もう、レーナの中では、帝国は完全に信用出来なくなったようね。
とりあえず、まずは身体を治す。
そして、治している間に、セレス様に貰ったスキルを使えるようにする。
計画の日までには、使いこなせるのを目指す。
やれることは一つ一つ進める。
そうよね、龍馬!
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