第230話 火の元の国の混乱 sideタカミツ

「まだシンガンは戻らぬのか!!」


 儂はこの国の将軍である。

 ワグナとの打ち合わせから2日、未だシンガンが戻らぬ!


 予定では向こうからの先触れが、昨日には届いているはずなのに来ない。

 そしてシンガン自身も、もう到着しておらねばならぬ刻限だ。


「・・・まさかワグナどもに裏切られたのか?」


 そんな考えが浮かぶが、それはないと考え直した。

 シンガン達には真神教徒が共にしていた。

 奴らの薬は強力だし、ワグナどもにも必要なものだ。

 そう簡単に裏切るとは思えぬ・・・


 そんな事を考えていると、


「将軍!ご報告致します!!」


 家臣の一人が飛び込んできおった。


「来たか!?してどうなった!?」

「いえ、そうではありません!」

「何!?ではなんだ!!」


 儂の言葉に、家臣は顔を青ざめ口を開こうとするが、震えてなかなか言葉が出ないようだ。

 痺れを切らして怒鳴りつけようとしたところ、家臣は意を決したように大声で、


「ご・ご報告致します!!王竜以下数百の竜が火の元の国上空に現れましてございます!!」

「な・何!?」


 王竜だと!?

 まさかワグナめ!!

 しくじったのか!?


 ・・・まあいい。

 どうせ王竜は火の元の国に手を出さぬ日和見の竜だ。

 そう悪いことにはならぬだろう・・・


 そう考えた儂に大きな声が響いた。


『我は王竜グレイガルム。初代の王との約定によりこの国を見守るものなり。だが、此度、我を討とうとこの国の者が暗躍した事により、我が竜の里に大きな血が流れた。そして王ツカサは我と会おうとせぬ。これは約定に違えるものなり!よって我らはこの国を滅ぼす事にした!!』


 な、なんだと!?

 何故だ!!

 王竜は無用な殺生を好まぬ腑抜けではないのか!?


『我が初代と交わした約定、それはこの国の統治者が、国の安寧を願い、無用な戦争を起こすこと無く、民に笑顔を与える、そしてそれを見守って欲しいとのものであった。さらに初代はこう続けた。この国が約定を破り他国に戦争を仕掛けようとしたり、竜の里を裏切った時は国を滅ぼしてほしい』


 知らぬ!

 そんな約定など知らぬ!!

 

『これまで王はその約定を守り、常に民を考え国を治めてきた。だからこそ我ら竜の里は、外敵の排除をしていたのだ。今代の王ツカサもそうだ。しかし、このツカサから連絡が無くなり早30年程が経過した。その間にこの国は軍拡を進め、争いを起こそうとしている。そして今回の件だ。もはや捨て置けぬ!これより滅びを与える!!』

『『『『『『『GOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!』』』』』』

 

 数え切れぬほどの竜の咆哮が聞こえる。

 

 儂は愕然とした。

 いくらなんでもこれはどうしようも出来ぬ・・・


「将軍!いかがすれば!?」

「将軍!!指示を!!」

「将軍!」

「将軍!!」


 兵どもが一斉に儂がおる天守閣に押し寄せてきた。

 どうすればよいと言うのだ!!!


「うるさい!!」


 儂の怒鳴り声に兵どもは黙った。

 どうすれば・・・

 どうすれば・・・

 そうだ!


「者共!!腑抜けの王竜は口ではあのような事を申しておるが、どうせ恫喝にすぎぬ!!臆するな!!」


 この儂の言に、兵どもは困惑すれど納得しようと落ち着き始めた。

 よし!これでどうにか時間を稼げ・・・


 ドゴオオオオオオオオオオオオオ・・・ン!!!


 凄まじい轟音と共に、火の元の国の一角から凄まじい爆炎が上がっている。

 王竜を見ると口から煙が上がっていた。

 ブレスか!!

 というか・・・ほ、本気で儂の国を・・・?


『さて、これで我が本気だという事がわかったであろう。だが、お主らに一つだけ生き延びる方法を教示しよう。我の前に逆賊タカミツと軍部の幹部を連れて来い!!そして今代の王ツカサを連れてまいれ!!さすれば殺生は控えようではないか。刻限は今より中天に陽が登るまで。あまり時間は無いぞ。急ぐがよかろう。過ぎれば容赦なくこの国を消す。逃げる時間は無いに等しかろう。』


 な、なんだと!?

 陽を見ると時間的にはほんのわずかである事がわかる。

 とても逃げ出せる時間は無い!


「も、者共!!あのような言に心乱されるな!!」


 そう叫び周りを見る。

 しかしそこには・・・


「・・・将軍。投降して下さい。」

「将軍!もはやこれまでです!」

「民の為にも!!」

「将軍!」

「将軍!」


 鬼のような形相で詰め寄る兵たち。

 馬鹿な!何故儂が投降せねばならぬ!!

 ここまで!ここまで来たのだ!!

 これより火の元の国が世界を征服し、儂が統一王となるのだ!!


「馬鹿を言うな!そんなこと出来るか!貴様ら反逆するなら処刑するそ!」


 儂がそう叫んだ瞬間、兵たちは真顔になり、


「逆賊タカミツを捕らえろ!!」

「王竜の前に連れて行くぞ!!」

「乱心された!ひっとらえろ!!」

「おい!伝令!すぐに軍幹部も捕らえるよう触れをだせ!この国が滅ぶかどうかの境目だ!!急げ!!」

「き、貴様ら!何をす・・・おい!やめ・・・ぶっ!?」


 四方から兵が飛びつき抵抗しようとした儂を殴りつける。

 

 儂は何を間違えたのだろうか・・・

 そうしているうちに儂は意識を失っていった。

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