第185話 力の差
剣を抜き放ったウルトさん。
「で、どうするの?」
「切る!!」
ウルトさんは切りかかってきた。
躱す。躱す。躱す。
全ての切りつけを躱す。
最初は憤怒の表情だったウルトさんは次第に焦りの表情になっていった。
「くっ!?何故当たらない!?」
「そんな程度じゃグレイスの足元にも及びませんよ。」
躱し様にそう言うと、ウルトさんは驚愕して、
「グレイスを知っているのか!?」
と言うので、僕も真実の一端を告げる。
「ええ勿論。彼女は仲間であり弟子の一人でもありますから。」
「戯言を!!」
ウルトさんは更に切りつけを早めるが勿論当たらない。
「くそっ!!」
ウルトさんが距離を取る。
「さて、終わらせましょうか。」
僕は刀を取り出す。
「剣だと!?どこから!?」
「終わりです。」
僕は身体を前に倒して行き、顔が地面につきそうになった瞬間大きく一歩踏み出し、その勢いのままウルトさんの前に出る。
一連の流れは一瞬。
ウルトさんには僕が突然現れたように見えただろう。
「な!?はや・・・」
「遅い」
僕は剣を横薙ぎした。
「廻里流剣術 旋風」
これは歩法からの斬撃までの流れを業としたもの。
胴を横薙ぎされたウルトさんはその場に崩れ落ちた。
「ば・なかな・・・五剣姫が・・・王国の神姫が・・・」
「そんな・・・」
貴族たちは希望をへし折られたようで、絶望の表情をしていた。
逃げ出そうとするも、出口は既にアイシャ達が押さえていて出られない。
僕がちらりと王様を見ると、驚愕の表情と、面白いものを見つけたという興味を引いた表情がおりまざった顔をしていた。
食えない王様だなぁ。
全員打ち倒してから、指示を出した貴族の前に近づいていく。
「そんな馬鹿な・・・ひぃ・・・来るな!」
「つれないことを言いますね。あなたの指示でしょう?だったら責任を取らなきゃ。」
「責任だと!?貴様、俺は貴族で王の側近であるぞ!王国に弓を引くつもりか!」
腰砕けになりながらもそれらしい事を言っている。
でもね。
「良いですよ別に。僕たちは王国民じゃありませんから。僕たちを正当に評価し、もてなしてくれる国に行くだけです。ああ、行きつけの駄賃にここの部屋にいる全ての人を処分して、王国を潰してから行ってもいいですね。そこまでせずに王国の敵の国に行くのもありか。」
僕は殺気を出してその貴族に告げた。
そいつは顔面を蒼白にしてへたり込んだが、まだ心が折れていないようだ。
「そ・そんなことできるわけ・・・」
「出来ない、と思うのですか?出来ますよ別に。それで人に聞かれたらこう言うんです。僕は王城で理不尽に命を狙われた。だから王国は好きだけどもう住めない。その人は王の側近の一人の貴族で独断でやったらしい。恨むならそいつを恨んでね、と。」
そう言ってぐっと顔を近づけると、殺気もあってか涙目になっていた。
よし、止めを刺すか。
「それもこれもあんたのせい。どうするのこれ。王様の顔にも泥を塗っちゃったよ。どうやって責任取るんだろうね。たった一つの冒険者のパーティーに近衛兵は全滅。王国が誇る五剣姫も敗北。他の国からは良い笑いものだね。あんたが偉ぶりたいだけで引き金を引かなかったら僕は話をするだけで良かったのに。残念だなぁ。」
「そ・そんな俺は・・」
「ねえ。そこのあなたもそう思うでしょう?この人普段から偉そうにして横暴にしてない?」
僕は近くにいた貴族に話を振る。
その貴族は蒼白にした顔面をキョロキョロした後僕を見て、
「そ・それは・・・」
「それは?何?もしかしてあなたもこの人側?・・・僕の敵?」
「ち・違う!!儂は敵ではない!!そうだ!この男は王の側近だと言うことを良いことに横柄な態度を取っていたぞ!」
「き・きさま!」
側近の男は顔を真赤にして怒る。
そんな場合じゃないのにね。
こうして、責任のなすりつけ合い・・・というか公開裁判が始まった。
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