第177話 獣 sideアイシャ

 真神教徒の二人が何かでかい狼の獣を召喚した。

 かなり強そうだが、あたしとメイなら問題なさそうだな。


「お姉さま。」

「ええ、さあこれをお飲みなさいベヒロス。」


 そう言って、獣の口に魔狂薬を放り込む。

 すると、途端に獣は苦しみだしたが、それが治まると凄まじい魔力を放出し始めた。


 こりゃやべぇな・・・気合入れてかねえと!


「うふふ、ベヒロス。そこの獣とエルフを蹂躙なさい。」

「そうよベヒロス頑張ってね。」


 そう言って真神教徒の二人は距離をとった。

 あの獣の相手をしながらあいつらの相手はきちいな。


「メイ、まずはあの獣を倒すぞ。」

「うん。わかってるよお姉ちゃん。」


 あたしは魔力を集中させて一気に獣の鼻面に飛び込む。

 オオカミ型の獣だ。

 急所の鼻を思い切り蹴っ飛ばしてやるぜ!


「おっらああああああぁっっ!!」


 あたしは足を振り抜くと蹴りは空を切る。

 そこには獣の姿はない!?

 まじか!!


「お姉ちゃん!!」

 

 メイがあたしの後ろに土魔法で地面から棘を生やすと、いつのまにか後ろにいた獣が飛び退るのが見えた。


 はえぇ。

 後ろにつかれたの見えなかったぜ。


 獣は口からメイに向かって魔力を飛ばす。

 メイは魔力障壁でその魔力を散らしている。

 表情を見るに余裕はなさそうだ。


「なめんな!」


 あたしは身体強化を全開にして獣につっこむ。

 魔力を飛ばしていた獣は跳躍して躱す。

 あめぇ!!

 

 あたしは空歩を使って追いすがると獣の目が見開かれるのが見えた。

 空中なら空歩を使えない限り逃げ場はねぇぞ!!

 食らいやがれ!


「集転剛脚!」


 リョウマから教わった気の概念、これを足裏に集中させ、身体を捻るようにしてそのでかい図体の腹に打ち込む。


「ギャン!?」


 獣が悲鳴をあげた。

 蹴りの衝撃で獣と距離が出来た。

 だがまだだぜ!


「狼牙爆影脚」


 あたしは逆の足に、魔力を蹴り足にのせて衝撃波を飛ばす。

 獣に命中した。


 獣は吐血し地面に落ちたがすぐに起き上がる。

 

「メイ!」

「水よ、風よ、嵐を起こせ、力の渦よ、敵を飲み込み殲滅せよ!『ストームボルテクス』!」


 詠唱と共に、メイの両手から凄まじい風が放たれ、突き出した両手を視点に渦を巻く。

 その渦は獣に近づくにつれ大きくなりその巨体を飲み込んだ。

「グオオオオオオォォォォン・・・」


 大きな獣の叫びが聞こえ、その声は段々小さくなっていく。

 声が聞こえなくなった時、メイの魔法は終わり風がおさまると、そこには消えていく獣の姿が。


「嘘・・・でしょ?」

「お姉さま!逃げなくては!お姉さま!?」


 あたしは振り返って逃げ出そうとする二人の前に先回りし、メイと挟み撃ちにした。


「逃げられると思ってんのか?」


 そう言って一歩前に踏み出すと、敵の二人はお互いに手を合わせて、覚悟を決めた表情をした。


「お姉さま・・・」

「愛しているわ・・・神ヴァリスに栄光あれ!!」


 そして魔力が爆発的に大きくなる!!


「お姉ちゃん!!自爆するつもりだよ!!メイの後ろに!!」

「くっ!?」


 急いでメイの後ろに戻る。

 メイは分厚い土壁を三枚作り出した後、魔力障壁を全開にしている。

 戦巫女の3人も後ろで障壁を張っていた。


 爆発、そして轟音。

 土壁が砕け散る。

 土埃が止んだ後、周囲を見回すと真神教徒のいた所を始点に円状に更地になっていた。

 危なかったぜ・・・


「はあ・・・はあ・・・」


 メイもエルマ達も肩で息をして膝をついていた。

 周囲には気配は無い。

 あたし達の勝ちだ。


 でも自爆までするなんてな・・・恐ろしい敵だぜホント。

 

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