第166話 エルマの事情(2)


「私達エルフは長命な種族です。高齢の長老に至っては、現在1000歳とも言われています。」


 1000歳・・・とすると、ジードが封印された時に生きていた可能性があるのか・・・


「私達エルフは自然と共に生きています。ですので、その生活は清貧と言ってもいいと思います。しかし、少し前にある人族達が尋ねて来ました。基本的に私達エルフ族は人族と交流を持ちません。排他的である私達の懐にその人族達は潜り込み、私達に娯楽や着飾る楽しみ・・・異性とその・・・行為をする等の快楽を教えて行きました。」


 ちょっと照れくさそうに話すエルマさん・・・可愛いなぁ。


「その行動自体にエルフとして思う所が無いわけではありませんが、私達も好き好んで清貧にしているわけではありません。あくまでも、森の恵みで生き、森を管理し、墓所を守る、そのような生活であると、どうしても余分なものが無くなり、清貧になってしまうのです。」

 

 エルマさんは今度は少し俯いて話す。


「しかし、快楽というのは恐ろしいものです。清貧を常にしていたエルフ族も、そのあり方に疑問を抱く者達が出てきました。特に若い世代を擁する戦士たちです。戦士たちはその人族の者たちから話を持ちかけられました。墓所の遺跡を明け渡して欲しいとの事でした。その代わりに恒久的に娯楽なんかを支援すると。戦士たちで話し合いが行われ、その要求を飲もうという結論になりました。しかし、これに待ったをかけたのが長老と私達巫女です。」


 エルマさんは顔を上げた。


「話し合いは長時間に渡りました。しかし平行線で結論が出ません。そのうち戦士たちは、私達巫女や長老たちがエルフ族を駄目にしていると言い出しました。そして武力行使に出たのです。」


 エルマさんの目には深い悲しみが宿っていた。


「長老と巫女達は戦士たちに幽閉されました。私は、巫女の中でも特殊な戦巫女という職についています。その仕事の中には、墓所の鍵と言われる首飾りの管理も含まれていました。この首飾りがないと墓所には立ち入れない結界が張ってあります。私は絶対に渡すわけにはいかないと、なんとか切り抜けここまで逃げて来たのですが、追手に追いつかれてしまったという訳です。」


 なるほどね・・・エルフ族の戦士の暴走が引き起こしたのか・・・

 ・・・しかし、その人族達・・・まさか・・・


「これで私の話は終わりです。後は・・・えっとリョウマ様で良いでしょうか?リョウマ様のご判断に委ねます。」


 僕の判断はもう決まっている。

 ジードの事も絡んでいるからね。


 僕はアイシャとメイちゃんを見る。

 二人は力強く頷いた。


「わかりました。では決断の前に一つだけ教えて下さい。エルマさん達エルフ族にとって魔神とはどのような存在なのでしょうか?」


 僕がそう言うと、エルマさんは僕を見て、


「・・・魔神はこの世の全てを滅ぼすもので、過去の大戦で全ての種族と勇者が一丸となって倒し、封印したと伝わっています・・・・が、私達エルフ族にはもう一つ異なった伝承が伝わっています。それは、魔神が実は悪ではなく、どちらかと言うと善良な者であったが、その影響力を神が恐れた為に倒されたと言うものです。事実、長老は魔神と直接面識があり、種族総出で討伐に出た時、止めたが取り合えって貰えなかったと言っていました。皆魔神を慕っていたのに、上層部が操られたように意見を変えなかったと。ですから、私達巫女は、魔神を敬うため、墓所の管理をしているのです。悪印象はありませんよ。」


 そう言った


 決まりだね。


「決めました。僕はあなたを・・・エルフ族を救います。戦士の暴走を止めましょう。」


 僕がエルマさんに笑いかけそう言うと、エルマさんは涙を流しながら笑顔で、


「ありがとう・・・ございます。リョウマ様に感謝を。」

「それは全てが終わったら受け取りますね。アイシャ、メイちゃん手伝ってくれる?」

「おう!当たり前だぜ!」

「メイも頑張るよ。」

「アリオスさん、イリーナさん、ケーラさん、すみません。お供しますので、少しだけ森の外の拠点に戻って頂けませんか?拠点を作るのでそこで待機して・・・」


 僕がそこまで言いかけると、アリオスさんとイリーナさんが怒った顔で、


「「待った(待って)」」


と言った。


 そして、二人で顔を見合わせ頷いた後、


「僕もメイビスの家の者として、今の話を聞いて放置しておけない。僕も手伝うよ。君が何を言ってもね。」

「そうですわ。幸い私もアリオスもそこらの兵士よりもずっと強いですし、ケーラもいますわ。それに、今の話を聞いて助けたいのはわたくしも同じですわよ。ね、ケーラ。」

「・・・本心を言えばお嬢様には危険な事はやめて頂きたいですが、ここで前に出てこそ私が忠誠を誓ったお嬢様とも言えます。私も尽力させて頂きます。」」


 と言った。


 僕は苦笑いをして了承するしかなかった。

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